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これって訴えられること?ハリウッドセレブが直面した意外な訴訟

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
本人不在時に自宅で開かれたパーティ中に事故が起き、訴訟されたデミ・ムーア(写真:Shutterstock/アフロ)

デミ・ムーアのウエストハリウッドの自宅で21歳の男性が事故死したのは、2015年7月のこと。

ムーアが不在だったその夜、彼女のアシスタントがプールサイドでパーティを主催し、何人かの若者たちが集まって、酒を楽しんだ。エデニルソン・ヴァレも、招待されたひとり。そこにいた人々の多くがプールサイドを去った後、泳げないと言っていたヴァレが、プールで溺れ死んでいるのが発見される。当時、ムーアは、「大きなショックを受けています。その時、私は娘たちに会うために、国外にいました。こんな悲劇が起きたことが信じられません。ご家族の皆様の心中をお察しいたします」と、声明を発表した。

まもなく ヴァレの両親は、パーティを主催したムーアのアシスタントと、もうひとりの人物、およびこの不動産を所有するトラストを訴訟。だが、事故から2年近くたつ西海岸時間5日(金)、彼らは被告にムーアを加えた。理由は、深さが10フィート(約3メートル)あるのに、プールに深さの表示がなかったこと、プールサイドに石があり、誰かがつまづく可能性がある状況だったこと、プールの水が暖かすぎたことなどである。

この報道が出てから、ソーシャルメディアには多くの意見が飛び交っているが、「こうなると思っていた」「御愁傷様です。が、彼は21歳、成人だったのですよね?そして自分が泳げないと知っていたのですよね?」「望んだお金が取れなかったからこの手に出たわけか」「訴訟するのは勝手。でも勝つとは限らない。弁護士代を払って終わりになるのでは」といったような、ムーアを弁護するものがほとんどだ。

お金があると思われているセレブは、訴訟に巻き込まれる確率も高い。中には、訴えられてもしかたがないというケースも、それはないのではと思われるケースもある。ここではいくつかの例を振り返ってみるが、

ミラ・クニス:子供の頃、鶏を盗まれた

ウクライナ出身のクニスは、7歳の時に家族と共にアメリカに移住した。その頃のご近所さんで、現在L.A.で歌手を目指しているクリスティーナ・カロから突然訴訟されたのは、2015年4月のこと。 ウクライナに住んでいた時、自分が可愛がっていたドギーという名の鶏をクニスが盗んだというのが 理由だ。当時、クニスは罪を認め、「あなたの農場ではほかにもたくさん鶏を飼っているんだから、いいじゃない」と言ったと、カロは訴状で述べている。古い話ではあるが、自分も彼女と同じL.A.に住むようになったことで、当時の傷がよみがえり、心を癒すためにセラピストに通うはめになったと、カロは、クニスに5,000ドルの損害賠償を求めた。

クニスと夫のアシュトン・カッチャーは、すぐさま応戦する映像をネットに投稿。ビデオの中で、ふたりはカロが自分のミュージックビデオを出したタイミングでこの訴訟を起こしたことを指摘した。クニスは、「あのひどいミュージックビデオを見せられたせいで目が痛くなったので、私は彼女に対し、5,000ドルの損害賠償を求める訴訟を起こします」と述べている。

2ヵ月後、カロは、セラピストに説得されたとして、訴訟を取り下げた。「判決を出せるのは神様しかいないと思いました。私は、クニスとドギーのために祈ります。ドギーが鶏の天国で安らかに過ごしていることを願います」と、カロは、考えを変えた理由を語っている。

エリザベス・テイラー:ゲイじゃないせいで解雇された

テイラーと、彼女の執事を務めるフランス人男性が性的関係にあることは、使用人の間で知られていた。だが、この執事は、2002年のある日、彼女の庭師を務める男性の局部を触り、「君のことが好きだ」と言う 。庭師が拒否したところ、それからまもなく、もらうべき給料をもらえないまま、解雇を言い渡された。 給料をもらえなかった理由について、テイラーの秘書が「あなたはほかの使用人たちと違ってゲイじゃないから」と言ったとして、庭師は2003年、テイラーと執事を、差別、セクハラ、不当解雇、契約違反で訴訟。当時、テイラーの弁護士は、庭師によるまったくの作り話だと語っている。

裁判で解決されるはずだったが、その前に両者の間で示談が成立した。条件は公表されていない。

サシャ・バロン・コーエン:彼が言うセリフのせいで気絶し、ケガをした

コーエンが別人物になりすまし、一般社会で行動しては人々の反応をとらえる偽ドキュメンタリー映画「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(2006)は大ヒットしたが、 そうとは知らずに映画に登場することになった人々から、さまざまな訴訟を受けることになった。それらの中には納得がいくものも多かったが、同じパターンの次の作品「ブルーノ」(2009)で起きたある訴訟は、事情が違う。

問題となったのは、最終的に映画からカットされた、ビンゴゲームのシーン。この時、居合わせた一般人は、ドキュメンタリースタイルのコメディ映画が撮影されることを知らされており、映画の中に自分が映ってもいいとの承諾書にサインをしている。しかし、このビンゴを主宰する女性は、ゲイのキャラクターになりすましているコーエンのセリフに不快感を覚え、途中でコーエンに退場を命じた。さらに、この一連の出来事がショックで 意識を失い、脳内出血をしたとして、コーエンを訴える。

しかし裁判所は、言論の自由を主張するコーエンとユニバーサル・ピクチャーズを支持。女性は上訴したが、結果は同じだった。裁判長は、 ユニバーサルがこの裁判のために費やした弁護士代を女性が支払うことも命じている。

ジェニファー・ロペス:衣装とダンスがセクシーすぎる

ほとんど裸のような服でレッドカーペットに現れるのは、J-Loのトレードマーク。アメリカでは普通のことが、保守的なモロッコで、大問題になった。

2015年、モロッコでのライブに、彼女は、いつものように肌を見せる衣装で現れ、セクシーなダンスを披露。だが、このライブの模様がテレビ中継されると、「女性の品位を貶める行為」と政府や教育関係者は激怒し、彼女を訴訟する。有罪判決が出た場合、懲役は最長2年だが、ロペスがモロッコに足を踏み入れないかぎり、 その可能性はないと言うのが現実だ。ロペスは過去にもモロッコでライブを行っていたが、訴訟されたのは初めて。テレビで中継されたのが問題だったようである。

2014年には、マイリー・サイラスが、メキシコでのライブ中、セクシーすぎるパフォーマンスをした上、バックアップダンサーに自分のお尻をメキシコの国旗で叩かせて、メキシコ政府から罰金の支払いを要求されるという出来事も起こっている。ロペスのモロッコライブとサイラスのメキシコライブは、もはや期待できなそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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