クリミアに向けてバルチック艦隊と北方艦隊がボスフォラス海峡を渡る。退避勧告を出さない仏独
ウクライナをめぐり、軍事的な緊張が高まっている。
アメリカやカナダ、英国は、自国民に退避するよう勧告を出した。日本や韓国も続いている。
欧州連合(EU)は、まだ騒ぎ立てていない。フランスもドイツも、自国民に退避勧告は出していない。
EUのボレル外交安全保障上級代表の報道官は、2月12日、キエフにあるEU代表部では、重要ではないスタッフはウクライナを離れ、外国からテレワークを行うよう勧告した、と述べた。「避難」はしないという。
ここ数週間、ホワイトハウスはウクライナに対するロシアの脅威を強調し、「差し迫った」侵攻を予告するまでになった。
しかし、その告発は必ずしも証拠に裏打ちされたものではない。
アメリカ当局の発言は、昨年から続いている「政治的選択」としてのドラマではないのか。同じようにアメリカを非難しているロシアを牽制しているのではないか(つまり両国は、鏡の効果となっている)、世界一の諜報機関を使った自分たちの知り得ない情報に基づいたものなのか、EUの国々は疑心暗鬼なままである。
しかし、侵攻が本当に確かな情報であれば、在留各国民の安全がかかってくる。EU加盟国は北大西洋条約機構(NATO)の加盟国なのだから、公にはしなくても、証拠と共に伝えてくるのではないのだろうか。たとえアメリカとEUでは思惑の違いがあったとしても、である。
クリミアに集まる6隻の軍艦
そんな中、2月8日と9日、トルコのイスタンブールで、ロシアの6隻の軍艦がボスフォラス海峡を通過したのが確認された。
9日に通過したのは、ロシアが誇る最新鋭のピョートル・モルグノフ号という揚陸艦(ようりくかん)。2020年12月23日に就航したばかりで、バレンツ海のフィンランド近くのセベロモスクを母港とする。
揚陸艦とは、物資や人員を輸送し、港湾設備の無い場所でも積み下ろしのできる艦艇のこと。
その他にも、同じく北方艦隊の潜水艦ゲオルギー・ポベドノセツ号、オレネゴルスク・マイナー号の、計3隻が通過した。
前日8日に通過したのは、バルチック艦隊(バルト艦隊)の3隻の揚陸艦だった。
バルチック艦隊とは、バルト海に根拠地を置くロシア艦隊のこと。日露戦争のときには、日本海までやってきたことがある。
コロレフ号、ミンスク号、カリーニングラード号の3隻が通過した。
『ル・モンド』のイスタンブール特派員が、トルコ人の専門家Yorük Isikと共に報告した。
公式には、これらの軍艦は「演習」のために黒海に入るという。
1936年に締結されたモントルー条約によって、トルコはボスフォラス海峡の船舶の航行を管理することができる。黒海に面している6カ国は、通過の8日前にトルコ当局に通知することが義務づけられている。
(面していない国は、通過する15日前に通知しなければならず、21日以上海に滞在することはできない)。
それぞれの艦は、350人の兵士と数台の装甲戦闘車両を運ぶことができるという。最終目的地は、クリミアにあるロシアの大基地「セヴァストポリ」か、ケルチ(Kertch)市近郊にある訓練場「オプーク(Opouk)」と発表されている。
2021年4月にすでに、この訓練場では数千人が上陸して、海空で訓練していた。
イスタンブールに到着する前、6隻の大型船は(中には1980年代に建造されたかなり古い船もある)、ヨーロッパを周遊していた。
1カ月前にロシア北部の基地を離れ、スウェーデン沿岸を航行したが、そのためにスウェーデン軍は、バルト海の中央に位置するゴットランド島に軍隊を配備せざるを得なくなった。
ほぼ1週間にわたり、スウェーデンのテレビ局で映像が繰り返し放送され、すべての新聞で一面を飾った。そこには、ゴットランド島の道路を走る戦車と、ヴィスビーの町の港をパトロールする武装した兵士が映されていた。この配備を、国民は好意的に見守ったという。
その後、アイルランド沖で見送られて、1月27日にジブラルタル海峡を渡り、2月4日にシリアのタルトゥスの基地に到着した。そして今、黒海にいるのである。
ベラルーシのほうでも緊張が高まっている。
ウクライナのクレバ外相は、2月10日にフランス国際関係戦略研究所が主催した「フランス・ウクライナ・フォーラム」で以下のように述べた。
「私たちが心配しているのは、ベラルーシ、黒海、アゾフ海での作戦が同時に行われていることです」、「これらの作戦のために、ウクライナはこの2つの海からほとんど遮断されていて、ウクライナ船の航行を複雑にしています」。
ベラルーシに関しては、稿を改める事にする。