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「キャロル」「Room」のオスカー作品賞受賞はなし?PGAノミネーションで少し見えてきたオスカー戦線

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジョージ・ミラー監督(左)の「マッドマックス」はPGA候補入り。さてオスカーは?(写真:ロイター/アフロ)

米プロデューサー組合(PGA)賞のノミネーションが発表された。オスカー予測の上で、最も重要な役割を果たすのが、この賞だ。

ゴールデン・グローブや、各都市の批評家協会賞は、どんな映画が熱いのかを知る上での指針にはなるが、これらに投票する人たちは、アカデミー賞に投票する人たちとは、まったくかぶらない。アカデミー会員とかぶる人が多いのは、組合系の賞、つまりPGAや米映画俳優組合(SAG)賞、米監督組合(DGA)賞などである。(WGAこと米脚本家組合も重要だが、WGAは、資格において独自のルールをもっており、オスカーの脚本、脚色部門なら十分資格がある有力脚本が、WGAは最初から該当外とされることが非常に多い。)さらに、PGAは、アカデミーと同じ投票方式を使う、唯一の賞でもある。

昨年の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を含め、過去8年、PGAを獲得した作品は、すべてオスカーの作品賞も受賞している。また、PGAが賞を設立した1990年以来、オスカー作品賞に輝いた映画は、すべてPGAにもノミネートされている。つまり、PGAに候補入りすることなく、オスカーの作品賞を取った映画は、これまでひとつも存在しないのだ。

ということで、今年のPGA候補に上がった10作品は:

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

「ブリッジ・オブ・スパイ」

「Brooklyn」

「Ex Machina」

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

「オデッセイ」

「レヴェナント 蘇りし者」

「ボーダーライン」

「Spotlight」

「ストレイト・アウタ・コンプトン」

このアワードシーズン、あちこちで名前が上がり、オスカーでも有力視されている「マネー・ショート」「Spotlight」が入ったのは、誰もが納得するところ。娯楽作品ながら賞レースで大健闘している「マッドマックス」「オデッセイ」は、PGAにも候補入りしたことで、勢いを増したといえる。「Ex Machina」が入ったのがやや驚きだが、もっと意外なのは、かなり有力と考えられている「キャロル」と「Room」が入らなかったことだ。また、積極的なアワードキャンペーンを行っているNetflixの「Beasts of No Nation」も漏れた。「Room」は、トロント映画祭で観客賞を受賞している。「スラムドッグ$ミリオネア」「英国王のスピーチ」「それでも夜は明ける」をはじめ、トロントで観客賞を取った作品がオスカー作品賞も取った例は多いが、どうやら「Room」の場合は難しそうだ。もっとも、この2作品がオスカーの作品部門に候補入りする可能性は、十分にある。実際のところ、オスカー候補作とPGA候補作の一致率は80%。20%は違う作品が入ってくるわけで、「キャロル」と「Room」が「Ex Machina」と「ボーダーライン」に取って替わることは、十分考えられる。また、女優部門でケイト・ブランシェット(『キャロル』、)ルーニー・マーラ(『キャロル、』)ブリー・ラーソン(『Room』)はオスカー候補入りの可能性が濃厚だし、監督部門でもトッド・ヘインズ(『キャロル』)は有力。脚色、衣装、美術などの部門もある。

次に注目すべきは、西海岸時間12日(火)に発表されるDGAノミネーションだ。DGAを受賞した監督は、たいていの場合、オスカー監督賞も受賞する。1948年以来、DGAを取ったのにオスカー監督賞を取らなかったという例は、7回しかない(その稀な例のひとりは、『アルゴ』のベン・アフレック。アフレックはDGAを取ったが、オスカー監督部門にはノミネートもされなかった。)ところで、SAGのノミネーションはすでに発表されている。アンサンブル賞(作品賞に当たるもの)にノミネートされたのは、「マネー・ショート」「Spotlight」「ストレイト・アウタ・コンプトン」「Trumbo」「Beasts of No Nation。」

少しずつ方向性が見えてきた感じだが、もちろん、まだまだ混乱の要素はある。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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