Yahoo!ニュース

怒らせると怖いアカデミー。今度はチケット転売を企んだブローカーを訴訟

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
オスカー授賞式のチケットも、オスカー像も、転売はできない(写真:ロイター/アフロ)

掟破りを断じて許さないアカデミーが、今度はチケットブローカーを訴訟した。米西海岸時間6日(金、)ロサンゼルス上級裁判所に提出された訴状で、アカデミーは、L.A.の会社キー・アクセスが、Craigslistのサイトを通じて、オスカー授賞式のチケットを転売しようとしたと述べている。実際、興味を持った買い手と、オーケストラ席2枚を1枚あたり4万5,000ドル、バルコニー席2枚を1枚あたり2万7,500ドルの値段で交渉もしたようだが、売買成立には至らなかった。

アカデミーは、チケットの転売や譲渡はできないことを、ルールで明確にうたっている。チケットを受け取るアカデミー会員は、全員、その契約に従うというサインをさせられる。他人からもらったチケットで会場にやってきた人は、チケットを取り上げられ、不法侵入者として扱われる。キー・アクセスは、それを十分知っていた上で、チケットを正当な保持者から購入し、転売を企てたとアカデミーは主張。その過程で、宣伝広告のためオスカーのトレードマークを使用したことは著作権侵害にあたり、さらに、招待客しか入れない授賞式会場に招待されていない人を入れようとしたのは、不法侵入の手助けをした罪に当たるとしている。

転売を固く禁じているのは、チケットだけではない。アカデミーのルールには、アカデミー像についても、「オスカー像を売る、あるいは処分することを考えるアカデミー賞受賞者は、まず、アカデミーに1ドルで売ることをオファーしなければならない。これは、贈り物、あるいは遺産としてオスカー像を受け取った相続人や譲受人にも当てはまる」と明記してある。それでも、オークションなどに出回ったオスカー像は、これまでにおよそ150個あるらしい。2007年にはメアリー・ピックフォードの遺族が彼女のふたつのオスカー像を売ろうとして訴訟されている。また、1989年には、「80日間世界一周」(1956)のプロデューサー、マイケル・トッドの孫がオスカー像を売ろうとしたが、アカデミーに気づかれてオークションは実現しなかった。

アカデミーにとっては不本意なことに、オスカー像転売禁止のルールが足されたのが1951年だったことから、それ以前のオスカー像にはさらなる高値がつくという結果を招くことになっている。マイケル・ジャクソンは「風と共に去りぬ」(1939)のオスカー像を154万ドルで、デビッド・コッパーフィールドは「カサブランカ」(1942)のオスカー像を23万2,000ドルで競り落とした。2014年には、「My Gal Sal」の監督ジョセフ・ライトのオスカー像に、オークションで7万9,200ドルの値がついたが、アカデミーに訴訟され、遺族は売るのをあきらめている。ライトがオスカーを受賞したのは1951年より前の1942年だが、ライトは1985年に亡くなる2年前までアカデミー会員だったため、ルールを遵守するべきだと裁判所は判断した。アカデミーは、ライトのオスカー像を10ドルで買い戻すとオファーしている。

オスカー像にしても、授賞式のチケットにしても、本来意図しなかった人々の手元に渡ることを、アカデミーは断じて避けたいということだろう。もちろん、チケットの場合は、現場のセキュリティを守るという現実的な理由もあるし、オスカー像の場合は、偽物の製造につながるかもしれないという著作権上の恐れがある。

毎年、授賞式のチケットを数枚抽選に出して、一般の人も来られるチャンスを作ってあげればいいのではないかという意見や、遺族が売るのならしょうがないのではないかという声も聞かれたりするが、オスカーはそもそも、アカデミー会員による、アカデミー会員のもの。授賞式は会員のイベントで(それも会員が全員行けるわけではない)、実物のオスカー像は、普通の人にとって、おそらく生涯、実際に見るチャンスはないものだ。そのエクスクリューシブさこそ、アカデミーが、長年かけて築いてきたものなのであり、今後も断じてそれを守り続けたいのである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事