「氾濫が起きたら、どうするんだ」と分譲時に批判 二子玉川のマンションどうなった?

13日午前中の多摩川河川敷。ここまで水没していたと考えられる。筆者撮影

 大型で強い台風19号で首都圏でも複数の川が氾濫。東京都と神奈川県の間を流れる多摩川でも氾濫が起きた。

 多摩川で広範囲の氾濫が起こった場所のひとつが、東急田園都市線二子玉川駅周辺の世田谷区エリア。この場所には、気になるマンションがある。それは、二子玉川駅から徒歩2分に建ち、同駅のホームからもよく見える大型マンション。タワー形状ではなく、板状の建物のため、タワマンとはいいにくいが、超高層の基準(地上60メートル以上)を満たすマンションである。

 その大規模超高層マンションが気になった理由は、堤防の内側(多摩川側)に位置しているから。04年から05年にかけての分譲当時、「あんなところに住んで、多摩川の氾濫が起きたらどうするんだ」という声があった。

 しかし、そのマンションは爆発的な人気で、約200戸が一度の販売であっさり売り切れてしまった。大人気だったが、不安要素があった超高層マンション……台風一過の10月13日午前中、電車の運行が回復しはじめたところで「実際に氾濫が起きたら、どうなったか」を確認しに向かった。

「風光明媚」を守るため、目の前に堤防を築かせなかった場所

 二子玉川駅周辺には、多摩川と並行して多摩堤通りという道路がある。この道路の脇にあるのが、およそ100年前に築かれた堤防である。

多摩堤通りとその横に築かれている堤防。写真左手側が多摩川となり、堤防と多摩川の間にマンションが建っている。筆者撮影
多摩堤通りとその横に築かれている堤防。写真左手側が多摩川となり、堤防と多摩川の間にマンションが建っている。筆者撮影

 二子玉川駅近くには、大正時代まで「二子の渡し」という船着き場があり、風光明媚な場所として料亭や宿屋が集まっていた。その人々が、目の前に堤防が築かれるのを嫌い、堤防の位置を内陸側にずらした。その結果、堤防の内側(多摩川側)に位置する街区が生じてしまった。これは、地元でよく知られている話だ。

 堤防の内側に残っていた旧「富士観会館」が、21世紀に入ってから超高層マンションに生まれ変わった。そのマンションが、「あんなところに住んで、氾濫が起きたらどうするんだ」といわれてしまったのである。

堤防に守られていないマンションは、今回の氾濫で……

 

 堤防の内側(多摩川側)といっても、二子玉川駅を中心に上流側と下流側では事情が異なる。下流側は、多摩堤通り沿いの堤防に加え、内側にもうひとつの堤防が500メートルほど築かれており、その範囲内では、今回の氾濫は軽微だった。道路や庭に水が少し流れてきただけで、床下浸水した家は見当たらなかった。

 これに対して無防備なのが上流側、二子橋から新二子橋までのおおよそ200メートルのエリアだ。この区間には、多摩堤通りと多摩川の間にもうひとつの堤防はなく、マンションが複数建っている。川と住宅エリアが直結している場所に「富士観会館」跡地のマンションも建っており、12日深夜に多摩川から氾濫した濁流が押し寄せた。

 複数のマンションのなかには、大きな被害を被った建物があった。たとえば、建物の地下にあるクリニックには、濁流が流れ込んでしまった。

 では、「富士観会館」跡地の超高層マンションはどうなっていたのか。

 結論を先に申し上げると、氾濫による被害はなかった。

 まず、建物は多摩堤通り側に寄せて建設されており、多摩川から緩やかに上った先に位置している。ほんのわずかな距離であり、わずかな上りだが、川からあふれた水は建物まで到達することがなかった。そのことを示すように、同マンションの敷地内車道をみると、緩やかな上りの途中まで川から運ばれた泥が残り、その先はきれいなままだった。

 氾濫の規模がもっと大きければ、マンションの建物に到達しただろう。しかし、その場合も心配はない。同マンションは、1階に住戸はないからだ。通常のマンションでいえば、3階相当の高さから住戸を配置しており、その位置は多摩堤通りの堤防よりはるかに高い。

堤防の後ろに、超高層マンションが建っている。3階以上に配置される住戸は堤防より高い位置となる。筆者撮影
堤防の後ろに、超高層マンションが建っている。3階以上に配置される住戸は堤防より高い位置となる。筆者撮影

 「多摩川の氾濫が起きたらどうするんだ」といわれたマンションは、しっかり対策が考えられていたわけだ。もちろん、今回以上の氾濫が起きた場合、建物1階まで濁流が押し寄せることによる被害はあるだろう。しかし、その場合も3階以上に配置された住戸への被害は生じにくい。

高い堤防を築けば、エリアのムードは一変する

 マンションが建つ一帯では、以前から新たな堤防を築くべきではないか、という議論があった。しかし、100年前と同様、景色のよさから堤防設置に反対する声が強かった。実際、川の近くに住む気持ちよさがある。二子玉川駅に近い便利な場所で、この心地よさは得がたいものがある。もし、多摩川沿いに背の高いコンクリート製の堤防を築けば、氾濫の不安は減るだろうが、風情は大きく変わってしまう。

 こういうケースでは、「風情」よりも「安全」が優先されることが多い。しかし、二子玉川駅近くでは、100年ほど前から「安全よりも風情」という意見が強いわけだ。

 その場所で、今回、氾濫が起きた。

写真左手側が川となる。右手側には複数のマンションが建っている。私が気になっていたマンションは、この位置よりも奥に位置し、写真には写っていない。筆者撮影
写真左手側が川となる。右手側には複数のマンションが建っている。私が気になっていたマンションは、この位置よりも奥に位置し、写真には写っていない。筆者撮影

 では、この後、「数10年に一度の氾濫に備えて、なんとしてでも堤防を築け」という方向に進むのだろうか。

 背の高い堤防はうっとうしいと感じるかもしれないが、「3階以上に住戸を配置」というマンションが主体であれば、住戸からの眺めに変化はないだろう。とはいっても、堤防を新設すると、街区のムードが変わるし、道路が狭くなってマンション駐車場に車を入れにくくなるといった問題も生じそうだ。

 そもそも、マンション購入者は、氾濫を止める堤防がないことを分かって、マンション購入を決めている。単純に、「氾濫が起きたから、なんとしても堤防をつくろう」とはならない可能性がある。

 今回の氾濫から得た教訓をどう活かすか。それは、むずかしいものになりそうだ。