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緊急事態宣言下のテレワーク生活で魅力的に見える「2世帯同居」。だが甘くない現実も

櫻井幸雄住宅評論家
(提供:kagehito.mujirushi/イメージマート)

 昨年4月、最初の緊急事態宣言では、ステイホームとテレワークの増加から、緑の多い郊外に立地し、面積の広い住宅に注目する人が増えた。多くの人が「のんびりした暮らしもわるくない」と、少々不便だが、ゆとりがある家での暮らしを見直したわけだ。

 今回、2度目の緊急事態宣言では、新型コロナウィルスの心配と共に、収入減の心配を口にする人も増えてきた。

 コロナ禍で、家時間が増えたことと収入減……2つの問題を解決するため、一部の人は緊急避難的に「2世帯同居」を行うことができる。郊外部の駅から離れた場所で、広い庭付き一戸建てに暮らす親がいる人たちだ。

 近年、郊外で駅から離れた一戸建ては、活用もできず、売却もできない“負動産”になりかねないとされてきた。しかし、2度目の緊急事態宣言が出されて、その評価が変わった。「少々不便だが、ゆとりある家」は、2世帯同居が可能で、コロナ禍で収入減となる人やテレワークで出勤日が減った人にとって、いろいろな問題を解決する魅力的な住まいとなるからだ。

広い家に移りたいが、お金はない

 賃貸暮らしの子育てファミリー世帯の場合、緊急事態宣言は家の狭さを実感し、息苦しさに耐える試練のときとなる。「もっと広い家に住みたい」と考えても、家賃の上昇は避けたい。

 今の時期、多くの家庭でそんな余裕はなく、むしろ家賃の支出は減らしたい。すると、狭い家に引っ越すしかなく、ますます密が生じやすい。「コロナ禍なのに、さらに狭い家に引っ越さなければならない」という、困った状況が生じてしまうわけだ。

 そんなとき、合理的な選択肢となるのが、一時的に親の家に身を寄せる2世帯同居。親が「通勤可能だが、少々都心から遠い場所」で、部屋数の多い一戸建てに夫婦だけで住んでいる場合、コロナ禍が一段落するまで親と同居する方法が魅力的になるわけだ。

 昨年4月に緊急事態宣言が出て、ステイホームが広がった時期、郊外のマンションや一戸建てを購入したり、借りる人が増えた。テレワークで都心に通勤することが減った勤め人であれば、なおさら郊外への関心を高めた。

 今回も、「郊外で、もっと広い家を」の気持ちが生まれる。しかし、住居費は抑えたい……そのとき、郊外に親の家があれば、それを活用できないか、と考えるのは当然だろう。

 親の家に引っ越しても子供の転校問題が生じなければ、2世帯同居を検討する価値は高まる。いずれ2世帯同居をしてもいいかな、と考えている人の場合、よい機会なので、1、2年くらい2世帯同居を試してみよう、というケースもありそうだ。

 2世帯同居ならば、家賃が不要になるだけでなく、光熱費・水道代・固定電話料金・インターネット費用・NHK受信料・新聞代など、統合することで節約できるものが多い。親の車を使わせてもらえれば、駅まで送り迎えしてもらえるし、休日の楽しみも広がる。都合がよいことが次々に思い浮かぶ。

 が、2世帯同居に問題はないのか。

 その長所と短所を、自ら約20年2世帯同居の生活を続けている経験も交えながら解説したい。

親との同居で得られるもの

 親の家で2世帯同居を行えば、住居費が大幅に削減される。

 といっても、これから先ずっと2世帯同居でやっていこうと決めている場合、それなりの初期費用が発生する。

 親世帯、子世帯がストレスなく暮らすために、いくつかリフォームを行う必要があるからだ。

 たとえば、住宅の1階と2階、もしくは右と左で親世帯と子世帯の生活スペースを分けるためには、子世帯の生活スペースにトイレと浴室を新設したり、リビングをもう一つ設ける必要がある。さらに、玄関を分けたり、キッチンを各世帯に1つずつ設けたりすると、リフォーム費用は1000万円から2000万円の水準まで上がってしまう。

 大がかりなリフォームをあきらめ、子世帯用のトイレと浴室を新設するだけでも200万円以上。和室を洋室に変えて、子世帯専用のリビングをつくれば、それだけで100万円以上……と高額だ。

 1年か2年の短期2世帯同居に、300万円以上の工事を依頼できる人は少ないだろう。コロナ禍の今、大工さんは仕事がむしろ増えており、なかなか工事を行ってもらえないという問題もある。

リフォームなしの2世帯同居でストレス

 結局、コロナ禍で緊急の2世帯同居を始める場合、リフォームなしで生活してみましょう、ということになりがちだ。

 が、リフォームなしで同居を始めると、お互いにストレスが溜まる。

 親世帯といっても、縁側でひなたぼっこをしているような高齢者ばかりではない。60代なら、若い世代と同様に動き回る。70代でも、家事に関してはまったくの現役。家事を助けてもらって喜ぶのは、80歳を過ぎたあたりからだ。80歳までの多くは家の中で、他の人が勝手なことをするのを好まない。

 一方、子世帯は、どこまで家事を行ってよいのかがわからず、気をつかいながら動くことになる。その結果、双方にストレスが溜まる、ということになりがちなのだ。

 たとえば、正月に親の家に遊びに行き、1日か2日、まったくストレスなく過ごせた、という人なら、問題ないだろう。

 しかし、気をつかいすぎて疲れた、気が休まらない、という経験がある人の場合、リフォームなしでの2世帯同居は、ストレスが溜まる一方になりがち。半年以上2世帯同居を続けるのは、かなり厳しい。

高齢者への感染リスクも増大

 ストレスが溜まる出来事は、他にもある。

 たとえば、2世帯同居の利点として挙げた車の共有に関しても、問題が生じやすい。

 それは、親世帯が頻繁に車を使う場合だ。高齢者といっても、60代ではまだ日常的にマイカーを利用する。2世帯共、車を使う時間は短い。短距離の移動が中心だ。が、それぞれが車を使う時間帯がバッティングしやすい。 

 2つの世帯で車を多く使うのは、休日と平日の夕方だ。特に困るのは、休日で、片方が朝から車で出かけてしまうと、もう片方はその車が戻ってくるまで出かけることができない。家で待っている間、何か用事を済ませてしまおうと考えたら、一番したかった用事は洗車だった、という笑えない経験が私にもある。

 ストレスの問題だけでなく、2世帯同居により、親の感染リスクが高まることも心配しなければならない。

 感染しても軽症か無症状で済むことが多い若い世代が通勤・通学で都心部に出かければ、外からウィルスを運んでしまうかもしれない。

 2世帯同居によるストレスは、話し合いや双方の工夫によって解決させることが可能だが、感染防止対策の問題はやっかいだ。

 一時避難的に1年とか2年の2世帯同居を行う場合、解決しなければならないことがいくつも出てくる。それは、覚悟しておくべきである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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