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知られざる数億ションの世界(9)庭付き豪邸のほうがよくない?に富裕層がノーという理由

櫻井幸雄住宅評論家
今の世の中、目立つ豪邸暮らしは、凶悪事件に巻き込まれるリスクが増えてしまった(写真:イメージマート)

 分譲価格が数億円、ときに10億円以上となる高額マンションを見て、「その値段なら、庭付き豪邸のほうがよい」という声を聞くことがある。マンションの1室よりも、一戸建てのほうがのびのび暮らせるし、建て替えもリフォームも自由。庭にプールをつくることもできる。マンションなど買わなくてもよいのに、というわけだ。

 その理屈も理解できる。

 しかし、すでに豪邸を所有する富裕層が数億ションを購入する場合、「のびのび」とか「自由」とは異なる価値に魅力を感じているケースが多い。

 数億ションならではの価値とは何か。資産性や売りやすさ、利便性の高さ……それもあるが、意外に重視されているのが、防犯性の高さなのである。

豪邸に住むと、犯罪者に狙われやすい?

 今の日本では、東京都狛江市で高齢の女性が殺害されるなど凶悪な強盗事件が多発している。これらの事件に戦々恐々としているのが、広い敷地の一戸建てに住むシニア層だ。

 土地面積が200坪以上であれば、土地価格が低い郊外でも「豪邸」と認識される。その5倍、土地面積1000坪の家に住んでいる人の場合、車を買うときの車庫証明は住所を書くだけだという話を聞いたことがある。車を停める場所の詳細図は不要で、「庭のどこかに車を置く」で済むのだそうだ。

 敷地がそれだけ広ければ、一見しただけでお金持ちの家とみられてしまう。さらに、敷地が広すぎて、ガラスが割られても、また大声を上げても音が隣家に届かない可能性もある。だから、怖いのだ。

 じつは、敷地が広いだけで家の中に現金はなく、慎ましく暮らしている家庭もあるのだが、家が大きいだけで狙われやすい、というリスクが生じてしまう。

 防犯性を高めるため、警備会社のセキュリティ契約を行って防犯センサーなどを設置するーーそれは、当然のこととして大分前から行われている。

 身を守るため、武器となるものを備えるーーそれは、よいことかどうか分からない。体力と運動能力が落ちているシニアが木刀やバットを用意しても、相手に取り上げられて、逆に危険が増すかもしれないからだ。

 そこで、豪邸に住むシニアが「安心して暮らすなら、やっぱりアレだな」と認識しているアイテムがある。

 それが、数億ション。特に、超高層マンションの上層階に設置される高額住戸なのだ。

超高層なら、どこに住んでいるかわかりにくい

 数億ションのうち、超高層マンションの上層階に位置する高額住戸は、富裕層にとって安全性の高い住まいとなる。

 その理由は、3つある。

 まず、現在のマンションはオートロックで建物内の出入りが制限されるし、監視カメラで録画もされるので、犯罪抑止力が大きい。なかでも超高層マンションは出入り口の数が少ないので、監視の目が行き届きやすい。

 加えて戸数規模が大きい超高層マンションならば、どの住戸に住んでいるのかがバレない、という利点がある。

 一戸建てならば、家に出入りするだけで「あの家の住人」とわかってしまう。しかし、居住者が多い超高層マンションならば、最上階の高額住戸に住んでいても、建物に出入りする姿だけではそのことがわかりにくい。

 都心の超高層マンションで、絵に描いたような昭和のおじさん=ステテコに腹巻き姿が最上階の住人だったことを知って驚いたこともある。

 建物内に共用の廊下を設置する「内廊下」方式になっていれば、さらに安心。外部から双眼鏡で観察されても「どの部屋の住人か」がわからないからだ。

 シニアの2人暮らし、1人暮らしだと狙われやすい、という不安があるのだが、シニアだけなのか、家族と同居なのかも、建物の出入りだけでは分からない。その点も安心材料となる。

夜間も警部スタッフが常駐するのも安心

 2つめの理由として、戸数規模の多い超高層マンションならば、「24時間有人管理」が採用されやすいことを挙げるべきだろう。24時間有人管理ならば、夜間も警備スタッフが常駐するので、安全性が高まる。

 ちなみに、セキュリティを固めるのは、数億ションの必須条件となり、小規模マンションでも警備スタッフが夜間常駐する体制が採用されやすい。その分、小規模マンションでは毎月の管理費が高くなり、管理費だけで毎月10万円以上になることがある。

 といっても、毎月10万円で済むなら、豪邸で警備を固めるよりははるかに安い。

 敷地の広い一戸建ての場合、警備会社とセキュリティ契約を結んでも、警備スタッフが夜間に常駐することはない。依頼することは可能かもしれないが、毎日24時間、警備スタッフに常駐してもらうとなると、費用は莫大。毎月百万円を超えるだろう。

 つまり、警備会社に頼る場合、マンションは一戸建てよりも安上がりで、質の高いセキュリティが実現することになるわけだ。

郵便受けや電気のメーターで在宅を確認されない

 最後の安心材料は、名前や在宅の確認がされにくいことだ。

 これも近年のマンション全般に言えることだが、集合郵便受けに名前を出さないし、郵便受けから郵便物を抜き取ることもしにくくなっている。さらに、電気のメーターなども簡単にみることができない。

 その点、一戸建てでは表札が出ているので、名前が知られるし、今家に居るのか、長期の旅行中なのかも悟られやすい。

 郵便物を抜き取られて、いろいろな情報を盗まれるリスクもある。マンションならば、それらの心配がないわけだ。

 加えて、マンション暮らしならば、訪問販売が来ないという利点がある。一戸建ての場合、リフォームやシロアリ退治などの売り込みが頻繁にくるし、なかには明らかに怪しい訪問もある。マンション暮らしなら、そういったリスクが極めて少ない。

 超高層マンションの高額住戸にはいくつもの安全性が備わっているわけだ。

 今の世の中、びっくりするくらい敷地の広い豪邸に住むことは、リスクを抱えるようなもの。そして、真のお金持ちは、財産があることを隠そうとする。あえて地味な服を選ぶし、キラキラ光る時計・宝飾類は避ける。

 そのような生き方をする富裕層は、みるからにお金がありそうな豪邸よりも、マンション内に隠れてしまう数億住戸を好むようになった。

 首都圏郊外や地方都市で超高層マンションを分譲すると、最上階高額住戸から売れてしまう……その理由には「人口が少ない田舎の豪邸は狙われやすくて怖い」ことがあるのかもしれない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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