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「バーニング・オーシャン」監督:「正しい映画になったかどうかは、遺族のための特別試写ですぐわかる」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今や名コンビとなったピーター・バーグ監督(右)とマーク・ウォルバーグ(写真:REX FEATURES/アフロ)

メキシコ湾岸で大量の原油が流出するという大事故が起こったのは、今からちょうど7年前。当時は、環境への悪影響を懸念する報道のほうが目立ったが、その時に起こった大火事のせいで、11人の男性が命を落としている。

ピーター・バーグ監督とプロデューサー兼主演のマーク・ウォルバーグが、この実話を語る「バーニング・オーシャン」を作りたいと 連絡を取った時、「また石油で汚れたかわいそうなカモメについて語るのか」と、しらけた反応をする遺族は、少なくなかった。2005年にアフガニスタンで米国兵士が直面した事態を描く「ローン・サバイバー」でも組んだふたりは、そんな彼らを、「そうじゃなくて、亡くなった方々に敬意を捧げるための映画を作るんです」と説得している。映画が完成した時には、彼らだけのために、ニューオリンズで特別の試写会も開いた。

今作の直後、ふたりは、ボストンマラソン爆弾テロ事件を描く「パトリオット・デイ」の撮影に入っている。近年に起こった惨事を生き抜いた普通の人々の勇気をたたえるアクションスリラーは、このコンビのブランドになってきた感じだ。

しかし、そういった映画に挑むのは、容易なことではない。どんな映画であっても、作るのは大変だが、記憶に新しい悲劇に立ち返るものとあれば、特別の配慮が必要とされる。今作では、事件の原因を作った大手エネルギー会社BPが、多額の和解金の条件として、遺族に口止めを言い渡していたという障害もあった。それでも今後もウォルバーグと組んでこの手の映画を作り続けるとバーグに、その思いと、今作の苦労話を聞いた。

現場でキャストを監督するバーグ(左)
現場でキャストを監督するバーグ(左)

この事件で命を失った人々の遺族を、どのように説得したのですか?

僕は、11人の遺族全員に連絡し、自己紹介をして、自分がどうしてこの映画を作りたいのか、なぜこれはあなたたちが誇りに思う映画になるのかを説明しようとした。これは、あなたが 「あなたのおじいちゃんはこういう人だったのよ」「私の夫は、こんな人だったんです」と言って、見せてあげられる映画になるのだと説得したよ。マーク(・ウォルバーグ)が演じるマイク・ウィリアムズとも話したし、カート・ラッセルが演じるジミー・ハレル、ジーナ・ロドリゲスのアンドレア・フレイタスにも、話したいと電話をしたが、BPが巨額の和解金を払うにあたり、あの事件について語らないことを条件にしていたせいで、話を聞かせてもらえないということにも直面した。僕らが映画を作ること自体に反対はしなくても、話はできないんだ。

それでも、遺族やあの事件を体験した人たちが撮影現場を見学したいと言ったら、僕はいつでも歓迎した。僕は必ず挨拶をしたよ。映画が完成した時には、真っ先にニューオリンズで彼らだけのための試写を組んだ。そういうつながりをもつことは、僕にとって、何よりも大事だ。「ローン・サバイバー」でも、それはやったよ。自分が正しい映画を作ったのかどうかは、その時にすぐわかる。批評家や一般観客が本当にどう思ったのかは、わかるのに少し時間がかかったりするが、遺族はそうじゃない。その場でわかるよ。彼らが涙をこぼすのを見た時、僕は最高のご褒美を得たと感じる。これこそ、僕が求めていたものだったんだと。その思いが僕を現場で一生懸命にさせるし、またこんな映画を作りたいとも思わせる。

映画ではジョン・マルコビッチがBPのスーパーバイザー、ドナルド・ヴィドリンを演じ、彼の責任について語られます。BPは何か言ってきましたか?

このプロジェクトについて知った時、BPは僕らとまるで話さないという態度に出た。ルイジアナの関係業者にも手を回して、僕らと話をさせないようにしたよ。彼らだって、あんな事故を起こすつもりはなかった。それはわかっている。ただ、愚かで欲まみれだっただけだ。

BPのスーパーバイザーを演じるジョン・マルコビッチ
BPのスーパーバイザーを演じるジョン・マルコビッチ

あの時は、石油掘削の作業が遅れていて、損失が出ていた。だからトップの人間は、現場で作業をしている人々にプレッシャーをかけた。それが間違いにつながった。ビジネスを経営しているのだから、お金を稼ぎたいと思う権利はある。だが、お金のことばかり考えていると、大きな問題が起こる。短絡的にならず、時間をかけて解決しようとする態度が大事だと、僕は思う。

今作には、爆発、大火事、水がからむスタントなど、大がかりなアクションがたくさんあり、スペシャルエフェクトも多く使われています。さらに、一番大事な人間ドラマの要素があります。こういった映画に、あなたはどう挑んだのですか?

こういう映画を作るのは、七面鳥を丸々一匹焼いたものを目の前に出されて、「さあ、全部食べてください」と言われる感じなんだよね。もちろん、そんなの無理だ。だが、一口ずつ食べていけば、いつかはなくなる。一日では無理だけど、そのうちに。そういうものだよ。僕は、エフェクトもアクションも、前にやっているからわかっている。それらをいっぺんにやるのではなく、優秀なクルーを使い、組織立った形でこなしていくまでのことだ。

それに、大事なのは爆発じゃない。大爆発を撮影し、現場にいた200人のエキストラや、大勢のクルーから拍手が湧き上がり、自分でも「これはすごかった」と思っても、編集室で見直したら、「なんだ、ただの爆発じゃないか」と思ったりすることがある。 どうせマイケル・ベイにかなう爆発はできないんだし(笑)、そこに気を取られていてはだめなんだ。アクションをやりながら人間ドラマを展開することは難しいが、それでも、観客に「すごい爆発だな」ではなく、「ああ、あの登場人物は大丈夫だろうか」と思ってもらえないといけない。

あなたとマーク・ウォルバーグは今や最高のコンビですね。あなたたちが組み続けるのはなぜですか?

僕は、普通の男の話に興味がある。スーパーヒーローではなくて、毎朝、妻と子供に「行ってきます」と言って家を出て、ちゃんと仕事をこなし、帰宅する人。マークには、そういう地に足がついた部分がある。

主人公マイク・ウィリアムズを演じるウォルバーグ
主人公マイク・ウィリアムズを演じるウォルバーグ

それに、僕らは真の友人になった。映画を監督させてもらえるようになったばかりの頃は、そのこと自体がうれしくてたまらないから、どんな条件でだってやるものだ。でも、幸運にも次を、そしてその次も作らせてもらえ、キャリアを築けるようになっていくと、自分が本当に好きな人たちと一緒にやりたいと思うようになる。僕とマークの間には友情と信頼があるから、思うことを正直に言っても、お互いを傷つけることがない。何かが良くないと思ったら、はっきり言うまでのこと。そのおかげで、より良い映画ができると僕は思っている。結婚みたいなものかな。次々に相手を変えるのではなく、ひとりの人をより良く知って、満足のいく関係を築くのが結婚というものだよね。これからも、僕らは、お互いを高めていきたいと思っているよ。

「バーニング・オーシャン」は21日(金)全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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