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フランスは今日、自国民とアフガン関係者全員の避難を完了予定。どのように退避を行ったか。日本との違い。

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
8月18日、アフガニスタンから避難してきた人々がシャルル・ド・ゴール空港に到着。(写真:ロイター/アフロ)

フランスのカステックス首相は、本日27日(金)でアフガニスタンからの避難はすべて完了すると、昨日8月26日(木)の朝に述べた

「フランス人、何らかの形で軍に貢献したアフガニスタン人と家族、芸術家、ジャーナリスト、約2500人を(タリバンが政権を取ってから、今までに)送還しました」と首相は、RTLでコメントした。「明日27日の夕方からは避難をすることができなくなります」ともいう。

最後の脱出時間は、大使館員と軍人の出発に使われる。

自国民、ならびに退避を希望するアフガニスタン人と外国人の関係者、そしてその家族は、木曜日の夜、または金曜日まで行われる。

その数時間後、最後まで残って仕事をしていた大使館員と、彼らを守っていた軍人が避難して、フランスのアフガニスタンでの退避は終わると、政府筋がAFP通信に語った。

8月24日に行われたG7のリモート会議では、同盟国側は8月31日の撤退期限を延長するようバイデン大統領に求めた。しかし、同大統領は期限に固執したという。

そんな中、マクロン大統領は期限延長を推してはいたものの、アメリカの主権者の決定に「合わせる」、「それはアメリカ人の手に委ねられている」と述べたとAP通信は伝えている。

つまり、フランス国家は、同盟国と協力しながらも自分たちの計画を着々と進めるので、お互い主権で行動しましょう、ということなのだろうか。

カステックス仏首相のいうことを文字通り信じるのならーー8月31日ギリギリまで、アメリカ人や関係者は退避を続けるだろう。でも、フランス軍は27日には全部終わらせて、おそらく最後の数日間の大混乱の時には、もうもぬけのカラということになる(・・・それとも援軍は残すのだろうか)。

どのみち、実にフランスらしいと感じる。多くのフランス人が、7月にすでに退避。福島原発事故の際もそうだったが、フランス人の逃げ足は実に早い。それだけ危機管理がしっかりしており、仏国民にとっては、政府はこの上なく頼もしいのだろう(フランス人が逃げ出したら焦るべきで、最低でも荷造りは終わらせるのがよいと思っている)。

それはともかくーーつい先日まで、フランスの外交官は「26日(木)夕方までには退避は完了する予定だ」と答えていたのだ。それが半日から1日延びたのは、テロ情報のせいに違いない。

25日(水)から26日(木)にかけての夜、アメリカ、オーストラリア、イギリスから、空港周辺での「非常に高いテロ攻撃」の脅威が報告された。この3カ国は、自国民にその場を離れ、さらなる指示を待つように勧告した。

そして25日の朝早くから、フランス軍らは、カブール空港のアビー門を守っていると、在アフガニスタンのダヴィッド・マルティノン仏大使はツイートをしていた。

おそらくテロの情報はすでに得ており、空港の門を守っていることを伝え、かつ25日は(フランスだけに限らず)予定通りの輸送任務を終わらせる助けをしていると、アピールしたのかもしれない。

そして実際に、26日の夜にテロは起きた。

カブール空港は、滑走路をはさんで、片側は軍事ゾーン、もう片側は市民ゾーンになっている。爆発は2回起きた(おそらく自称「イスラム国」の支持者の自爆テロと言われている)。1回は、市民ゾーン側にあるアビー門の外、もう1回は、この門の近くにあるホテル(近辺)である。

テロが起こるとしたらどの場所かまで、事前情報は把握していたに違いない。

フランスと日本の行動

それでは、フランスはどのように任務を完遂しようとしていたのか。在アフガニスタンの仏大使、ダヴィッド・マルティノン氏のツイートで、大体のことは判明した。以下、日本の行動とともに、時間を追って説明する。

※日本 8月15日 アフガニスタン大使館を一時閉館。トルコのイスタンブールに臨時事務所を設置。

◎8月16日

フランス大使館員が、カブール空港に大使館の仕事を移す。

◎8月17日夜

フランス大使館に避難させていた自国民やアフガニスタン人・外国人関係者とその家族が、仏警察の護衛のもと、車で大挙して大使館を出る。どこに行ったかは不明だが、一部は空港に連れて行った可能性もあるかもしれない。

※日本 残っていた日本大使館の館員12名が、17日、友好国(英国)の軍用機によりカブール空港から出国し、アラブ首長国連邦のドバイに退避した

◎8月22日

フランスへの移送が、最低でも2回報告されている。

◎8月23日

フランス軍が、アメリカ軍と共に、カブールのEU代表部(大使館に相当)のスタッフや家族の退避を担当。

◎8月25日

カブール空港のアビー門で、フランス軍と、仏大使館を警護する警官たちが、退避しようと集まっているアフガニスタン人を朝6時から助けていると報告。

テロに気をつけろという情報がもたらされる。

※日本:C2輸送機1機がカブール空港に到着。退避を希望する人が空港にいればイスラマバードまで輸送する予定だった。

しかし、彼らは自力で空港に到着しなくてはならず、到着できないため、25日は輸送は行われなかった。

また、この日の夜には、C130輸送機2機が、隣国パキスタンのイスラマバードに到着した。そのまま待機していると思われる。

◎8月26日

夜、アビー門と近くのホテル(近辺)で、テロが起きる。

◎8月27日

フランス、予定より半日から1日遅れて、全員避難、任務終了の予定。

日本が助けるべき人たちは、いま

情報が錯綜しているが、日本大使館で働く12人の日本人は、すでに17日英国機で、アラブ首長国連邦のドバイに脱出しているという。残っている日本人は、国際機関で働く「若干名」ということだ。

今問題になっているのは、「若干名」の日本人に加えて、大使館と国際協力機構(JICA)のアフガニスタン人(外国人?)現地スタッフらのこと。その家族も含めると計数百人規模の人々とのことだ

今回は、日本にとっては史上初めて、自衛隊法に基づいて外国人を退避させることになる。日本政府は、パキスタンのイスラマバードを拠点にし、カブールの空港との間をピストン輸送することを計画しているという。

でも、退避を希望するスタッフらは自力で空港まで移動する必要があり、実際に空港までたどりつけるかが課題となっているのだ。

(余談だが、日本の報道では「日本人と外国人(=アフガニスタン人?)」と表現されているが、フランスの報道では、「フランス人、アフガニスタン人、外国人」となっている)。

これからアメリカは、まだ残っている1500人のアメリカ国民を退避させなければならない。これはロイター通信の報道だが、数字は判然としない。アメリカとアフガニスタンの両国籍を保有し、現地で在留登録もしていない人々が大勢いるためである。登録している人には、安全に空港につく方法を教えてあるという。

同時に、現地の逃すべき関係者は、ニューヨーク・タイムズによると、10万人から30万人で、人数がはっきりわからない。

ともあれ、アメリカの追加輸送機は、45分おきに飛び立っているとのこと。

どこまで、「初めての日本」の手助けを、アメリカができるだろうか。

成功した韓国、そして第2弾の国連

日本では「初めてのことだから、うまくできなくても仕方がない」と思うだろうか。

しかし韓国は、韓国政府に協力し働いていた現地人とその家族391人を、無事にカブール脱出に成功させた。

韓国の報道によると、22日に米国政府は、友好国に「バスモデル」というものを提案した。米国が取引しているアフガニスタンのバス会社に協力者を乗せ、そのバスを米軍とタリバンが一緒に守っている検問所を通過させようというものだ。

(あれほどの大混乱にあって、自国民や自国関係者の避難もたくさん残っているのに、友好国国民とその関係者のことも考えていたのだ、アメリカ政府は・・・)。

米政府の提案は、韓国には行ったが日本には来なかったとは、考えられないのだが・・・。日本政府の回答がほしい。

さらに、これらはあくまで、各国の国民と、その国の関係者の話である。カステックス仏首相によると、「他のヨーロッパ諸国や国際社会、特にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)と協力して管理する第2段階があり、これは将来アフガニスタンを離れる難民のことです」とのことである。

※追記

まだアフガニスタンに残っている「若干名」の日本人や、アフガニスタン人や家族が空港に自力で来なくてはならないのは、日本の法律のためという。

ある記事によれば、「自衛隊法第84条の4第3項:在外邦人輸送」に関わる問題であるということだ。

法律そのものは、以下のように書かれている

第一項の輸送は、前項に規定する航空機又は船舶のほか、特に必要があると認められるときは、当該輸送に適する車両(当該輸送のために借り受けて使用するものを含む。第九十四条の六において同じ。)により行うことができる。

空港の外が安全か否かということが問題であるようだ。明瞭ではないので、軍事専門家に解説は委ねたい。

でも、それであるならば一層のこと、アメリカ政府が韓国政府に提案した「バスモデルは、日本政府に提案があったのかなかったのか、あったのなら、なぜ実現しなかったのか、政府に回答を求めたい。

※※再追記

27日夜、NHK情報で、「日本人やアフガニスタン人スタッフらを乗せたバスが、26日に空港に向かったが、爆発が見えて引き返した」との報道があった。これは米政府が提案した「バスモデル」に思える。

もしそうなら、アメリカ政府は、日本にも韓国と同じ提案をしたことになる。

なぜ韓国と異なり、このように遅くなったのか。テロの警戒情報は25日からあり、欧米ではメディアにより26日には一般人ですら知り得た情報なのに、なぜ26日に空港に向かったのか。理由等の説明を、やはり政府に求めたい。

【付録】       

フランスはどのように任務を完遂しようとしているのか、在アフガニスタンの仏大使、ダヴィッド・マルティノン氏のツイートから詳細に報告したい。

◎8月16日のツイート

「かつての安全地帯を離れて@カブール」。陸路ではなくて空路で移動のようだ。どういう意味か、どこに向かったのかと思ったら・・・(以下)

「フランス大使館は、職場を移転した@カブール空港」。大使館が空港に移転したという案内だった。

◎8月19日

「アフガニスタンの友人たちへ:フランス大使館は空港に移転しました。外交団は数日前にワジール・アクバル・ハーンの敷地を出ました。したがって、そこではビザの手続きはできません。あなたの安全のために、すぐにそこから退避してください」

この内容は、英語とペルシャ語で発信された(ペルシャ語を解するアフガン人は多い)。

◎同じく8月19日

「おとといの夜(17日)、フランス警察が護衛して、カブールの安全地帯のフランス大使館から、保護を提供されていたフランス人、アフガニスタン人、外国人の家族を脱出させました。大使館の外交・領事団が彼らの面倒を空港で見続け、彼らは退避します」(続々と車が出てくる映像)

◎8月22日

「01:30にカブール空港を離陸。空港に入ることができた163人のアフガンの友人たちは避難しました。さらに他の69人が04:30に続いて避難します。フランス大使館は、アフガニスタンの自由の戦士たちを守るための任務を続けています」

これはビデオ付きのフランス語での発信だが、続けて写真と共に英語でも発信している。なお、その後も移送は続けられ、オランダと協力したものもあったようだ(KLM-Air France?)。

◎8月23日

「今朝、フランスの特殊部隊が、アメリカ軍と連携して、カブールの欧州連合(EU)代表部のスタッフ260人を空港内に入れることができました。搭乗前にフランス大使館の待機ゾーンに迎えられました。ブラボー、EU」

背中にEU旗のマークがついている兵士がいる。マーク下には「Humanitarian Aid and Civil Protection(人道援助と市民保護)」と書かれている。女性がフランス語で(おそらく彼女にとって仏語は外国語)、「ありがとう。あなたたちの警護は素晴らしいわ。ありがとう。フランス万歳(Vive la France.)」というと、おそらく兵士の声で「もういいから、十分だから」と照れくさそうな声が聞こえてくる。

◎8月25日

「今朝のアビー・ゲート(門)。フランス大使館の警察官(RAIDオペレーターと外交官の警備員)と、特殊空挺部隊ナンバー10の軍人が、アフガニスタン人の避難を続けようとして、朝6時から現地にいます」

◎8月26日23時頃

「私たちのすべてのアフガニスタンの友人たちへ:空港のゲート付近にいる方は、大至急離れて、安全を確保してください。2回目の爆発の可能性もあります」とフランス語で発信。

◎8月26日から27日に日付が変わるころ

「犠牲者に思いをはせます。私たちの近しい人たちへ:今日、フランスの兵士、警官、外交官はだれもアビー・ゲートで働いていませんでした」。爆発があったものの、無事であることを、フランス語で報告。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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