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シュワルツェネッガーとトランプの友情が 「僕が彼に投票しなかったせいで壊れた」は本当か?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
シュワルツェネッガーとトランプは数十年来の友達だった(写真:Shutterstock/アフロ)

ドナルド・トランプとアーノルド・シュワルツェネッガーの仲違いが続いている。

元カリフォルニア州知事のシュワルツェネッガーは、アメリカ時間5日(水)、CNNに出演し、トランプを強く批判した。司会者のヴァン・ジョーンズも、反トランプ派。 トランプ政権が作成した予算で子供たちのための予算が削減されたことをどう思うかと聞かれると、「州知事として、僕も予算には頭を悩ませたものだよ。だが、どこをカットするかを決める上で真っ先に子供のためのプログラムを選ぶのは、間違っている。彼はアメリカをまた偉大にすると言ったが、子供を犠牲にすることは、それにまったくつながらない。僕は自分でトランプにはっきりそう言った」と述べ、ワシントンDCを訪れて抗議するつもりであるとも語った。

シュワルツェネッガーはまた、トランプが石炭を復活させようとしていることにも言及。長年の友人であったにも関わらず、自分がトランプに投票しなかった理由はそれだとも明かしている。

「僕らは何十年も友達だったんだよ。僕がカリフォルニアの州知事選挙に出ている時は、キャンペーン資金を出してあげようとまで言ってくれた。カジノから来ているお金だから、受け取れなかったんだが。ギャンブルのお金は、受け取れないんだ。僕らは良い関係にあった。それが崩れたのは、僕が彼に投票しなかったからさ。周りの人にも彼に入れるなと言った。そのことは本人にもいったよ。 彼が石炭を復活させると言ったのが理由。州知事時代、僕は環境のために大きな努力をしたんだよ。世界では、毎年700万人が、環境汚染のために死んでいるんだ」と言うシュワルツェネッガーは、それでも、彼が選挙に勝った時は、「電話して祝福した」とも付け加えた。

実際、選挙中、シュワルツェネッガーは、同じ共和党ではあっても、トランプを表向きに支持してきてはいない。とは言っても、この発言は、やや疑問を感じさせる。今年1月に放映開始したリアリティ番組「The New Celebrity Apprentice」で、シュワルツェネッガーはトランプから主演を譲られたのだが、その時点では、少なくとも公に対して、トランプを批判することはしていなかった。トランプがエクゼクティブ・プロデューサーの肩書きを残そうとしていることから、現役の大統領がテレビ番組から収益を得ていいのかと大きな批判が起きた時も、彼は「問題ない」と、事実上、トランプの味方をしている(現役大統領がTVのプロデューサーを兼任していいのか。シュワルツェネッガーの意見は「問題ない」)。それは12月のことだ。

彼らの仲に問題があるとわかったのは、放映が開始し、トランプが就任した後になってから。2月、トランプは、国家祈祷朝食日という、国家のために祈る毎年恒例の真面目な行事で、「僕の番組は大成功していましたが、大統領になったので辞めなければいけなくなりました。それで、大物映画スターであるアーノルド・シュワルツェネッガーを雇いました。その結果どうなったかは、ご存知ですよね?視聴率は凋落。最悪です。アーノルドのために祈りましょう」と演説し、世間をあきれさせている。シュワルツェネッガーは即座にツイッターで反撃。「国家祈祷朝食日で言ったの?」との文面とともに投稿された映像で、「ドナルド。良いアイデアがあるよ。仕事を取り替えっこしない?君は視聴率を稼げるんだから、テレビをやる。そして僕が君の仕事をやる。そうすれば、僕らはゆっくり寝られるようになるんじゃない?」と、トランプに語りかけた。この投稿には20万近い「いいね」が押されている。

番組の視聴率はその後も低迷を続け、第1シーズン終了を機に、シュワルツェネッガーは、次のシーズンには復帰しないと宣言した。 その理由について、シュワルツェネッガーは 、 「トランプがまだエクゼクティブ・プロデューサーで、すなわち番組から利益を得ていることを、人は良く思っていない。アメリカの半分が、番組をボイコットした。アメリカは今、真っ二つに分かれていて、番組はそこに巻き込まれてしまったんだ」と語っている。彼はCNNでも、「トランプがエクゼクティブ・プロデューサーだと自分で言わなければ、番組は成功しただろう。(彼がそう言ったから)広告主は離れ、視聴者も離れた。みんな奴が嫌いなんだよ。だから、僕はもうあの番組はやらないと言ったのさ」と述べた(カワサキモータースUSAも、トランプを理由にスポンサーを降りている)。それに対し、トランプは、ツイッターで、「アーノルド・シュワルツェネッガーは自分で辞めたんじゃない。視聴率がひどすぎてクビにされたんだ。良い番組がこんなふうに終わって残念」と反撃した。

だが、トランプにシュワルツェネッガーをバカにする権利はない。トランプの支持率は3月20日時点で37%。就任当初から過去最低の支持率だったが、それからますます下がっているのである。トランプの公約だったオバマケア(オバマが実現した、国民皆健康保険)撤廃も、共和党内ですら合意が取れず、当面、あきらめる形になっている。6カ国に対する入国禁止の大統領令も裁判所でストップされ、強引なやり方で自分の思うとおりにしようとするトランプの思惑は、困難にも直面している。

シュワルツェネッガーがトランプに「僕は君に投票しない」と言ったのは、本当かもしれない。だが、ことの経緯を見る限り、もっと大きな原因は、番組にあったとに思われる。トランプが儲かる仕組みになっていることから、局がバッシングを恐れて宣伝に力を入れなかったという現実もある。これは、そもそもが間違ったプロジェクトだったのだ。そんなもののために、何十年もの友情が壊れてしまうことになった。もっとも、トランプにとっては、金を生まない友情などどうでも良いのかもしれないが。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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