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「入院患者の約8割がワクチン未接種者」が意味すること。フランスの上院で:新型コロナウイルス

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ペルーでコロナの隔離施設にはしご車でプレゼントを届けるサンタで有名なガマーラさん(写真:ロイター/アフロ)

日本にも、フランス発の情報「現在、コロナウイルスで入院する患者の約8割が、ワクチン未接種者」が入ってきた。

一部で「本当なのか」「出所を示してほしい」という声が上がったが、本当の話である。

元の発言は、パリのサンタントワーヌ病院の感染症専門医師、カリーヌ・ラコンブさんが、21日に上院(参議院に相当)で行った発言である。これを上院がツイッターで発信した。

ツイートには「Covid-19(新型コロナウイルス)感染で入院した人の80%は、ワクチンを受けていない人であると、感染症学者 「@LacombeKarine1」が指摘した。

『20%のワクチンを受けて入院した患者は、危険因子をもっていた人で、2回目の接種に5、6カ月離れている人である』」と書かれている。

この発言を、彼女は詳しく説明している。

「私たちがワクチン接種をできるようになってから、入院する人の履歴が根本的に変わりました。

Covid-19で来院した人の80%はワクチン接種を受けておらず、集中治療室に入って死亡するのは、ほとんどがこのような人たちです。

ワクチンを接種したにもかかわらず来院する20%の患者さんは、危険因子、特に他の併存疾患があり、特に2回目の接種まで通常5、6カ月以上あいている人です。

このように、デルタ株においてはワクチン接種は非常に効果的で、私たちは沈没しないで済んだのです」

この発言を、事実チェックで大変有名な『リベラシオン』紙の「チェックニュース」が検証した。

大統領の発言からネット上の噂まで、事実のチェックで大変功績と実績があり、人々の信頼を得ている媒体である。

様々なデータを見せながら検証し、カリーヌ・ラコンブ医師に直接インタビューもしている。

その結果、大変誤解を招く発言である事がわかった。

ワクチンの効果の高さ

ここで医師が言いたかったのは、絶対値ではなくて、接種者と非接種者の人口における割合だった。

ワクチンを受けていない人は、受けた人に比べて、7倍も入院率が高い。つまり、100万人の接種者と、100万人の非接種者を比べた場合の話である。

これはワクチン接種者の入院に対する予防効果が、86%であることを意味するという。

だから「いま入院した人の約8割が非接種者」という意味ではない。

ここに数字の理解の難しさがある。

フランスではワクチン接種率が拡大して、人口の75%、うち成人は90%がワクチンを接種している(子供のワクチンは、大人より遅れて始まった)。

いまだにワクチンを打っていない大人は、10%にすぎない。

だから、たとえ予防効果が86%で、接種したにも関わらず発症した人がたったの14%であろうとも、もともとの接種者の数が多いのだから、患者数も多くなる。

逆の言い方をすれば、フランス人口約6700万人が全員ワクチンを接種すれば、入院患者は、全員接種者となる。

現在は、入院患者数では、ワクチン非接種者が43%であるのに対し、ワクチン接種者は57%となっている。

つまり、大人でワクチン接種をしていないのは、たった1割しかいないのに、入院患者の半分弱を占めていることになる。

そしてラコンブ医師の発言に従えば、ワクチン接種しても入院した人のほとんどは、何か疾患をもっていた人か、ワクチンの間があきすぎている人だったということだ。

フランス人も混乱していたが、メディアが正しく事実をチェックをする機能が働いたおかげで、正しい理解が得られてきているようだ。

メディアに、信頼できる常設のチェック機関があるというのは、本当に大事である。日本には存在しない。

世界でも同じようなことが起きている

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も、同じような内容の発言をしている。

12月22日、彼は「入院や死亡の大半はワクチンを接種していない人であり、追加接種していない人ではない」と語った。

ーーオミクロンのようなデータ変異株にもワクチンは効果がある。限りあるワクチンを、お金持ちの国の、すでに接種している人たちの誰に対してでも投与したところで、パンデミックを完全に終わらせる事はできないだけではなく、長引かせ、さらなる変異を生む可能性を与えている。

追加接種プログラムは126カ国が既に指示を出しているが、貧しい国ではまだであるーーという内容である。

もともとWHOは、医療は人権であるとし、世界の人々に医療を与えるための国連機関だ。国連加盟国は約200カ国、約70カ国の人々が置き去りになっていると訴えたわけである。

それではテドロス氏の発言も「誤解を招く」のかというと、おそらくそんなことはないと思われる。世界では、接種していない人や、効果の薄いワクチンしか接種していない人が大勢いるのだから。

例えばフランスでも、6月初旬、高齢者の2回の接種には目処がたったが、全人口の2回の接種はまだまだこれからで、拍車がかかって行こうという時期の数字はどうだったか。

1日の入院患者数に占めるワクチン未接種者の割合は、圧倒的多数の85%だったのだ。打っていない人の絶対数が多いので、こうなった。

これは、現在の世界全体の現状に当てはまるかもしれない。テドロス氏のいうことは正しいのだろう。

日本のように、相対的に安全な国では想像がつきにくいかもしれないが、ワクチン接種は自分だけではなく、他の人たちと医療従事者を守るものだと、つくづく実感する。

さすがに3回、4回の接種になってくると、今後どうなるのだろうと、不安が増してくるのも事実だが・・・。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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