元ディズニー会長のスタジオが中国企業と5億ドルの業務提携。ハリウッドと中国の仲はさらに密接に
元ディズニー会長のディック・クックが昨年創設したディック・クック・スタジオズ(DCS)が、中国の映画会社フィルム・カーニバルと5億ドル(約560億円)の業務提携契約を交わした。この契約のもと、フィルム・カーニバルは、DCSが製作する映画の予算を100%受け持つことになる。映画の企画、製作、配給、マーケティングはDCSが行い、DCSは、フィルム・カーニバルが中国で自分たちの映画を製作する上でのアドバイスも提供する。契約書への署名は先週末になされ、共同製作1本目は、ポール・ハギスが監督する「Ranger’s Apprentice」になると発表された。
クックは、1970年にディズニーランドのアトラクションオペレーターとして入社し、出世街道を駆け上って、最後は会長に就任した人物。「ディズニーで最も優しい人」との評判を得た彼が2009年に追い出された時は、ジョニー・デップに「次の『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出たいかどうかわからなくなった」と言わしめたほどだ。そこまで人望を集める彼が自分のスタジオを創設しただけでも十分話題だったが、いち早く中国という巨大な市場への足がかりを作ったのは、さすがというべきだろう。
中国の景気に対する不安が高まる中にあっても、ハリウッドのスタジオは、競い合うかのように、中国でのパートナー探しにやっきとなっている。昨年9月には、ワーナー・ブラザースが、中国のチャイナ・メディア・キャピタルと組んで、フラッグシップ・エンタテインメントと呼ばれるジョイントベンチャーを立ち上げた。本社は香港、支社はロサンゼルスと北京に置き、香港のテレビ局TVBも10%を所有する。中国語の映画を製作して世界に配給したり、中国の要素をもつ英語の映画を製作配給したりするのが事業の中心だが、サンドラ・ブロック主演のヒット作「デンジャラス・ビューティ」や、ドリュー・バリモア主演の恋愛コメディ「Blended」を、中国人キャストでリメイクすることも決まっている。
続いて今年2月には、ユニバーサル・ピクチャーズが、中国の大手企業パーフェクト・ワールドと50本の映画を共同製作する契約を結んだ。契約期間は5年で、具体的にどの作品が共同出資の対象となるのかは、今後決定される。さらに、今月なかばには、中国と関連の深いDMGエンタテインメントが、パラマウントの所有権の4割を買収することに関心を持っているとの報道が出た。先に、パラマウントの親会社ヴァイアコムのCEOフィリップ・ドーマンは、投資家たちに、戦略のひとつとして、パラマウントに小規模な投資家を招き入れるつもりであると語っており、候補は中国のアリババや大連万達グループかともささやかれていた。北京とロサンゼルスオフィスを持つDMGは、「アイアンマン3」の製作に中国の協力を取り付けたり、同作品の中国バージョンが作ったりするのにも関わっており、ハリウッドとのつながりは、すでにある。パラマウントの4割の推定買収価格は20億ドル(約2,250億円)前後だが、DMGは、中国の未公開株式投資会社をパートナーにつけ、彼らにお金を払わせるつもりでいるようだ。
映画館の建設ブームや中間層の拡大などで、中国における興行成績は、急上昇を遂げている。すでに北米に次いで世界で2番目の映画市場となっており、年内にも北米を抜いてトップの地位を獲得しそうな勢いだ。一方で、北米では、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」や「ジュラシック・ワールド」などのヒットのおかげで、昨年は史上最高の国内興行成績を達成したものの、利益の多くは3DやIMAXなど割高なチケットが多く売れたことから来ており、観客動員数は、事実上頭打ち状態。すさまじく伸びている中国市場にスタジオが目を向けるのも、当然のことといえる。
今年初めには、ドリームワークス・アニメーションと中国のジョイントベンチャー、オリエンタル・ドリームワークスが、わざわざ中国の正月休み時期に合わせて「カンフー・パンダ3」をアメリカと中国で同時公開し、大成功を納めてみせた。しかし、中国とハリウッドの文化的背景には大きな違いがあり、必ずしもすべてがバラ色のままでいくだろうとは言い難い。元ワーナー・ブラザースのプレジデント、ジェフ・ロビノフが立ち上げたプロダクション会社スタジオ8は、中国のフォースン・グループから2億ドルの投資を得る約束だったが、昨年12月にトップが急に行方をくらまし、株の取引が休止されて、不安な状況に直面した。また、DCSも、昨年の創業時に中国のCITICグループから1億5,000万ドルの投資を得る約束を取り付けたものの、そのお金は未だに振り込まれていないという。
ハリウッドにとって、中国は未知の領域。だが、物事が信じられないスピードで変化していく中、誰もが、乗り遅れてはいけないと感じている。2、3年後、世界のスクリーンには、どんな映画がかかるようになっているだろうか。