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スタントマンがトム・サイズモアの車に轢かれ重傷。後を絶たない撮影現場の事故例を振り返る

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
事故を起こした車を動かしたトム・サイズモア(写真:ロイター/アフロ)

悲しい事故が、また起きてしまった。

米西海岸時間6日(水)、テレビドラマ「Shooter」の撮影現場でスタントマンが車に轢かれ、重傷を負ったのだ。現場はL.A.近郊サンタ・クラリタの小さな空港。現在までに報道されているところによると、事故が起こった時は射撃のシーンを撮影中で、俳優トム・サイズモア(『ブラックホーク・ダウン』『プライベート・ライアン』)は、そのシーンが終わるまで、キャデラックのSUVの中で待っているようにと言われていた。しかし、そのスタントマンは、サイズモアの乗っていた車を含む3台の車に、動かすよう指示。サイズモアは車をバックさせたが、そのスタントマンが見えずに、彼を轢いてしまった。サイズモアの車には、オマー・エップス(『Dr. HOUSEードクター・ハウス』)も同乗していた。

8人の男たちが駆けつけ、車体の下からスタントマンを引っ張り出そうとしたがかなわず、誰かが車体を持ち上げる道具を探してきて、ようやく彼を救い出した。スタントマンはヘリコプターで病院に運ばれたが、重傷とのことだ。

「Shooter」は、マーク・ウォルバーグが主演した2007年の「ザ・シューター/極大射程」をテレビドラマ化するもの。主演はライアン・フィリップ(『クラッシュ』『父親たちの星条旗』)。USAネットワークで、今月19日に放映開始が予定されている。ケーブルチャンネルのUSAネットワークは、昨年、オリジナルドラマ「Mr. Robot」を大ヒットさせたばかりで、今作にも注目が集まっていた。

スタントマンはもともと危険な職業で、安全面への配慮はなされているはずながら、事故は後を絶たない。昨年も、最新の「バイオハザード」の南アフリカの撮影現場で、女性のスタントマンがバイクのシーンで大事故に遭い、左腕を失った。その事故が起こった数日後には、滑って動いてきたハマーに押しつぶされて、クルーの男性が亡くなっている。

明らかなる安全軽視のせいでクルーが亡くなった“サラ・ジョーンズ事件”では、実刑判決が下された(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160221-00054605/)。この「Midnight Rider」のケースはまったくもって言語道断だが、悲劇はほかにも多数起こっている。最近のもの、古いもの両方を合わせて、スタントマン、クルー、またはエキストラが事故に遭ったケースを挙げてみる。

「エクスペンダブルズ2」(2012)

ブルガリアの現場でボートの爆発シーンを撮影中、ひとりのスタントマンが死亡し、もうひとりが重傷を負った。生き残ったスタントマンは、5時間の手術を受けている。

「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える」(2011)

バンコクの現場で撮影中、オーストラリア人スタントマンが、タクシーの窓に寄りかかっていたところ、向こうからやってくる別の車に頭がぶつかり、脳に損傷を受けた。彼は後にスタジオを訴訟している。

「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」(2011)

インディアナ州での撮影中、溶接に欠陥があったせいで鋼線がはずれ、エキストラの女性の頭にぶつかって頭蓋骨を破損した。事故のせいで、その女性は、左半身不随になり、左目をふさがれることになった。パラマウントは、女性に対し、1,800万ドル(約18億円)を支払っている。

「ダークナイト」(2008)

スタントマンが運転する車を撮影するべく、カメラマンが平行して走るトラックに乗っていたが、トラックが90度のターンに失敗し、木にぶつかって、カメラマンは死亡した。

「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1」(2010)

ダニエル・ラドクリフのスタントダブルを務める当時25歳の男性が、空を飛ぶスタントのシーンで壁にぶつかり、首を負傷して、首から下が不随になった。

「パール・ハーバー」(2001)

日本軍の軍用機を装っていたスタント用飛行機が撮影現場で墜落。パイロットは負傷したが、重傷には至らなかった。

「ワルキューレ」(2008)

撮影中、エキストラを乗せたトラックが、角を曲がる時にエキストラを投げ出し、ひとりが重傷、ほかに10人が軽傷を負った。エキストラたちは後に訴訟を起こしている。

「トップガン」(1986)

飛行機内からの映像を撮影すべく、飛行機を操縦していたスタントパイロットが、コントロールを失って、太平洋に墜落した。飛行機も彼の遺体も見つかっていない。

撮影中の危険について認識が高まる中、ハリウッドスターたちがどこまで実際にスタントを自分でこなしていいのかも、保険の規定で制限されるようになってきている。10年ほど前なら、スターはこぞって「スタントは全部自分でやるさ」と豪語したものだが、全部やることは許されないという実情が知られてしまっている今は、「スタントはできるかぎり自分でやる」というフレーズに変わった。にも関わらず、スターが巻き込まれる事故も後を絶たない。つい最近でも、「007 スペクター」(2015)のファイトシーンの撮影中にダニエル・クレイグが負傷し、数日休みを取っているし、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015)では、ロンドンのスタジオでドアが落ちてきたためにハリソン・フォードが脚を骨折している。今年3月には、「メイズ・ランナー」3作目のバンクーバーの撮影現場で、主演のディラン・オブライエンが、ワイヤーを使った車のアクションシーンを行っている時に、別の車にぶつかり、病院に運ばれている。ケガは思った以上に深刻らしく、撮影は無期限に延期され、20世紀フォックスは、映画の北米公開を、当初予定されていた来年2月17日から2018年に延期している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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