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知られざる数億ションの世界(3)超高額住戸って、どれだけ広いものなの?

櫻井幸雄住宅評論家
1990年代の数億ションには、100畳大のリビングを備えた住戸もあった。筆者撮影

 新築時の分譲価格が数億円、ときに10億円を超える高額住戸=数億ション、10億ションは、一般の住まいとは大きく異なる部分が多い。

 なにより驚くのが、サイズの違いだ。

 多くのファミリー世帯が購入する平均的2LDK、3LDKは60平米台、70平米台のものが多いのだが、当然ながら数億ションはそれよりずっと広い。

 では、どれくらい広いのか。

 不動産業界で語り継がれている「東京都内で最も広いマンション住戸」は、700平米を超えるもの。普通サイズの3LDKが10戸収まる広さだ。昔の広さ表記で200坪以上となるので、一般的な建売住宅の敷地6戸分以上となる。

 もっとも、700平米住戸は、新築分譲時に複数の住戸をつなげた特注品。はじめから「700平米住戸」として売りだされたわけではない。

 それほど大きいマンション住戸は、“既製品”として販売されたことがないのだ。

 どうしても規格外の広さが必要なら、複数住戸をつなげることで、対応は可能。実際に特注する人が現れているので、そこまで広い住戸は用意されないわけだ。

 では、数億ションとして分譲される“現実的な”広さとはどれくらいなのか。その答えは、「時代によって、変わるのだが……」という但し書き付きとなる。

20世紀までは多かった、300平米台、400平米台の住戸

 数億ションには、「広くても、このくらいまでだろう」という基準というか目安がある。

 それは、「400平米台まで」だ。

 21世紀の初頭=いまから20年くらい前まで、都内における最上級マンション住戸には300平米以上あるものが多かった。そして、一部に400平米台住戸があった。

 分譲マンションでは広くても400平米台までなので、「こちらには500平米超えの住戸もあります」という高額賃貸マンションが、それ以降にもつくられている。が、それはあくまでも特殊事例だ。

 20年くらい前まで、300平米、400平米の高額マンションが盛んに分譲されたのは、日本に在留する外国人エグゼクティブたちが「ホームパーティを開くことができる住まい」を求めたことが原因だった。

 当時は、ホームパーティのために100畳大クラスのリビングが必要とされ、パーティに供与される食事を料理人が用意するため、キッチンは20畳以上に。冒頭に掲げた写真がまさに、「100畳大リビング」のもの。1990年代に港区内で撮影した写真を改めて掲出しよう。

中央の広いスペースを中心に、向かって左側のスペースを加えて100畳の広さがあったリビングの例。35年以上前に港区内につくられたマンションだった。一眼レフカメラで筆者がフィルム撮影したもの
中央の広いスペースを中心に、向かって左側のスペースを加えて100畳の広さがあったリビングの例。35年以上前に港区内につくられたマンションだった。一眼レフカメラで筆者がフィルム撮影したもの

 リビングが100畳大で、向かって右側の部屋は書斎として使うのがふさわしく約30畳大だった。

 300平米、400平米の住戸には、巨大な玄関と、その玄関スペースに来客用として「着替えができる広さのトイレ」を設置するケースも多かった。

 パーティに出席する女性は、露出度の高いパーティドレスを着用することがある。その派手なドレスで外を歩くわけにはいかないので、パーティ会場で着替える。そのために、「着替えができる広さのトイレ」が必要なのだと、その当時、初めて知った。

これも20年ほど前に取材した300平米台マンション住戸の玄関部分。今は、こんなに広い玄関を備える数億ションにはお目にかかれない。まだ若い頃の筆者がフィルム撮影した
これも20年ほど前に取材した300平米台マンション住戸の玄関部分。今は、こんなに広い玄関を備える数億ションにはお目にかかれない。まだ若い頃の筆者がフィルム撮影した

 さらに、客が使用するための大型クローク、一部泊まる人のためのバストイレ付き寝室などを設置したり、パーティを開いている間、家族がいつもの生活を行えるようにプライベートLDKと個室が用意されていたりすることもあった。

 それらに加え、メイド室などもつくると、300平米、400平米の広さが必要だったのである。

 当時の高額住戸には、玄関を2つ設けたものも少なくなかった。

 「正門と通用口」という区分けではなく、もうひとつの玄関もまあまあ立派につくられた。パーティに来る客と顔を合わせないで済むように、家人が日常的に使用する玄関をもうひとつ設けたわけだ。

 しかし、2010年頃から、そんな豪華客船のような間取りは分譲マンションから姿を消すようになった。2008年のリーマンショックの影響か、ホームパーティを頻繁に開く外国人が減ったためだ。日本では、ホームパーティを開くより、料亭でヘルシーな日本料理をいただくほうが人気になったのかもしれない。

今は120平米程度が人気。広くても200平米程度に

 もうひとつ、2010年以降、そこまで大型の住戸がつくられなくなった理由がある。それは、「将来の売りやすさ」を重視するようになったことだ。

 300平米、400平米もの広さになると、取引価格は高額になる。山手線内側エリアでは新築価格が10億円どころか、30億円、40億円という金額になりかねない。

 それだけの高額マンションを買ってしまうと、中古として売るときに苦労する。中古でも10億円をゆうに超える金額となり、それだけの現金を右から左に動かせる人は限られるからだ。

 買い手が現れにくい場合、売値を下げればよいのだが、それはしゃくに障る。売るのをあきらめると、巨大なマンション住戸が、お荷物になってしまう。

 そこで、今は、数億ションでも、120平米から140平米くらいの広さが売れ筋になっている。その広さであれば、中古価格が数億円で納まるので、買い手が多い。つまり、処分しやすいわけだ。

 お金に余裕がある人は、120平米の住戸を複数購入する。そのほうが合理的だと考えられている。

 もちろん、もっと広い住戸が欲しい、という人はいるので、大型住戸は今もつくられる。が、その広さはせいぜい200平米台までだ。

 300平米を超える特大住戸は、すっかり影を潜めている。

 かつて、100畳大もつくられたリビングもだいぶ小さくなった。それでも、50畳程度の広さがあるのだが、大型のソファセットを置くと、それほど広くはみえない。

 住戸の広さは控えめだが、その分、室内のインテリアや設備にはたっぷりお金をかける。それが、数億ションの新しいトレンドなのである。

窓が湾曲し、個性的なシステムキッチンを備えるのは「パークコート神宮北参道 ザ タワー」のモデルルーム。同マンションの最高額住戸は約237平米で13億7000万円だった。昨年秋、スマホで筆者撮影
窓が湾曲し、個性的なシステムキッチンを備えるのは「パークコート神宮北参道 ザ タワー」のモデルルーム。同マンションの最高額住戸は約237平米で13億7000万円だった。昨年秋、スマホで筆者撮影

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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