日立が英国で原発建設を凍結(1)英国は世界唯一の「原発民営化市場」:日本・中国・フランスの三つ巴

湾の向こうに見えるのはWylfa原発(写真:ロイター/アフロ)

日立製作所が17日、取締役会を開き、英国で進めている原子力発電所の建設計画の凍結を正式に決めた。

日立は英中西部のアングルシー島に原発2基を建設し、20年代前半の運転開始を目指していた。

事業費は約3兆円。安全対策の強化により、当初予定の1.5倍に膨らんだ。設備の減損処理で約3000億円の損失を計上する。このうち、原発子会社の資産の減損が2800億円を占め、これまでの投資は、土地などを除き、ほぼ価値がなくなるというのだ。

そして設計や工事準備費では、月数十億円も費用が流出していた。しかも今後、取引先との契約解除に約200億円が必要になるという。

なぜこれほど、損失ばかりの丸裸状態になるのか。それは、英国の原発が民営化しているからである。つまり日立がしていることは「投資」なのだ。英国政府は原発を買ってくれない。英国政府がすることは、買うのではなく、総事業費3兆円超のうちの、約2兆円の「融資」である。つまり、日立は(利息をつけて)2兆円を返済しなければならないのだ。(残る約1兆円は、日英の企業などが出資する計画だった)。

「そんなばかな」と、一般の日本人は思うだろう。なぜなら、日本の原発は違った。日本側が主にアメリカのメーカー、GE(ゼネラルエレクトリック)やウエスティグハウスにお金を払って買った&作ってもらったのだ。そして福島原発事故が起きても、GEが損害賠償を払ったなどと聞いたことがない。原発とは、国家が責任をもって外国メーカーにお金を払って作ってもらうビジネスーーそう思っているだろう。

しかし、英国は世界の例外なのだ。ここでは、原発は民営化しており、電力市場も形ばかりではなく本格的に開かれて市場競争の原理が働いているという、世界で唯一の国と言っていいのだ。

そんな理解しがたいところに、日立と東芝が進出していたのだ。そして大火傷を追った。それでも筆者は嬉しい。原発を稼働することなく事実上撤退したのだから。筆者は、もし福島原発事故クラスの事故が、英国で日立や東芝の建設する原発で起こったらどうするのだろうと、本気で心配していたのだ。最悪の事態を免れたという思いでいっぱいである。本当に良かった。日立の方々、決断してくれてありがとう。

以下の原稿は、2014年に岩波書店で筆者が発表したものである。日立や東芝が進出した英国の「原発民営化市場」という奇っ怪な状況とはどういうものだったのか、なぜこうなったのか。千年単位で欧州の厳しい外交にもまれてきたドイツ、スペイン、スウェーデン、スコットランドすら英国からは手を引いたのに、日本は彼らが去った後に乗り込んでいったのだ。それがどんなに無謀なことだったかーーちょっと古い原稿ではあるが、知って頂きたい思いで公表する。

長いので何回かに分けることにする。

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電気会社を自由に選べる社会ーー日本では、電力システム改革を3段階で進める改正電気事業法が、昨年2013年11月13に成立した。 2016年には電力小売りの参入を全面自由化、2018~20年には電力会社が自由に価格を決められる社会を実現しようとしている。

人々が電気会社を選べる社会をいちはやく実現しているのが、英国だ。しかし、自由市場なのに原発は存在する。現在、2基原発の新設が確定している。つくるのは、フランス電力の英国法人である。この理解し難い市場に、日本の日立と東芝ウエスティングハウスが進出している。

なぜ自由化した市場に原発が存在できるのだろう。

英国の25年は、いかに原発を民営化するかの闘いの歴史であった。それはそのまま、原発をどうするのかーー原発を新設したい人々と、阻止しようとする人々との闘いの歴史だった。

この先進性は、英国が西側で初めて商業原発を稼動したことと関係あるだろう。そして アメリカにもソ連にも頼らない英国の独自技術の原発をつくってきた(一基のみ例外)。

日本で一番最初につくられた原子炉は、東海村の英国製マグノックス炉だった。だからこそ、核のゴミと向き合ったのも、英国が世界に先駆けていたといえるだろう。それに、これから日本が迎えるであろう状況は、英国の2001年以前の状況に大変似るに違いない。

自由市場にある民営化した原発とは一体どんな姿だろうか。そして日本企業がおかれているのは、どのような状況だろうか。

電気会社を選べる社会

まず、電力市場が自由化した社会とはどのようなものかお伝えしよう。

英国では人々は、どの旅行会社のどのパックにするかを選ぶような感覚で電気供給会社を選んでいる。大手は6社だが、準大手も含めると20社ほど、そのほかに地域型も存在する。さらに自家発電設置などのエネルギー供給会社は約1500ある。

ネット上には、どれが一番安いか検索できるサイトがたくさんある。試しに、ロンドンの日本人が多く住む西部地域の郵便番号で検索してみた。

あるサイトでは16社38プランが紹介された。別のサイトで13社が表示されたが、前のサイトには載っていなかった会社もあった。もちろん、再生可能エネルギー専門の会社を選ぶこともできる。電力会社の切り替えやプランの変更はサイトで簡単にできるため、サイト間の競争も激しい。値段は細かい設定によって、もっとバラエティが出てくる。ただ、電気代はこの7年間ほどでおよそ2倍に値上がりしてる。

ドイツも英国と似たような競争社会である。対して日本とフランスでは、いまだほとんど選択肢がない。

そして市場自由化が進んだことで、外資が参入している。自由化したなら避けられない状況だ。ビッグ6と言われる発電と供給の両方をもつ大手は、4社が外国の企業である。英国の企業は、ブリティッシュ・ガスのブランド名を使うセントリカ、スコティッシュ・サザンエナジー社の2社。そのほかドイツのE-ONとRWE、フランス電力、スペインのイベルドローラの6つである。英国で運転中の原発は、1基をのぞいてすべて英フランス電力が所有している。なぜなら、英国政府が運転中の改良ガス冷却炉の原発を全部、フランス電力に売ってしまったからだ。2008年のことだ(完了は2009年)。

当時すでに、原発を新設するための土地を新たに確保することは大変厳しくなっていた。そのため、「既に原発のある敷地に、新しい原発を建設する」という政府の方針だった。つまり「古い原発と新設の権利の抱き合わせ」販売だったのだ。より古い世代のマグノックス炉のほうは早々に民営化をあきらめて、英国の「原子力廃止措置機関」の管理のもとにある。現在、1基をのぞいて、すべて運転が終了した。

日立が建設しようとしている原発は、マグノックス炉原発がある2つのサイト(Oldbury とWylfa)である。「原子力廃止措置機関」は、古いマグノックス炉があるサイトに原発を新設する権利を企業に売った。2009年にドイツのE-ON社とRWE社が共同で「ホライズン・ニュークリア・パワー」社を設立し、原発を新設する予定だった。

しかしドイツ政府は、福島原発事故をうけて脱原発を決定。英国のすべての原発計画から撤退した(フランスのアレヴァとの共同事業も撤退した)。この撤退した後を買ったのが、日立だったのだ。

もう一つの東芝ウエスティングハウス社も同様である。やはり「原子力廃止措置機関」の管轄にあるセラフィールドに原発を新設する権利を、Nugenという会社がもっていた。この会社は、スペインのイベルドローラ、スコティッシュ・サザンエナジー、フランス・ベルギーのGDFスエズ社の3社が株をもっていた。しかし、福島原発事故を受けて、スコティッシュ・サザンエナジーが撤退、残り2社が株を購入、半々ずつ保有していた。しかし、スペインのイベルドローラも撤退してしまった(スペインに原発は8基あるが新設計画はない)。持ち株を東芝ウエスティングハウス社に売ったのだ。よって現在の株主は、東芝ウエスティングハウスとGDFスエズだ。

このように日本の企業は、福島原発事故の後に、英国の原発市場から撤退したドイツ、スコットランド、スペインの企業の株を買って、英国に原発を新設しようとしているのだ。

ここまでで既に頭が混乱してしまうのではないか。原発という国のエネルギー問題に関わることなのに、しかも大変な危険物を扱うのに、まるで車の会社が売られるかのように売買されている。これだけでも、英国の原発市場の特殊性が伝わったのではないかと思う。

でもそれだけではない。問題は、英国政府は建設に一銭もお金を出さないということだ。新興国では、その国の政府が外国の企業に原発を発注し、お金を払う。責任も引き受ける。かつて日本もそうだった。でも英国は、民間企業が自由化した市場で自由に経済活動をしているのだから、建設の費用など一銭も出さないのだ。これは企業の投資である。そのせいで先陣をきる英フランス電力は、大きな問題を抱えた。日立や東芝WHにも関わってくる問題だ。

フランスの反撃と中国の投資

改良ガス冷却炉を買収したフランス電力にとって、大きな誤算は福島原発事故が起きたことだ。

英国に建設する原発の費用はかさみにかさんで、2基で160億ポンドとなった。繰り返すが、英国政府は建設に一銭も出さない。これは投資である。

160億ポンドを払いきれないフランス電力は、中国国有の原発企業である二社を投資に誘い、英国政府、中国政府、英フランス電力の三者によって合意がなされ、昨年2013年10月中旬に発表された。

比率は、フランス電力が45-50%、アレヴァが10%、中国国有二社が30-40パーセント、残り最大15%は他の投資家向けである。

中国国有二社とは、北京の中国核工業集団公司と、広東の中国広核集団である。フランスは広東の集団と30年以上も交流がある。中国の原発をリードしてきたのは、フランスの技術で「勉強」をしてきた広東の集団だった。

しかし近年、両者は熾烈な主導権争いを展開し、北京の公司が逆転し始めている。なんといっても原発庁と呼べる存在だし、軍事面も管轄している。2010年に広東の集団のトップが北京の公司のナンバー2となり、共産党の中心部に入りこむことになった。一党独裁の国では、大会社の中心部にいる人物たちの動きを操縦するための、古典的なやり方であると言われる。

このことが、フランスの中国戦略にも大きな影響を与えた。その上、ここ1,2年、フランス電力と広東の集団とは「秘密の合意文書」の暴露などでスキャンダル続きである。内容が内容である上に中国の閉鎖性もあって、結局何の合意なのかはっきりしないが、フランス電力のトップ、アンリ・プログリオは「フランスの技術を中国に売り渡している」「中国にこびすぎだ」と散々に非難されている。背景には、35基を新設予定の中国市場に多くの国が名乗りをあげ、競争が激化していることがある。

これらの暴露は広東の集団を怒らせたと報道されるが、それでも英国の原発投資に広東と北京の両方を誘い込むのに成功したのは、中国の野心と、フランスの外交の巧みさと言わなければならないだろう。

状況は英国も似ている。昨年2013年12月、原発に関する合意の後にキャメロン英首相は訪中した。中国への輸出を増やそうと、売り込みのために100人超の英企業幹部と同行したという。ファイナンシャル・タイムズ紙は首相に対し「これ以上ないほどに低姿勢で、英国人にとっては恥ずかしいほどだった」「ひどいこびへつらいだった」と酷評した。

そして、当然英国のメディアは、自国の原発に中国資本が傘下することに不安をあらわにしている。ただ、自由市場を旗印とする金融大国だけあって「企業の透明性に不安がある」という言い方ではある。シティのど真ん中には中国銀行があり、真っ赤で大きな国旗が道沿いにひるがえっている。外国企業があまたある国際性に富んだシティの中で、このように国旗をかかげる所は他に見当たらない。存在を誇示しているかのようである。

続く(2)推進派と反対派の戦い。そして英の奇妙な戦略