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今は「ペット可」が当たり前、でも23区内分譲マンション2階で大型犬を飼うのは可能?

櫻井幸雄住宅評論家
一戸建てならば猫3匹も大型犬も飼育可能だが……。猫とくつろぐ筆者を家人が撮影

 結論から申し上げると、一部の分譲マンション住戸で大型犬の飼育は可能。そして、23区内に立地するマンションの2階で大型犬を飼うことができるという最新事例もある。しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

 今では信じられないだろうが、昭和の時代まで日本の分譲マンションは「犬猫の飼育禁止」だった。鳥や魚、フェレットなどの小動物なら許されたが、犬と猫は、体の大きさにかかわらず全面禁止だった。

 賃貸ではなく、自分で所有する分譲マンションならば、本来、ペット飼育を制限されるいわれはない。現に、欧米の集合住宅は昔から犬猫の飼育は自由だった。

 昭和の日本で「分譲マンションで犬猫の飼育禁止」になっていたのは近隣に鳴き声や匂いで迷惑がかかるかもしれず、アレルギーの人や怖がる人に迷惑がかかるから……。要するに、共同生活においてトラブルの元になるかもしれないので、犬や猫の飼育はやめましょう、と決まっていたわけだ。

 それでも、猫1匹くらいなら、小型犬1匹くらいなら、とこっそり飼育する人が後を絶たず、問題になることが多かった。

 ペット問題が生じたマンションでは、管理組合の話し合いで「すでに飼っている犬猫は、1代限り許可」とされた。「ルールで禁止されているから、本当は飼育不可。が、家族のような犬や猫を捨てろとは、言えない」との理由で、「今、飼っている犬猫だけは認めましょう」としたわけだ。

 動物愛護の面からも順当な判定といえる。が、それが「犬猫の飼育禁止」の効力を弱めた。「すでに飼っている人が許されるのだから、新たに飼うことも許可すべき」との声が出て収拾がつかなくなったのである。

 結局、平成に入ったあたりから、日本でも分譲マンションの犬猫飼育は条件付きで可能となった。

エレベーター内では、抱っこして

 今、分譲マンションでは、いくつかの条件を守ることで犬猫の飼育が容認されている。

 条件とは、たとえば、エレベーターや共用廊下など、他の住人と一緒になる場所では、犬猫を抱きかかえる、もしくはカートに乗せるといったこと。犬や猫を怖がる人、嫌う人もいるので、しっかり確保しておくことが求められているわけだ。

犬用カートの一例。万が一にも犬が飛び出さないよう、ファスナーで蓋ができるようになっている。筆者撮影
犬用カートの一例。万が一にも犬が飛び出さないよう、ファスナーで蓋ができるようになっている。筆者撮影

 飼育可能ではあるが、犬の場合、「中型犬2匹まで」という条件がつくことが多い。

 そして、大型犬はたとえ1匹でも飼うことができないというのが一般的。じつは、この「大型犬の飼育禁止」によって、マンション購入をあきらめる人がいるのも事実だ。

 ラブラドール・レトリーバーや秋田犬など、大型犬のファンは日本にも多く、実際に飼っている人もいる。しかし、分譲マンションでは大型犬の飼育を禁止していることが多い。大型犬となると、こっそり飼うこともできないので、購入をあきらめざるを得ないのだ。 

 もちろん、マンションではなく、一戸建てを買えば問題ないのだが、同じ場所でマンションと一戸建てを比べれば、一戸建てのほうが価格は高くなる。また、一戸建ては駅から離れた場所で分譲されやすいので、通勤、通学に不便という問題も生じやすい。

 駅に近く便利な場所でマイホームを買いたいと思えば、マンションが現実的な選択肢となる。が、大型犬を飼っていると、その便利な分譲マンションを買いにくくなってしまうわけだ。

「大型犬飼育可能」で多いのは、郊外マンションの1階住戸

 分譲マンションで「大型犬の飼育可能」という住戸をみつけやすいのは、郊外。郊外マンションの1階住戸で専用庭付き、そして専用庭に道路から出入りする扉が付いている住戸であれば、大型犬飼育可能となりやすいからだ。ここでポイントとなるのは、専用庭から大型犬を外に連れ出すことができるという点だ。

 大型犬の場合、性格が大人しいといっても、体格が大きいことで迫力がある。怖がる人もいるので、他の居住者との接触をなるべく避けることが求められる。その点、専用庭から出入りできる1階住戸であれば、飼っている家族にとっても、犬が苦手な隣人にとっても好都合であるわけだ。

 ただし、大型犬飼育可能な住戸は数が少ない。そもそも、専用庭付きの1階住戸はもともと希少で、特に、東京23区内ではみつけにくい。

 たとえば、都心部に多いタワマン(塔状の超高層マンション)の場合、1、2階に住戸を設けない(エントランスや共用施設として活用される)のが普通なので、専用庭付き住戸はもちろん、1階住戸も存在しない。

 都心部はもちろん、東京23区内では一戸建てよりマンションのほうが多くなっているが、「大型犬飼育可能なマンション住戸」を探すのは、非常に苦労するわけだ。

 そのなか、「大型犬飼育可能な住戸」を備えたマンションが世田谷区内で販売をはじめている。しかも、そのマンションは1階住戸だけでなく、2階にも「大型犬飼育可能な住戸」があることを特徴とする。

 2階住戸で大型犬飼育可能となるのは、私が知る限り日本で初めてである。

2階テラスから歩行者専用通路に下りて散歩に

 大型犬飼育可能住戸を設けたのは、三菱地所レジデンスが東急大井町線の等々力駅と上野毛駅の間で建設する低層マンション。全39戸のうち、6戸が「大型犬飼育可能」となり、1階に3戸、2階に3戸が配置される。

 このマンションはペットと快適に暮らすことを目指しており、敷地内に犬の遊び場となる「ドッグパーク」が設置される。1階住戸3戸は、テラスに設けられた出入り口から簡単にドッグパークに行くことができるし、そのまま外に行くための歩行者通路も設けられている。

 注目したいのは、2階に位置する3戸の「大型犬飼育可能住戸」だ。2階住戸にもテラスの出入り口があり、ドッグパークや外に行くことができる……と説明されても、具体的な動線が想像しにくい。

 大型犬と一緒に階段で1階まで下りるのだろうか。

 建物ができる前なので、実物で確認ができない。そこで、図面を取り寄せて説明を聞くと、階段を下りる苦労はほとんどしなくて済むことがわかった。

 このマンションの敷地は高低差があり、2階住戸のテラスから簡単に外の通路に出やすい。大型犬にリードを付けて外に出れば、あとは歩行者専用通路を下りて1階のドッグパークに行くことができる仕組みになっていた。

 リゾートホテルで出会うことが多い「ちょっとした迷路」のような動線で、むしろ楽しそうだ。

 ただし、2階に「大型犬飼育可能住戸」を配置すると、その下の住戸は犬の足音などで迷惑がかかるのでは……そう思ったが、階下は駐車場や駐輪場などの共用施設になっており、住戸は設けられていない。よく考えられているわけだ。

 東京23区内では、タワマンばかりがつくられていると思いがちだが、じつはそんな工夫を凝らした低層・小規模マンションも登場しているのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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