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ポール・ウォーカーの遺作「Hours」が北米公開に。ほぼひとり芝居状態で迫真の演技を見せる

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
Photo by Skip Bolen Pantelion Films

米西海岸時間先月30日に亡くなったポール・ウォーカーの最新主演作「Hours」が、13日にアメリカで公開された。低予算のインディーズ映画で、少数の劇場とビデオ・オン・ディマンド(VOD)の同時リリースだ。ウォーカーの突然の死を受けても、配給のパンテリオン・フィルムズは、ウォーカーがこの作品に誇りを持っていたことを理由に、予定どおり公開すると決めたもの。90分、ほぼひとり芝居に近い状態で、感情的な演技を要求されるこの映画は、「ワイルド・スピード」シリーズで知られてきたウォーカーに演技力を証明するチャンスを与えてくれた作品だ。監督のエリック・ハイセラーは、L.A. Times紙に対し、「この映画のおかげでこれまでなら自分には来なかったようなオファーが来るようになったと、ポールは喜んでいた。それを聞いて、僕は、『これは、もっとビッグでもっとすごいプロジェクトのためのウォームアップにすぎないよ』と言ったものだ」と振り返っている。

物語の舞台は、2005年8月29日のニューオリンズ。ノーラン(ウォーカー)の妻の陣痛が予定よりも5週間早く始まり、夫妻は病院に駆けつけた。出産の途中、妻は死に、生まれた女の子は酸素吸入器につながれることに。あと48時間はこの機械をはずしてはいけないと言われる中、ハリケーンが直撃し、全員、病院からの避難を命じられる。身動きができないノーランは娘とそこにとどまるが、まもなく病院は停電。手動のジェネレーターでなんとか酸素吸入器を動かし続けながら、ノーランは、生まれたばかりの娘に妻の思い出を語り聞かせる。

スリラーに良い条件は揃っているにも関わらず、いまひとつ緊迫感に欠けるというのが正直な感想。だが、ウォーカーは、突然妻を失くした悲しみと怒り、パニックの中で娘を守ろうとする強い意志を、しっかりと表現してみせている。彼がまだまだ秘めていた可能性を感じさせるだけに、わずか40歳にしてこの世を去ったことが、あらためて悔やまれる。

ウォーカーの遺作には、このほかに、リュック・ベッソンがプロデュースする犯罪アクション映画「Brick Mountains」がある。映画は完成していないが、ウォーカーのシーンはすべて撮り終えている。事故死当時撮影中だった「ワイルド・スピード」7作目は、現在製作が中断しているが、残りのシーンをウォーカーの弟コーディ(25)が代わりに演じるという報道が出ている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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