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首都圏新築マンションが6260万円……それでも売れる理由と購入者実態が明らかに

櫻井幸雄住宅評論家
首都圏新築マンション平均価格が大幅上昇。誰が買うのかと疑問の声もあるが。筆者撮影

 1月25日、不動産経済研究所の「2021年の首都圏新築分譲マンション市場動向」が発表され、2021年に首都圏で発売された新築マンションの平均価格が6260万円になったことが明らかにされた。1973年に同社の調査が始まって以来の最高額であり、新築マンションの価格は、バブル期の1990年に記録した6123万円を超えたことになる。

 そうなると「こんなに高い新築マンションは、もう買えない」との声も出てくる。が、2021年に首都圏で契約された新築マンションの総数をみると、コロナ禍以前の2019年を上回る3万5693戸となっており、新築マンションは売れていることになる。

 バブル期よりも値上がりしているのに、売れ行き好調……理解しにくい状況が生じているわけだ。

マンション価格を引き上げる2つの理由

 新築マンションの首都圏全体での平均価格はバブル期を超えた。が、大きく値上がりしているのは、JR山手線内側を中心にした純粋な都心部と、準都心や近郊外で駅に近い場所。もしくは、再開発がからむ物件であり、「好条件・高スペックの高額マンション」が牽引して、平均価格が上がったというのが正しい分析だろう。

 そうした「好条件・高スペックの高額マンション」を狙える人がじつは世の中に増えている。実際、マンションの販売現場では「超低金利の恩恵」「世帯年収が多いパワーカップルの増加」により、高額マンションがよく売れていると以前から言われてきた。

 住宅ローンの金利が低いので、高額のローンを組むことができる。夫婦共働きにより世帯年収が上がっているため、高額のローンを組むことができる。その結果、マンションの購入予算が上がっているというのである。

 以上の動きを、具体的な数字をあげて説明した興味深い調査データが、1月27日に発表された。

 この調査データをもとに、平均価格が6000万円超となった首都圏新築マンションの購入者の実態と、住宅ローン事情について解説したい。

6000万円超でも、毎月の返済額はバブル期の半分

 興味深いデータを発表したのは、長谷工アーベスト。新築マンション販売の実績が多く、過去のデータ蓄積も豊富な不動産会社だ。

 発表された調査データは「価格上昇市場における住宅購入主力層の検証」と名付けられたもの。そのなかで、特に興味深いのは約30年前のバブル期とコロナショック期の首都圏の新築マンション価格と住宅ローン事情を比較している部分、そして夫婦で住宅ローンを組む実情を分析している部分だ。

 まず、首都圏の新築マンション価格と住宅ローン事情の比較について。

 不動産経済研究所の発表によると、首都圏新築マンションの平均価格は、バブル期の1990年が6123万円だったのに対し、コロナショック期の2021年は6260万円。今はバブル期を上回る価格水準になっている。

 一方で、2つの時期は住宅ローンの金利事情も大きく異なる。

 フラット35(バブル期は住宅金融公庫融資)の金利でみると、1990年が4.95%~5.5%であったのに対して、2021年は1.28%〜1.37%。今はバブル期を大きく下回る水準となっている。

 また、1990年当時は、多くの人が、住宅金融公庫融資の固定金利ローンを利用していたのに対し、現在の主流は、民間金融機関による変動金利の住宅ローン。そちらはさらに金利が低く、優遇金利適用後の最も低いケースで0.35%程度の超低金利となっている。

 金利が低ければ、毎月のローン返済額は下がる。

 1990年に当時の平均価格6123万円のマンションを頭金1割、残り9割を住宅金融公庫融資利用で購入した場合、35年返済・ボーナス併用なしで毎月の返済額は29万6000円となった。

 では、2021年の平均価格6260万円のマンションを、上記同条件でフラット35利用(固定金利)により購入した場合は、どうだろう。

 こちらは、毎月の返済額が16万9000円ほどになり、毎月の返済額はバブル期より12万円以上も下がることになる。

 さらに、民間金融機関の変動金利・優遇金利適用による0.35%で購入した場合は、毎月の返済額が14万3000円程度となる。これは、バブル期の半分以下の返済額だ。

 新築マンション価格がバブル期を超えたことばかりにスポットライトが当たっているが、それを購入したときの住宅ローン返済額は、バブル期よりも大幅に軽減されているのだ。

 「超低金利のおかげで高額マンションが売れている」とされる理由が、大いに納得できる分析である。

ペアローンの利用が広まったのは、実は2015年以降のこと

 超低金利とともに、高額マンションの購入を可能にしているのは、夫婦でローンを組むという考え方が広まったことだ。

 その背景には、近年の働き方改革や女性活躍推進の取組により、女性が働き続けられる環境が整ってきていること、また金融機関の住宅ローンの対応が以前より柔軟になってきていることがある。

 「価格上昇市場における住宅購入主力層の検証」では、夫婦でローンを組む人が増加したのは、2015年頃からであることも明らかにされた。まさに、首都圏の新築マンションの価格上昇が顕著になった時期からだ。以後、住宅ローン減税の恩恵を2人で享受できることもあり、ペアローンの利用が増えた。

 同調査では、ペアローンに関する分析も詳細におこなわれており、共働き世帯の20代後半では約38%、30代では約23%がペアローンを利用していることが判明した。

 さらに、ペアローンではないが、収入合算により夫婦でローンを組むケースが増えていることにも言及。収入合算は、妻は夫の連帯債務者、もしくは連帯保証人となり、借入額を増やす事ができる方式だ。

 収入合算の利用者数も、ペアローン利用者数とほぼ同率程度とみられ、ペアローンと収入合算の利用を合わせた、「夫婦でローンを組むケース」は、共働き世帯の20代後半で約73%、30代で約46%に達すると推測されている。

 今回、「価格上昇市場における住宅購入主力層の検証」によって、首都圏の新築マンションの平均価格が大幅に上昇しても順調に売れている理由が実証された。

 新築マンションの価格が上がっても、バブル期並に買いにくくなったわけではない。だから、売れ行き好調なのである。

 その結果、首都圏の新築マンション価格はまだ上がる可能性もあり、となるのだが、これに関しては、そろそろ頭打ちにして欲しいところだ。

 そして、超低金利とペアローンが価格上昇の理由ならば、近郊外エリアで散見される3000万円台、4000万円台の3LDKも、今後値上がりしてしまうのではないか……そんな不安も頭をかすめてしまうのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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