大災害の停電でもエレベーターが動き続ける。超高層マンションに最新の仕組みが登場

非常用電源の新しい工夫を採用するマンションが名古屋で建設中だ。筆者撮影

 マンションに住む人にとって、大事な「足」になるのが、エレベーター。そのエレベーターが停電で止まると、上層階に住む人は、とたんに不便さを強いられる。特に、不自由なのが、超高層マンションの上層階に住む人たち。その超高層マンションでは、停電時でもエレベーター1基を動かす非常用電源の拡充が進んでいることを書かせていただいた。

東日本大震災時、非常用電源でエレベーターを動かした超高層マンションはなかった。その切実な理由

 記事中で、東日本大震災の後、超高層マンションでは、「エレベーター1基と非常灯、駐車装置、水道設備類を24時間稼働可能」や「72時間(つまり、3日間)稼働可能」というケースが増加。なかには、「1週間稼働可能」という超高層マンションもあることを記した。

 しかし、1週間分の非常用電源で驚いてはいけない。

 今、建設中の超高層マンションでは、「停電が起きても制限なくエレベーター1基を動かし続ける」という工夫が採用されているからだ。

 今回は、超高層マンションに登場する「停電でも、エレベーターを動かし続ける最新の工夫」を紹介したい。

「NAGOYA the TOWER」で実現。停電でも動き続けるエレベーター

 大災害などで、長時間の停電が発生したときでも、非常用電源で時間の制限なくエレベーターが動き続ける……そんな夢のような仕組みが実現するのは、名古屋駅徒歩圏で建設中の超高層マンション「NAGOYA the TOWER」だ。

 同マンションは、地上42階建て。名古屋駅周辺のマンションとしては最も背の高い建物となる。

 地上60メートル以上という基準を持つ超高層建築物は、マンションでいえば、だいたい20階建て以上となる。

 この20階あたりが、階段で上り下りできる限界ではないだろうか。それは、15年ほど前、私自身が建設中の超高層マンションで21階まで歩いて上がったときの経験を基にした実感値というべきもの。当時、私は50歳を超えていたが、同行した30代、40代の工事関係者も「20階までなら大丈夫だが、それ以上は階段で上がる気にはなれない」と息を切らせていた。

 「超高層」の目安である地上60メートル=20階あたりで、歩くのは無理という人が多くなるわけだ。

 歩いて上がる気になれるのは20階程度までだが、現在の超高層マンションは30階建て以上が大半。「NAGOYA the TOWER」のように40階を超えると、停電でエレベーターが止まったときの対応が必須となる。

 「NAGOYA the TOWER」では、そのエレベーターを1基、停電が起きたときも時間の制限なく使い続けられる。

 夢のような仕組みを実現するキーワードは「都市ガス」と「中圧管」だった。

都市ガスは地震に弱い?

 電気と都市ガスは、ともに大地震の影響を受けてきた歴史がある。東日本大震災の東北地方でも、阪神淡路大震災のときの近畿圏でも、停電と都市ガスの停止が広範囲で起きた。

 大地震により電気とガスが止まったとき、復旧が早いのは電気だと多くの人が知っている。実際、電気は1週間程度で復旧し、都市ガスは復旧まで1ヶ月程度かかることが多かった。

 東日本大震災の後も、東北地方のオール電化住宅に住んでいた人の多くは1週間後から自宅の風呂に入ることができた。が、東北地方で電気ガス併用住宅に住んでいた人が自宅の風呂に入ることができたのは、多くの地域で都市ガスが復旧した約1ヶ月後から。そのため、東北地方では、地震の後、オール電化の一戸建て、マンションでなければ売れないという状況まで生まれた。

 以上の事実があるため、「電気とガスでは、電気のほうが地震の後の復旧が早い」と多くの人が考えているわけだ。

 しかし、今のガス管、特に大都市圏のガス管は脆弱ではない。地震に強いガス管が採用されており、これまでのように地震で都市ガスが止まることは少ないと考えられている。

 なかでも、丈夫で地震に強いのが中圧管と呼ばれるガス管だ。

地震に強い中圧管を使用することで、都市ガスが止まらない

 都市ガスは製造基地から高圧で送り出され、各家庭には低圧に変換されて届けられる。しかし、病院や工場、商業施設などガス消費量が多い場所には中圧で届けられることがある。

 中圧のガスを届ける中圧ガス管は非常に丈夫で、大地震でも損壊する可能性が低い。「NAGOYA the TOWER」は、その中圧ガス管を直接マンションに引き込むようになっている数少ないマンション事例の1つだ。

 大地震でも途切れる可能性が低い都市ガスが入っているので、そのガスで発電装置を動かし、非常用電源とする仕組みが実現することになった。

 もちろん、マンションの敷地や建物が大きな損壊を受けたときは、都市ガスを利用できず、非常用電源も途絶える。

 しかし、そのように大きな被害が生じたら、燃料をタンクに備蓄する従来型の非常用電源も稼働しないだろう。

 従来型の非常用電源が使用できる状況であれば、都市ガスを利用する非常用電源も生きるはず。そうなると、非常用電源を利用したエレベーター1基は、2週間でも1ヶ月間でも、電気が復旧するまで動き続けることになる。

 なんとも頼もしいシステムだが、どんなマンションでも採用できるものではない。都市ガスの中圧管を直接引き込むマンションだからこそ、実現する工夫なのである。

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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