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田舎の古民家よりも「郊外の中古一戸建て」が現実的。シニアの住み替えに追い風か

櫻井幸雄住宅評論家
郊外で駅から歩いて10分以上の一戸建ては、中古で売りにくい状況があった。筆者撮影

 昭和時代にマイホームを買ったシニアにとって、つらい時代が続いている。なにしろ、昭和時代「住宅双六の上がり」とされていた庭付き一戸建ての評価が下がり、中古で売りにくくなってしまったからだ。

平成以降、「土地付きよりも駅近」の時代に

 駅に近い場所のミニ戸建てであれば、まだ買い手がつく。しかし、駅から歩いて10分以上、もしくはバス利用でなければたどり着けない、というような駅遠で、広い敷地の中古一戸建てはさっぱり売れない。売れない以前に、関心を持つ人が減ってしまった。

 昭和の時代ならば、「広い庭付き一戸建てであれば、駅から離れてもよい。バス利用の場所だって、全然問題なし」と考えられていた。

 なんといっても、「広い土地」が付いている。それは土地が付かないマンションにはない利点だと考えられたーーこれには誤解があり、正確にいうと、マンションにも土地の区分所有権が付く。が、昭和時代にはマンションには「土地が付かない」と考える人が多かった。

 それで、一戸建てはマンションよりも格が上。駅から離れた広い庭付き一戸建てならば、駅近のマンションよりもはるかに価値が高い、と考えられていたわけだ。

 しかし、平成以降、住宅に対する意識が変わり、価値があるのはなんといっても駅に近いこととなり、「土地付きよりも駅近」の時代になってしまった。

 それで、駅から遠い中古一戸建ては安くしても売れない時代がはじまってしまった。

広い中古一戸建てより、狭い駅近マンションのほうが売れる

 郊外で駅から遠い一戸建ての価格がどれほど下がったか例をあげよう。

 横浜市内で昭和時代、新築時6000万円だった一戸建てを築35年の中古で売ろうとする。その際、4000万円くらいで売りたい、と思っても買い手が付かない。駅から徒歩10分を少し超えるくらいだから、徒歩圏である。土地面積は60坪(だいたい200平米)あるので、決して高いとは思えない。しかし、興味を持ってくれる人が現れない。

 ちなみに、横浜市内の一戸建てであれば、バブル時期に1億円まで中古価格が上がったものが多い。その思い出があるので、4000万円でも売れないことにショックを受けるシニアが多い。

 さらにショックなのは、同じ駅で徒歩5分の新築マンション3LDK(65平米)が4500万円で売られており、そちらのほうが簡単に売れてしまうこと。わが家のほうがずっと広くて、安いのだから、こっちを買ってくれればよいのに……なんで、買ってくれないのか、と恨み節のひとつも聞こえてきそうだ。

 駅から離れた中古一戸建てが不人気になった理由は、「駅に近い場所の住宅以外は買うべきではない」という駅近信仰のせいである。資産価値の視点からいえば、買うべきなのは駅近の物件。駅から歩いて10分以上の一戸建てなど、買っても損をするだけとされ、昭和時代に分譲された一戸建ての多くが中古で売れなくなってしまった。

 その状況を、コロナ禍が一変させるかもしれない。

割安な価格を維持している中古一戸建て

 コロナ禍で、「駅から遠い分、広い家もわるくない」と考える人が増えた。といっても、過疎地の生活しにくい古民家を買うのはさすがにためらわれる。毎日の買い物や子供の通学などを考えれば、現実的ではないからだ。

 その点、首都圏の通勤可能エリアで、駅から多少離れた一戸建てであれば、生活もしやすい。それで、建売住宅の売れ行きがよくなった、と考える人は多い。

 しかし、本当の話をすると、建売住宅の売れ行きは、4、5年前から上がっていた。首都圏の郊外、横浜市内でも、3000万円台後半で購入できる建売住宅(土地100平米で建物面積も100平米というのが一般的)があり、その割安さに気づく人が増えたからだ。

 中古一戸建てと比べ、新築の建売住宅は住宅ローンを組みやすいことも新築建売住宅の人気を後押しした。

 その建売住宅は、年々価格が上昇。3000万円台後半だった価格が、4000万円台半ばになり、5000万円を突破したのが、昨年のこと。そこまで上がると、さすがに売れ行きが落ちてきたので、今年になって多少価格が下がった。が、4000万円台後半のものが目立つ状況になっており、以前のような割安感がない。

 その点、中古一戸建ての価格は以前から変わっていない。

 土地面積が200平米(約60坪)で、建物面積150平米(50坪弱)の広い庭付き一戸建てが4000万円台前半でみつかる。中古なので、建物に手直ししなければならないが、DIYでできる部分も多く、それを楽しみと考えることもできる。

 中古住宅は住宅ローンを組みにくいのだが、親からの生前贈与などがあれば購入可能。公務員や大手企業の社員などであれば、問題なく住宅ローンを組んでくれる金融機関も多い。

 資金調達ができれば、広い庭が付く中古一戸建ては、狙い目である。

 中古一戸建ての人気が上がれば、それを売りたいと考えているシニアにもうれしい状況となる。希望通りの値段で売れれば、便利な場所の狭いマンション(シニア2人暮らしなら狭くても問題なし)や、高齢者住宅への住み替えが容易になるからだ。

 コロナ禍によって、シニアの住み替えに追い風が吹くかもしれない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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