1はボイコット、3は共同製作。「カンフー・パンダ」に見る、変わりゆくハリウッドと中国の関係
「カンフー・パンダ3」が、今週末、アメリカと中国で同時公開される。学校が休みでもない1月にアニメ大作を公開するのは、ハリウッドが普通、やらないこと。一方、中国では、正月休みを直前に控えた望ましい時期で、通常、この時期に公開していいのは中国映画と決まっている。
「カンフー・パンダ3」が見事にこの枠を獲得できたのは、米中合作と認められたからだ。中国政府は、先週土曜日に3時間限定で先行上映を行うことを許可したが、この短い時間に640万ドルも売り上げており、大ヒットが確実視されている。
パンダを主人公にしたアニメが中国で受けるのは自然なことのように感じられるかもしれないが、2008年に1作目が公開される前、中国では、一部でボイコット運動が起こっている。スティーブン・スピルバーグが、スーダン政府を支援する中国政府の姿勢に抗議して、2008年の北京オリンピックの芸術顧問を降板したことが、要因のひとつ。ドリームワークス・アニメーションは、ドリームワークスとは独立した会社で、スピルバーグは直接「カンフー・パンダ」には関わっていないが、このハリウッドの大物から受けた不名誉に反感をもった人はいたようだ。また、中国の国家的象徴であるパンダが、ハリウッドによって搾取されているという意見も出た。
しかし、いざ公開されると、映画は大ヒット。2作目の製作に当たって、監督をはじめとするスタッフは、中国にリサーチ旅行に出かけ、中国の風景やパンダの動きなどを、よりリアルに描写する努力をした。そんな姿勢や、1作目と2作目の間に、中国での劇場数が増えたこともあって、2011年に公開された2作目は、中国で9,220万ドルを売り上げている。これは1作目の3倍以上で、当時、中国におけるアニメ映画の史上最高記録だった。
そして翌2012年、ドリームワークス・アニメーションのトップ、ジェフリー・カッツェンバーグは、中国の投資会社とのジョイントベンチャー、オリエンタル・ドリームワークスを上海に設立すると発表。中国をテーマにしたアニメやライブアクション映画を製作し、中国および世界の観客に届けることを目的にする会社で、「カンフー・パンダ3」は、同社が手がける長編アニメ映画第1号となる。製作は、L.A.と上海のアニメーターたちが綿密にコラボレーションしながら進められ、口の動きがそれぞれの言語に合うよう、中国バージョンが別に作られた。アニメにそこまでの配慮がなされるのは、初めてのことだ。
近年、ドリームワークス・アニメーションは、苦境に立たされている。「シュレック」でオスカーの最優秀長編アニメ作品賞に輝き、「マダガスカル」「カンフー・パンダ」「ヒックとドラゴン」など、複数のシリーズを成功させ、ピクサーのライバル的立場になったドリームワークスだが、ここ3年ほどは失敗作が続き、昨年1月には、500人規模を解雇した。北カリフォルニアにあったふたつめのスタジオはクローズし、L.A.にあるメインのスタジオの不動産も売却。現在は、売却先に家賃を払って、同じ場所で経営を続けている。
ドリームワークス・アニメーションが創設された2000年、アニメ市場は、ピクサーとドリームワークスの独占状態だった。しかし、その後、アニメが儲かることに注目したスタジオが、続々と参入。「アイス・エイジ」のブルースカイ、「ミニオンズ」のイリュミネーションなどがヒットを飛ばす中、ピクサーの買収でジョン・ラセターをチーフ・クリエイティブ・オフィサーに迎え入れたディズニー・アニメーションも勢いを取り戻し、「アナと雪の女王」を記録的に成功させるなど、アメリカのアニメ市場は競争が非常に厳しくなっている。
それだけに、まだ他社が入っておらず、成長の余地がたっぷりとある中国市場は、魅力的だ。映画館の数が急速に増える中国では、興行収入は伸びる一方。2017年までには、北米を抜いて、世界最大の映画史上になると見られている。外国映画の場合、中国は、ほかの国と違って興行成績の25%程度しか戻してくれないが、合作と認められるとその割合は大きく増え、公開本数の制限も適用されなくなる。
「カンフー・パンダ」1作目がヒットした後、中国では、パンダや中国に関する映画を、なぜ外国人に先にやられてしまったのかという声が出た。それを受けて、中国政府は、自分たちでも良い作品を作っていくべきだと考え、多額のお金をかけてアニメ専門のスタジオを作ると決めている。「カンフー・パンダ3」は、そんな両者の望みを満たす、理想的な“結婚”だった。この結婚生活は、これからも幸せなまま続くだろうか。