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新社会人・学生の家選び 「首都圏・安い・間取り2K以上」の狙い目エリアは?

櫻井幸雄住宅評論家
埼玉高速鉄道浦和美園駅は、狙い目エリアのひとつ。筆者撮影

 コロナ禍は、私たちの住宅選びに少なからぬ影響を与えた。

 それ以前、住宅探しで重視されたのは、なんといっても「便利さ」。通勤、通学に便利なことが一番重要で、次がスーパーマーケット、飲食店、銀行、クリニックに近いなど生活に便利な場所であること。住環境や建物の住み心地への関心は低かった。

 ところが、コロナ以降、ステイホームで以前よりも家で過ごす時間、そして家で仕事や勉強をする時間が長くなったことで、「環境」と「住み心地」も大事と考える人が増えたのである。

 その結果、都心から電車で1時間程度の郊外で、駅から歩いて10分以上のマンションが再評価される動きも出た。

 このような発想の転換は、新社会人や学生など、この春から一人暮らしを始めようとする人たちも意識しておく必要がある。

 コロナ禍が終息しても、オンラインで行う打ち合わせや会議、授業の便利さは私たちの日常のなかに残ることが予想されるからだ。

 そんな「新しい生活様式」を踏まえて、新社会人・学生に適した狙い目エリアを首都圏で探してみた。

住んで快適なのは、オンとオフの振り幅が大きい家

 いろいろな分野で「リモート」が広まれば、今度は、実地に人が集まる機会の重要性が増す。せっかくこれだけの人間が集まったのだから、1秒もムダにすることなく、十二分な成果をあげようと意気込むことになる。これまでよりも緊張感が高まるわけだ。

 仕事や授業での緊張感が高まれば、休日はその反動で、思い切りリラックスしたい。家の近くの浜辺に出かけてサーフィンを楽しんだり、一人キャンプに出かけて、電気製品のない生活を満喫する……そんな生活スタイルに憧れる人がますます増えそうだ。

 オンとオフの切り替えがこれまでよりも重要になり、オン・オフの振り幅を大きくする傾向も出てくるわけだ。

 こうしたコロナ禍で支持される住まい方を基に、新社会人・学生にも手が届く割安家賃の物件がみつかりそうなエリアを紹介してゆきたい。

「プラス1部屋」を実現しやすい首都圏の沿線は

 新社会人・学生が首都圏で「新生活」を始めるとき、従来は、会社の近くや、学校の近くを好む人が多かった。

 多くの人が都心部もしくは都心周辺で、家賃5万円程度の安い物件を探した。当然、日当たりのよさや住戸のゆとりを望みにくく、昼でもうす暗く、6畳一間にキッチンとトイレ、小さめの浴室が付いた賃貸アパート……決して条件のよい住まいではないが、「どうせ寝に帰るだけ」と割り切れば我慢ができた。

 しかし、コロナ禍をきっかけに家時間が長くなり、今後も長くなることが予想される現在、「寝に帰るだけ」の住まいでは不都合が生じやすい。

 具体的にいうと、従来、1人暮らしで選ばれがちだった「6畳間にキッチン付き」の1Kでは、テレワークやリモート授業に対応しにくいし、長くなった家時間をゆったり過ごすこともしにくいわけだ。

 そこで、理想となるのが、1Kにもう一部屋プラスした2Kとか1DK、1LDKの間取り。今よりも広い賃貸だが、家賃が高くなるのは極力避けたい。そこで、考えられるのが、都心から離れることだ。

 といっても、過疎地の古民家も郊外の一戸建ても一人暮らしでは暮らしにくい。

 東京の中心まで、まあまあ近く、割安な家賃で2K以上の賃貸を借りることができる場所を探したい。

 その観点から首都圏でお勧めできるのは、城北(首都圏の地図で、上部に配置されている)エリアの方向。23区内では、文京区、豊島区、北区、板橋区、荒川区、足立区が該当するが、家賃が安い場所となると23区内ではむずかしい。23区内から出た場所、たとえば、東京メトロ南北線が乗り入れている埼玉高速鉄道線沿線の埼玉県内駅などは、安くて広い賃貸物件を探しやすい。

 具体的には、埼玉高速鉄道川口元郷駅、南鳩ヶ谷駅、鳩ヶ谷駅、新井宿駅、戸塚安行駅、東川口駅、浦和美園駅の7駅が狙い目となる。

「プラス1部屋」を実現しやすい駅の1つ、川口元郷駅。緑も豊富なエリアだ。
「プラス1部屋」を実現しやすい駅の1つ、川口元郷駅。緑も豊富なエリアだ。写真:takepon/イメージマート

 馴染みのない駅名が並び、「新井宿(あらいじゅく)」や「戸塚安行(とづかあんぎょう)」にいたっては、そんな駅名、初めて聞いたという人も少なくないだろう。その分、家賃が安く、首都圏通勤圏では、穴場中の穴場。家賃5万円台の2Kを探すことができるエリアだ。 

 一方で、都心部までは意外に近く、浦和美園駅からJR山手線に乗り換えできる駒込駅まで30分の所要時間だ。

 埼玉高速鉄道には快速や急行電車がなく、すべて各駅停車。だから、どの駅に住んでも、使い勝手の差はない。

 一方で、どの駅周辺も緑が多く、環境のよさが特徴。気持ちよくジョギングを楽しむことができそうだ。

 終点の浦和美園駅は、サッカー・浦和レッズの本拠地である「埼玉スタジアム2002」があるので、ご存じの方も多いだろう。その浦和美園駅は上りの始発電車が出るので、都心まで座って通勤・通学が可能となる。

サーフィンなど、マリンレジャーを楽しみたいなら……

 家時間が増えた今、自由に使える時間で趣味の幅を広げたいと考える人も多いだろう。アクティブな趣味として人気の高いサーフィンを始めたい、という場合、どこに住めばよいか。

 この場所探しは、簡単ではない。

 四方を海に囲まれた日本だが、じつはサーフィンに適した海は限られる。砂浜があり、波が立つ場所で、しかも波が大きすぎない場所。さらに、サーフィンが許可されている海の近くとなると、湘南と房総の一部が、数少ないサーフスポットとなる。

 湘南は、神奈川県の鎌倉、江ノ島、茅ヶ崎、平塚のエリアを指す。房総は、千葉県の房総半島エリアだ。

 そのなかで、都心への通勤・通学がしやすい場所となると、適正地はさらに限定される。房総半島の北部(御宿が代表地)は都心からの距離が遠すぎる。房総半島の千葉南部にあたる九十九里のほうが都心に近いのだが、それでも都心部まで片道1時間を大きく超える。その分、賃貸の家賃相場が安いという立地特性もあるのだが……。

 九十九里浜エリアでサーフィンを楽しむ人たちの拠点とされる上総一ノ宮駅周辺では、1DK〜2DKが5万円前後の賃料で見つかるが、駅から徒歩10分以上となりがちだ。

 そして、上総一ノ宮駅からは東京駅まで1時間30分の所要時間。電車の本数が少なく、駅周辺に商店が乏しいため、車がないと生活しにくいことを考えると、誰でも生活しやすい場所とはいいにくい。

 その点、湘南エリアには都心まで1時間圏でサーフィンを楽しむことができる場所がある。ただし、家賃相場は高くなる。特に、湘南のなかでも鎌倉エリアとなる由比ヶ浜周辺は家賃相場が高く、家賃7万円以下の2Kを探すのは至難の業となる。

 湘南エリアで、都心に行きやすく、比較的家賃の安い賃貸住宅が見つかるのは、鵠沼海岸から辻堂海岸にかけての場所。なかでも、小田急江ノ島線鵠沼海岸駅周辺と、JR東海道本線辻堂駅の海側エリアは、サーフィンが許可された海岸線に近く、狙い目となる。

辻堂駅に近い辻堂海岸。江ノ島を望む、湘南らしいシーサイドだ。写真の左側に鵠沼海岸が位置する。
辻堂駅に近い辻堂海岸。江ノ島を望む、湘南らしいシーサイドだ。写真の左側に鵠沼海岸が位置する。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 鵠沼海岸駅周辺であれば、2Kを6万円台からの家賃でみつけることができる。辻堂駅では、1DKの家賃が7万円以上と高めの設定。しかし、駅から歩いて10分以上(その分、海に近い)で、築年数が20年以上の一戸建てであれば、10万円を切る家賃で借りることができる。兄弟姉妹で住む、といったことができれば、狙い目ではないか。

キャンプ派にお勧めな場所は

 海の次は、山。キャンプ大好きという人にお勧めしたいのは、丹沢や多摩のキャンプ地に出かけやすい場所であり、都心にも出やすい場所だ。

 候補としては、「借りて住みたい街」首都圏第1位になった小田急小田原線本厚木駅周辺や、JR中央線の八王子駅周辺がまず思い浮かぶ。

 いずれも、駅周辺は繁華な場所なので、生活はしやすい。都心に出やすいことを考えれば、中央線の八王子駅周辺がお勧めとなるが、本厚木も八王子も家賃相場は高めだ。2Kで6万円台までの賃貸を探そうとすれば、駅からさらにバスに乗ったエリアとなる。

 八王子駅周辺も本厚木駅周辺も大学と工場が多く、もともと賃貸需要が多い場所。空き室を見つけるのに苦労するだろう。

 代わりに、「山が身近に見えて、都心に出やすく、抑えた家賃の賃貸を見つけやすい」という条件を満たす場所としては、神奈川県の中央部分。具体的には、小田急江ノ島線と相鉄線を利用できる大和駅周辺や相鉄線の瀬谷駅三ツ境駅周辺がある。

 厚木基地に近く、飛行機の騒音問題がある場所だったが、近年、飛行が大幅に減り、騒音は軽減されている。

 相鉄線は、都心に出るための新線ルートを利用でき、西谷駅から分かれて羽沢横浜国大駅・武蔵小杉駅へ。そこから湘南新宿ラインに乗り入れるので、たとえば瀬谷駅からJR山手線が利用できる大崎駅までは40分の所要時間。その先、渋谷駅、新宿駅へも直通運転となる。

 ただし、瀬谷駅、三ツ境駅は横浜市内となるため、家賃相場は高め、2DKで7万円以上という物件が多い。横浜市を離れ、大和市になる大和駅では、5万円台の2Kも見つかるが、家賃の安い賃貸は、駅から徒歩10分以上となるのが普通だ。

 以上、新社会人・学生のために、これまでにない視点で、新しい生活スタイルにふさわしい、賃貸の狙い目エリアを探してみた。

 職場や大学の近く、というだけではなく、「自分にとって、楽しみが多い場所」に住んでみたいと考えている人は、参考にしていただきたい。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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