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コロナ収束後もテレワークが定着したら、人気が上がる住宅地を前向きに考えてみた

櫻井幸雄住宅評論家
テレワークが定着すれば、都心願望が減り、海辺で暮らす夢も実現しやすくなる……か。(写真:アフロ)

 新型コロナウィルス感染防止のため、テレワークが広まっている。

 その結果、通勤電車は乗客が減り、都心のビジネス街には人影がまばら。この状況が新型コロナウィルス収束後も続けば、日本の住宅地事情に大きなを変化をもたらしそう……そんな予測が出ている。

 今と同じくらいの人数がテレワークを継続することは考えにくいが、一部の人にテレワークが浸透する可能性はある。どのくらいの人がテレワークに移行するかはわからないが、その割合によっては住宅地事情だけでなく、日本の社会全体に変化が生まれるだろう。

 出勤しない勤め人が増えるので、スーツや革靴の売れ行きが落ちる。一方でカジュアルな服が売れる。自宅まわりの外出が増えるので、車の売れ行きが再び上昇するかもしれない。そして、駐車場不足が問題になる可能性もある。

 テレワークは、これまで、なかなか日本に広まらなかった。それだけに、テレワークの広がりがもたらす影響は未知数の部分が多い。

 実際、テレワークが広まった4月8日以降、首都圏郊外エリアでは、高速道路が空いて一般道が混むという状況がそこかしこで生じた。テレワークの人たちが車で買い物などに出かける機会が増えたからだろう。

 となると、郊外でも道路事情のわるいところは、テレワーク増加時代に不向きかもしれない。

 これから先、テレワークの広まりでどんな場所が住宅地として人気を高めそうか、前向きに考えてみた。

テレワーク生活に都合がよい住宅地の3条件

 都心に通勤するのが当たり前のとき、住宅地選びで重視されたのは、勤務先(多くは都心)までの近さだ。次に、不動産価格の水準、そして買い物施設の充実度や子どもの教育環境といった環境のよさだろう。最後に、住宅の広さや建物の質を気にする人が多かった。つまり、「近さ」「価格」「環境」で、「広さ、質」はその次という順番だ。

 「近さ」を第一に考えると、多少高い「価格」もがまんしなければならず、「環境」には目をつぶる、「広さ、質」はもっとがまんする、ということになりがちだったわけだ。

 しかし、テレワークが定着すれば、まず「近さ」の呪縛が外れる。すると、「価格」と「環境」、「広さ、質」をがまんしなくても済むようになる。

 無理して都心に近い高額マンション、それも専有面積が狭く、日当たりもわるい住戸を買ったり、借りる必要がなくなる。以前より広い住宅を選ぶことができ、海に近いとか、里山に所在する、といった環境のよさも求めやすくなる。以前より、広く、快適な住宅に住みたいという気持ちも強くなるはずだ。

 つまり、「環境」と「広さと質」の重要度が増して、「価格」はそんなに気にしなくて済むようになる。

 とはいっても、「近さ」をまったく無視することはできない。基本はテレワークであっても、ときどきは会社に出て行かなければならないだろう。家族だって、たまには都心に出かけたい。この「たまには都心に出かけやすい」という条件も必要になる。

 つまり、交通利便性が恐ろしく劣り、へんぴな場所は困るわけだ。「たまには都心に出かけやすい」、「駅徒歩圏の好環境」で「より広い住戸」が割安に購入できる住宅地がテレワークに好ましいことになる。

 「より広い住宅」を具体的にいうと、子育てファミリーで、80平米以上のマンション3LDKといったところか。無理なく購入できる住宅価格は、4000万円台まで、だろう。

 この、「たまには都心にでかけやすい、駅徒歩圏の好環境」で「80平米台のマンション3LDK」が「4000万円台まで」で購入しやすい場所が、テレワークで求められる住宅地の3条件となりそうだ。加えて、新築分譲住宅が豊富で、新居を購入しやすいことも必要になる。

理想は、海にも山にも近く、新幹線が通る「小田原」

 そんな都合のよい場所があるのか、といわれそうだが、ひとつ思いつく場所があった。それは、神奈川県の「小田原」。以前、新幹線で余裕の通勤・通学なら、小田原がお勧めの理由という記事で紹介したとおり、小田原駅からは東海道新幹線を利用でき、東京駅まで所要時間35分程度だ。これなら、急に呼び出されても問題ないだろう。

 小田原駅から東京駅までの新幹線自由席料金は片道3220円で、往復6440円となるので、この交通費を会社が認めてくれるかどうかがポイントになりそうだ。

 ちなみに、小田原駅からは新幹線以外でJR東海道本線と小田急小田原線も利用でき、東京駅や新宿駅までの所要時間は1時間10分〜1時間30分程度。そのため、片道だけ新幹線にする選択肢もありそうだ。

 その小田原駅周辺は不動産価格が抑えられており、海にも山にも近いため、リゾートライフを満喫できる点も利点だ。

 このほか、新幹線が利用しやすい場所としては「大宮」も候補となるが、大宮駅周辺は新築マンション価格が上がっており、80平米以上の3LDKが4000万円台では購入できそうもない。大宮よりも先の「小山」駅であれば、候補になるだろう。

新幹線利用以外で、考えられる住宅地は

 新幹線は利用できないが、3つの条件を満たす住宅地として思いつくのは、JR中央線と京王線を利用できる「八王子」駅周辺。ときどきの通勤でJR中央線の特急と京王ライナーを利用でき、山や川でのリゾートライフを満喫しやすい。駅から徒歩10分程度の場所なら、マンション価格も賃貸家賃も抑えられている。

 埼玉県の「本川越」や「飯能」も西武鉄道の特急が利用でき、不動産価格が抑えられている点でお勧めだ。いずれも500円程度の特急料金が別途必要になるが、ときどきの利用なら奮発してもいいだろう。

 このほか、埼玉県の「浦和美園」駅周辺とつくばエクスプレスの「つくば」駅周辺(茨城県)は特急利用はないものの、始発電車を利用できるので、たまの通勤で座ることが可能。そして、新築マンション価格が抑えられているのも2駅に共通する特徴だ。「つくば」の場合、教育環境の評価が高いのも利点となる。

 始発電車が利用できる駅としては、JR中央線の「高尾」駅やJR東海道本線の「平塚」駅もある。こちらもリゾートライフを満喫でき、分譲価格と家賃が安い。

 たまの出勤はマイカーで、という場合は、高速道路を利用しやすく、大型商業施設も身近な場所として、千葉県の「木更津」や「海浜幕張」駅周辺、そして東京都町田市の「南町田グランベリーパーク」駅周辺なども選択肢に入るだろう。

 いずれも、テレワークが定着し、出社するのは週に一度程度という人が増えた場合の話。実際に、そこまで劇的に都心通勤者が減るかどうか、はわからない。が、新型コロナウィルスによって日本のテレワーク化が進めば、多くの人が通勤ラッシュに苦しまないで済むきっかけになりそう。災い転じて福となす日が訪れるのを期待したい。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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