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一戸建ての「土の庭」はもはやお荷物?マンション・バルコニーのほうが好まれる最新事情

櫻井幸雄住宅評論家
分譲マンションには、バルコニーの居住性を大きく上げる事例も。横浜市内で筆者撮影

 かつて「猫の額のように狭い」とか「土がなく、人工的で味気ない」と言われたマンションのバルコニーが進化。庭に対する考え方が変わってきたこともあり、一戸建ての庭よりもむしろ楽しいと評価を高めている。

 進化したバルコニーの一例が上の写真。西日本プロパティーズと大和地所レジデンスの「プレディア横濱山手パークヴィラ(全戸販売終了)」のモデルルームで撮影したものだ。広いし、プライバシーが保たれる、リビングとの一体感があるなど工夫を凝らした事例である。

 これなら、リビングに続く遊び場として子供が喜ぶだろう。大人も「庭に出る」機会も増えそうだ。

 このように「楽しめるバルコニー」がマンションに増えたのは21世紀に入ったあたりから。いくつかの工夫とバルコニーならではの特性で、「一戸建ての庭より快適」と思われるまでになった。

 どのへんが快適なのかというと……。

 まず、手すりを磨りガラスにするなどの工夫で、外から見えないスペースになったこと。これで、人目を気にすることなく、日光浴ができたりする。

 次に、土の庭でないため、虫が少ないし、雑草を抜くといった庭の手入れをしなくて済む。土の庭にはない特性が好まれるようになったわけだ。

 さらに、上の写真のように窓が大きく開き、床の高さをリビングとそろえることで、リビングの延長として使えるバルコニーもある。マンションのバルコニーは、土の庭にはない魅力があるわけだ。

 かつては「一戸建ての庭より格下」とみられていたマンション・バルコニー。それがどのように進化し、評価を高めてきたのか。日本の「庭」の歴史を振り返ってみたい。

「土の庭」が憧れを集めたのは20世紀まで

 20世紀まで、一戸建ての「土の庭」は豊かさの象徴だった。

 樹木を植え、岩を配置して池で鯉を飼ったら、それはもう成功者の証。多くの人が、そんな庭で静かな老後を楽しむことを夢見た。が、いまどき、そんな生活に憧れる人は少ないだろう。

 それどころか、今、「土の庭」はお荷物になりつつある。

 まず、「土の庭」は維持する費用と手間がかかる。庭木の剪定は年に2回行うのがよいとされるが、その負担が大きく、庭師に入ってもらうのは年に1回というケースが増えてしまった。庭の広さ、樹木の量にもよるのだが、半年に1回手入れをする場合、1回あたりの費用は3万円〜5万円程度。その費用を節約するため、年1回にすると、1回の費用が増して5万円とか6万円になってしまう。年金暮らしになったら、年1回も無理ということになりかねない。

 一方で、温暖化の影響か、庭木も下草もよく育つ。育ちすぎるくらいで、雑草を抜こうとすれば、夏は虫との戦いになる。この虫を毛嫌いする人が以前より増えたことも、「土の庭は面倒」とされる理由として大きい。

 そもそも現代の一戸建て住宅は庭を駐車スペースとして活用するケースが増えた。コンクリートを打設して、車、バイク、自転車を置く。車1台分の駐車スペースを設けてもまだ余裕があれば、2台目の駐車スペースをつくってしまう。

 かつて「庭付き一戸建て」と呼ばれた一戸建て住宅なのだが、今は「駐車場付き一戸建て」と呼んだほうがよいかもしれない。それくらい、今は「土の庭」を減らす傾向が出ているわけだ。

 「土の庭」を減らす代わりに、一戸建てでは建物の2階にバルコニーを設けるようになった。そこにいくつか鉢植えを置いて緑を楽しむのである。

 2階のバルコニーならばプライバシーを保ちやすく、虫も少ない……一戸建てでも、マンションのような庭=バルコニーが好まれるようになっているわけだ。

バルコニーライフを快適にする要素とは

 一戸建ての土の庭よりもマンションのバルコニーのほうが快適……そう思われるようになったのは、マンション・バルコニーが時間をかけて進化した成果でもある。

 日本のマンション・バルコニーは大きく2つの面で進化してきた。

以前より広く、目隠しもしっかりと……

 昭和40年代までマンションのバルコニーは、今よりずっと狭かった。奥行が1メートルに満たないバルコニーが多く、洗濯物も干せないケースがあった。

 昭和40年代に数多く建設され、今も人気の高い秀和レジデンスのマンションも、バルコニーのサイズはミニマムだった(下の写真参照)。

都心部に残る秀和レジデンスのバルコニー例。筆者撮影
都心部に残る秀和レジデンスのバルコニー例。筆者撮影

 昭和時代の建築技術では、大きなバルコニーを設置できなかったという理由もあるのだろう。エアコンの室外機置き場くらいにしか利用できないバルコニーが少なくなかった。

 加えて、目隠しもなかった。

 重量を抑えるため、バルコニーの手すりは鉄柵になるケースが多く、下から見上げるとバルコニー内が申し訳ないほど丸見えだった。

 その分、住戸内の日当たりや風通しがよく、独自の外観デザインが実現したのだが、バルコニーライフを楽しむことはできなかった。

 そこで、バルコニーは2つの面で進化した。まず、奥行がどんどん広がった。現在は、奥行が1.8メートルから2メートルあるバルコニーが主流だ。

 むずかしい話になってしまうのだが、バルコニーの奥行が2メートルを超えると、超えた分が容積算入されてしまう。そのため、「奥行2メートル」が、一般的なバルコニーのフルサイズとなる。その「奥行2メートル」まで広げたバルコニーが増えたわけだ。

奥行が約1.9メートルあるバルコニーの例。大阪府吹田市で分譲中の「ルネ江坂江の木町」で筆者撮影
奥行が約1.9メートルあるバルコニーの例。大阪府吹田市で分譲中の「ルネ江坂江の木町」で筆者撮影

 さらに、下からの目線が気になるバルコニーでは手すりに磨りガラスや曇りガラスを設置するケースが増えた。下から見上げてもバルコニー内が見えないようにしたわけだ。もう一つ、隣り合う住戸との間に設置されるパーティションを床から天井までのフルサイズとした。

床から天井面まで塞いだフルサイズのパーティション例。筆者撮影
床から天井面まで塞いだフルサイズのパーティション例。筆者撮影

 手すりとパーティションの改良で、マンションのバルコニーはプライバシーを守りやすくなった。下から見られず、横からの視線も気にならない。さらに、目の前に背の高い建物がなければ、上から見下ろされることもない。

 これは、一戸建ての庭との大きな違いになる。一戸建ての庭の場合、お向かいの2階から丸見えになることが多く、その可能性を考えると、庭での過ごし方が制限されがちであるからだ。

「SK」などバルコニーの設備も充実

 プライバシーを保ちやすく、人目を気にせずいろいろなことができるバルコニーでは、楽しさを広げるため、設備も充実するようになった。

 たとえば、バルコニーで水が使えるように外部水栓を設置。深めのシンク(流し)と組み合わせ、SK(スロップシンク)と名付けられている。SKは鉢植えの水やりや手を洗うときに利用できるだけでなく、子供の上履き、釣り道具、ゴルフ道具などを洗うときにも便利だ。

 以上、奥行1.8メートルから2メートルで、磨りガラス、フルサイズのパーティション、そしてSKを備えたバルコニーは、郊外のファミリー向けマンションで実現することが多い。家族で過ごす休日をより楽しくするスペースになっているわけだ。

奥行2メートルで磨りガラスの手すり、フルサイズのパーティション、SKを設けた「プレミスト昭島モリパークレジデンス」。同マンションは完売間近で、まもなく第2弾の販売が始まるほどの人気に。筆者撮影
奥行2メートルで磨りガラスの手すり、フルサイズのパーティション、SKを設けた「プレミスト昭島モリパークレジデンス」。同マンションは完売間近で、まもなく第2弾の販売が始まるほどの人気に。筆者撮影

 ちなみに、マンションの1階には専用庭付き住戸が設けられることが多いのだが、そのマンション専用庭にも変化がみられる。

 それは、「土」が消えつつあること。マンション1階住戸の専用庭にタイルなどを敷き詰めて、「テラス」にすることが増えているのだ。その場合は、「専用庭」ではなく、「専用テラス」と呼ぶケースも生まれている。

埼玉県さいたま市で販売中のマンション「シティハウス浦和針ヶ谷」の1階住戸に設けられている専用テラス。筆者撮影
埼玉県さいたま市で販売中のマンション「シティハウス浦和針ヶ谷」の1階住戸に設けられている専用テラス。筆者撮影

 「土の庭」が必ずしも喜ばれなくなり、住宅のつくりに変化が生じてきたことは非常に興味深い現象だ。そのうち、「土の庭」はレトロで希少とされる日がくるのかもしれない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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