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ファッションアイコンのミシェル・オバマ、デザイナーにボイコットされるメラニア・トランプ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
現在発売中の米国版「Vogue」

次期大統領ドナルド・トランプが毎日のようにアメリカに新たな不安を投げかける中、メディア、エンタテインメント、ファッション業界は、些細かもしれないひとつのことを憂えている。ファッションアイコンであるミシェル・オバマの退任だ。

オバマ大統領就任直後から、妻ミシェルのファッションは常に注目され、絶賛を浴びてきた。着た服が瞬時にして売り切れるほどの影響力をもつ彼女は、J.クルーのようなお手頃ブランドで現れたかと思ったら、タクーン、ジェイソン・ウー、イザベル・トレド、ナイーム・カーンなど、新進の在米マイノリティデザイナーの服を素敵に着こなしては、彼らを一躍有名にしている。

自分を知っていて、服に着られてしまわない彼女は、数え切れないほどのアメリカの女性誌で表紙を飾ってきた。現在発売中の米国版「Vogue」が、アニー・リーボヴィッツによる撮りおろし写真を含めた8ページ強のインタビュー記事で彼女の旅立ちを惜しんでいるところからも、彼女がいかに愛されていたかがわかる。

メラニアは何も考えていないのか、それとも暗に意地悪なのか

この52歳の黒人元弁護士を引き継ぐのは、元モデルのメラニア・トランプだ。しかし、今のところ、業界はメラニアに対して非常に冷たい。

メディア業界は圧倒的にヒラリー・クリントン派で反トランプであり続けてきたので、偏見はもちろんあるだろうが、彼女が選挙活動中に着た服が褒められたためしはない。だが、彼女は何も考えていないのか、あるいは密かに嫌味なのか、といった論議はある。

たとえば、大統領選挙の夜、トランプの勝利がほぼ確定した時に現れた彼女が着ていたのは、ラルフ・ローレンの白のジャンプスーツだった。ヒラリーがパンツスーツルックで知られていたことから(投票日に、パンツスーツで投票所に出かけていったヒラリー支持者は少なくない)、これは勝利の笑みを含むものかと解釈する向きもあった。一方、トランプの過去の下品なセクハラ発言テープが露出した直後に行われた10月の第二回討論会には、襟元に大きなリボンをつけたピンクのブラウスで登場している。このリボンは“プッシー・ボウ”と呼ばれるもので、トランプが使った下品な言葉と同じ単語が含まれることから、これまた人々は首をかしげた。いずれにしても、これらの服がたちまち売れたなどという話は聞かれない。

トム・フォード、マーク・ジェイコブスはメラニアをボイコット

先月17日には、ミシェル・オバマに何度も服を提供してきたデザイナー、ソフィー・テアレがツイッターに公開状を投稿し、メラニアには服を提供しないと宣言した。「私たちのブランドは、差別と偏見に反対します。ファッションショーでも、広告でも、セレブリティに服を提供する場合でも、私たちは、私たちが実際に住む世界を反映するよう心がけてきました。(中略)私自身も移民です。私は、アメリカで自分の夢を追うという幸運に恵まれてきました。この8年、ファーストレディのミシェル・オバマに服を提供することができてきたのは、最高の光栄です。彼女は、私たちのような人が世界に知られるよう、大きな貢献をしてくださいました。彼女の価値観、行動、気品に、私はいつも感動させられてきました」というテアレは、「私は、いかなる形でも、次のファーストレディには関わりません。ほかのデザイナーのみなさんも、追従していただきたいと思います」と締めくくっている。

そして、30日には、トム・フォードが、テレビのインタビュー番組で、メラニアに服を提供するつもりはないとの意思を表明した。

監督第二弾の映画「Nocturnal Animals」が現在北米公開中で、プロモーション活動の一環としてABCの「The View」に出演したフォードは、番組のホストに「メラニア・トランプは細いし美しいですよね」と言われると、「どうかなあ。何年も前に、服を提供してほしいと彼女に言われた時、断ったんだよね。彼女は僕のイメージと違うから」と答えている。民主党派でヒラリーに投票したと認めるフォードは、「ヒラリーが勝ったとしても、彼女は僕の服を着るべきではないと思っていた。僕の服はすごく高価だから。それだけのコストがかかるからなんだけど、(ファーストレディは)みんなに共感をもってもらえなければいけないと思うんだよ」とも語った。ホストに「でも、あなたはミシェル・オバマに服を提供しましたよね?」と突っ込まれると、「あれは、彼女がバッキンガム宮殿で英国女王に会うというシチュエーションで、ふさわしい時だったから」と説明している。

ほかにメラニアのボイコットを明確にしているデザイナーには、マーク・ジェイコブスがいる。「僕はむしろ、トランプと彼の支持者のせいで苦しんでいる人たちを助けるために力を注ぎたい」とのことだ。デレク・ラムとフィリップ・リムは、「自分がトランプ政権と関わるとは思えない」という、柔らかい口調にとどまっている。一方で、トミー・ヒルフィガーは、先月21日に出席したイベントで、「メラニアは美しい。彼女に服を提供させてもらえるデザイナーは、誇りに思うべきだ。イヴァンカも美しいが、彼女は自分でデザインした服を着る。僕らは政治的になるべきじゃないと思うよ。みんな、ミシェル・オバマには大喜びで服を提供したじゃないか。彼女らはみんな素敵に服を着こなす」と、やる気を見せた。

母国スロベニアはともかく、アメリカでメラニアが近々ファッション誌の表紙を飾ることは、おそらくないだろう。それでも、こんな状況であるがだけに、今後、彼女が何を着るのかには、ある程度の好奇心が寄せられている。トム・フォードやマーク・ジェイコブスほど名のある人たちはともかく、彼女に自分の服を着てもらうというチャンスを完全に無視できないデザイナーは、実のところ、結構いるかもしれない。なんと言われようが、ファーストレディは、ファーストレディなのだから。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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