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シエナ・ミラー:演技派と認めてもらえなかったのは「私がおしゃれで、セレブ男と付き合っていたから」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
スタイルアイコンで知られたシエナ・ミラーは、今や35歳のシングルマザー(写真:Shutterstock/アフロ)

今から12年か13年ほど前、シエナ・ミラーは、頻繁にメディアを賑わす若手セレブだった。

映画出演の実績はまだそれほどなかった20代初めの彼女は、演技力よりも、独自のファッションセンスや、当時やはり注目の的だったジュード・ロウとの熱い恋愛で名前を知られる。その恋は、波乱万丈だった。ロウは、前妻との間にもうけた子供の世話をする子守り係の女性と不倫。マスコミに暴露されると、彼は公にミラーに対して謝罪をするが、実はミラーのほうも、ロウの友人であるダニエル・クレイグと関係を持っていたことが後になってわかる(当時クレイグにも恋人がいて、ふた組のカップルは友人づきあいをしていた)。さらに、既婚者で大富豪のバルスザー・ゲティとも不倫関係に陥り、ゲティは離婚に追い込まれている。

2012年、トム・スターリッジ(『パイレーツ・ロック』)との間に娘をもうけてからは、そういった過去の行動を後悔するような発言をし、自分は変わったと主張してきた。スターリッジと2年前に破局し、シングルマザーとなった彼女は、今、子育てを最大優先していると語る。近年、「フォックスキャッチャー」「アメリカン・スナイパー」など、オスカー候補入りする作品に出演してきたが、出演時間が短く、子育てとのバランスが取りやすいのも魅力だったとのことだ。ベン・アフレックが監督と主演を兼任する最新作「夜に生きる」も同様。彼女が演じるエマは、主人公ジョー(アフレック)を溺れさせる危険な女。出番は少ないが、ストーリー上、非常に重要な役柄である。今作のために、ミラーは、ボストンのアイルランド系に特有な訛りをマスターし、外側からも、内側からも、役になりきって挑んだ。

今年はまた、ロンドンで「焼けたトタン屋根の猫」の舞台に出演することも決まっている。「今、私は、優れた監督、才能あふれる共演者と仕事をさせてもらっている。それはまさに役者としての目標だったの」と、現在自分が置かれた状況への満足を見せる一方、若い頃は偏見を持たれていたとの不満もちらりと見せる。

だが、”恋多き女”の肩書きも、完全には捨てていない様子だ。最近もまた、ゴシップネタを提供したばかり。今度の相手は、なんとブラッド・ピット。35歳、一児の母になっても、モテぶりは変わらずと言ったところか。そんなミラーに、「夜に生きる」や今の人生、これからについて、彼女の住むニューヨークで話を聞いた。

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ベン・アフレックが「夜に生きる」の話を持ちかけてきたのは、ずいぶん前だったそうですね。

3年くらい前だったんじゃないかしら。ベンは忙しくて、休みなく映画に出ているから、予定が動きまくったのよ。彼は監督作「アルゴ」でオスカー作品賞を取ったばかりだったし、声をかけてもらえた人たちはみんな「お願いします、私も入れてください」って感じだったと思うわ。私もそうよ。彼は監督としてはもちろん、脚本家としても優秀。撮影開始が延期になったせいで、リサーチにかけられる時間がたっぷりできたのは、ある意味プラスだった。リサーチは、私が映画作りで一番好きな段階なの。今作のためには、文学、写真、記事など、多くのものに目を通した。禁酒法時代のボストンというのは、歴史の中でも、とても興味深い部分だと思うわ。

今作では、メイクも衣装も独特。大変身した姿でスクリーンに登場します。

今回のメイクアップアーティストのケイト・ビスコーとは、「ファクトリー・ガール」でも組んだの。私たちはお互いを良く知っている。20年代のメイクは、すごく極端で、はっきり言ってひどいものだったのよ。まるで仮面みたいなの。そういう顔になるのは、気にならないわ。役に入って行きやすくなるから、むしろ歓迎。どんな役の時も、私はできるだけ自分自身と違って見えるのを好むの。観客に「ああ、シエナ・ミラーが出ている」と思われたくないもの。髪を切るのも染めるのも平気よ。老けメイクもね。エマは、最高に美しくあろうとしているんだけど、どこかずれている。貧しい子が頑張っている感じ。それを衣装とメイクで表現した。衣装はすべて、当時のヴィンテージなのよ。下着までそうなの。私はそもそもヴィンテージが好きなので、嬉しかったわ。靴は、すごく履き心地が悪かったけど。

エマはまさに“夜に生きる”人ですが、今のあなたは?

母になったら、選択肢はないわよ(笑)。子育ては、24時間。それは、作品選びにも影響してきているわ。ここ数年、私は、良い映画に出してもらえてきた。でも、それぞれ、3週間くらいしか仕事をしていないの。今作で私が稼働したのは16日間だったし、「アメリカン・スナイパー」も20日くらい。優れた映画だけれど、私の出番は少ないの。それでも、娘と離れることに罪悪感を覚えるわ。娘が学校に行き始めたら、もっと大きなことをやれるかもと思っている。自分の住んでいる街でなら、という条件付きだけどね。夏にはロンドンで舞台に立つのよ。それは、子育てとの両立上、むしろ楽。お芝居は夜で、昼は自由にできるから。

今のところ、子育てとキャリアをうまく両立できてきていると思う。娘はまだ学校に入る前で、ロケ地に連れて行けるし。そうやって、いろいろ違うところを見せてあげられるのは、良いことだと思うのよね。とは言え、助演ばかりやっているとそこに閉じ込められてしまうし、自分で企画を立ち上げてプロデュースしたりしないと、とも思うわ。

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「フォックスキャッチャー」「アメリカン・スナイパー」は、オスカーにノミネートされた作品です。助演であれ、そういった映画に出るようになった今、業界からもっと認められたと感じていますか?

私は24歳の時にインディペンデント・スピリット賞にノミネートされたのよ。最近、突然にして演技が上手くなったわけではないの。これまで誰もそこを見てくれなかっただけ。私がおしゃれで、有名な男性と付き合っていたせいでね。この業界には、そういった先入観が存在する。私は元から演技派だったのよ!なのに、子供を生んだと聞いたら、「シエナ・ミラーってちゃんとした役者じゃないか」となったわけ。前からそうなのに!

ハリウッドにおける男女不平等については、ここのところ多くの論議が交わされてきています。あなたも強い主張をしてきているひとりですが、何らかの進化は感じていますか?

そうね。道のりは長いけれども、そういう論議が起こったことだけでも進化よね。スタジオも、そういうことを意識するようになったと思う。男優はそんなことをいっさい考えないわけだし、不平等がまだまだあるのは確か。でも、少なくとも、今、私たちは、そのことについて話をする段階になった。それは良いことだわ。

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「夜に生きる」は20日(土)より日本全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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