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ニーズはあるのに……なぜ世田谷の新築分譲マンションで、駅近1LDKはみつけにくい?

櫻井幸雄住宅評論家
一戸建て住宅地として発展してきた世田谷区に分譲マンションの1LDKは少ない。(写真:アフロ)

 世田谷区内や隣接する目黒区内には落ち着いた住宅エリアが多い。加えて、人気の飲食店、品ぞろえ豊富なスーパーマーケット、アンティーク家具の専門店などもそろっている。たとえば、世田谷区内の二子玉川駅周辺や目黒区内の自由が丘駅(駅周辺には世田谷アドレスの場所もある)ならば、休日や夜の楽しみも広がる。 だから、いろいろな年代の人が暮らしてみたいと考えている。

 子育てをしているファミリーだけでなく、夫婦共働きの2人暮らしも、そして、1人暮らしの人も「23区内の歴史ある住宅ゾーン」に魅力を感じるわけだ。毎日出勤しなくてもよい勤め人が増えた今、静かで緑の多い環境の評価が高まっている。

 ところが、現実に世田谷区内や目黒区内で1人暮らしに向く1LDKの分譲マンションを探そうとすると、思いのほか苦労する。特に、駅徒歩圏=駅から歩いて10分以内の分譲1LDKはみつけにくい。

 そもそも1LDK住戸は、駅に近い分譲マンションに多くなるのが普通。1人暮らしであれば、駅に近いほうが生活しやすいため、駅近のマンションに1LDKが設定されやすいからだ。

 ところが、世田谷区や目黒区では駅から歩いて10分以内の場所で新規分譲されるマンションで1LDKは滅多に出ず、多くは3LDK中心となってしまう。子供が2人の4人家族で生活できる間取りがそろえられるわけだ。3LDKより小さな間取りとなると、2人暮らしに向く2LDKがみつかる程度である。

探すのに苦労した約35平米の1LDK

 試しに、現在分譲中もしくはこれから販売される予定の新築分譲マンションで探してみると、自由が丘駅から徒歩10分のマンションで1LDK〜3LDKの間取りをそろえているものがあった。ただし、その1LDKは40平米台の面積があり、正確には「1LDK+S」。寝室1つの1LDKではなく、寝室2つになっているため、現実的には2LDKタイプといえるものだった。

 40平米台となると、それなりの価格になってしまう。1人暮らしだから、30平米台の1LDKでよい、と思ってもなかなかみつからないのだ。

 駅徒歩10分以内の新築マンション1LDKはみつからない、とあきらめかけたとき、販売前の1LDKを発見した。それは、東急田園都市線の用賀駅から徒歩9分で、全51戸のマンション。物件概要をみると、「先着販売2LDK・3LDK」となっているのだが、PLANの項目に1LDKの間取り図が入っていた。専有面積35.09平米で、シューズインクローク(大型の下足入れ)が付く紛れもない1LDKだ。

 念のため、不動産会社に確認したところ、まだ発売前なので先着販売住戸の項目に入っていないが、間違いなく販売する予定という。残念ながら価格未定だが、複数戸が販売されることになっている。

 以上のように、世田谷区や目黒区では駅徒歩10分以内の1LDKを探しにくい。それが、実情なのである。

3LDK中心で、1LDKがなかなか出ない理由

 世田谷区に代表される歴史ある住宅地内では、分譲マンションの1LDKが出にくい……それは、不動産業界ではよく知られた話である。

 理由は、敷地の広い一戸建てが集まる場所でマンションをつくる場合、近隣との調和が求められるからだ。落ち着いた住宅ゾーンに建設するなら、マンションでもファミリー世帯が集まる建物が好ましい。そのような考えから、3LDK中心のマンションが開発されてきた歴史がある。

 昭和の時代には、「1人暮らしの人は、夜中もギターを鳴らして騒ぐことがある」と敬遠されることもあった。そんな人、今どきいないと思うのだが、「3LDKに住むファミリー世帯のほうが安心」という意識は残っていそう。特に、昔からの住人が多い駅周辺では、マンションをつくる不動産会社も近隣に気を遣う。地主がマンション用地として土地を売却するときも「新たにつくるマンションはファミリータイプだけにして」と条件を付けることがある。だから、3LDK中心のマンションが増える、という動きが出てしまう。

 しかし、今の日本では1人暮らし、2人暮らしの世帯が増えている。特に、東京23区内では、その傾向が強い。

 そして、23区内の地価が上昇している現在は、価格が抑えられる1LDKのニーズが高まっている。もはや、「世田谷区にふさわしいマンション住戸は3LDK」という時代ではないだろう。

 二子玉川駅や自由が丘駅を生活圏にできる分譲マンションの1LDKならば購入したいと考える1人暮らしは少なくない。新築分譲マンションに1LDKが増えれば、世田谷区の人気は今よりずっと高くなるのではないだろうか。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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