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大規模停電の度に評価を落とす「オール電化住宅」 それでも根強い人気の理由

櫻井幸雄住宅評論家
IHクッキングヒーターは掃除が楽で、美しいことでも人気を高めたが……。筆者撮影

 台風15号によって発生した大規模停電が千葉県の一部で長引いている。東京電力パワーグリッドの停電情報によると、停電発生から11日目となる9月20日6時54分時点でまだ約1万8900軒が停電している。

 停電になると、多くのマンションで断水が発生してしまう。マンションでは建物の1階や地下に貯水タンクを設置し、そこからポンプで各階に水を押し上げる方式が広まっている。その方式を採用している場合、停電でポンプが止まると、各フロアに水が届かなくなる。だから、上水道に支障がなくても住戸に水が届かず、トイレの水も流せなくなるのだ。

 この10年ほどで、首都圏で規模の大きな停電が発生したのは、これが2回目。1回目は、いうまでもなく2011年の東日本大震災の後だ。東日本大震災のときは、地震発生時とその後の計画停電で、複数回の停電が発生した。

 私は、首都圏の自宅(一戸建て)で地震発生時に停電に見舞われ、その後の計画停電も対象地域となった。そのため、個人的にも停電を経験し、被災地の取材も行った。その“停電経験”から、いくつかの教訓を得ているので、それをまとめたい。

停電で機能を失う住宅設備。ただひとつの例外がガスコンロ

 停電経験から得られた教訓の一つ目は、「私たちの日常生活は、電気なしには成り立たない」ということ。停電で夜は真っ暗になり、エアコンも使えず、テレビも見ることができず、スマホも充電しにくい。

 じつは、計画停電のとき、隣の家は計画停電の地域から除外されており、わが家から先が停電となった。運がわるいとしかいいようがなかったのだが、気の毒に思った隣家が電気コードを窓から出してくれた。「これで、テレビでも見て」というありがたい申し出。早速、テレビを電源につなぎ、スイッチを入れたのだが、点灯するものの、放送が映らない。調べたら、アンテナ設備も電気を使用しており、そちらも電源につながなければならなかったのだ。

 都市ガスは生きていたが、電気がないと給湯器が作動せず、お風呂を沸かしたり、お湯を使うこともできない。あらゆる面で電気に頼っていることを実感した。

 そのなかで、ガスコンロだけは停電でも普通に使えた。都市ガスを利用するガスコンロの場合、上級機種の一部に電気で着火させるタイプがあるが、その他多くのガスコンロは乾電池で着火させる。そのため、停電してもガスコンロは使えて、調理もできる(電気で着火するガスコンロでも、外付け電池で着火は可能)。

 だから、「電気ガス併用住宅であれば、停電時にもごはんをつくることができる」というのが、二つ目の教訓だった。

停電で評価を落としたIHクッキングヒーター

 わが家は、電気ガス併用だったので、停電時も食事をつくることができた。停電が長引いたとしても、お湯を沸かして、顔を洗ったり、体を拭くことができただろう。今回の大規模停電の地域でも、ガスコンロがあれば助かる場面は多かったはずだ。

 問題は、オール電化で、電気だけに頼る住宅。当然、ガスコンロはなく、IHクッキングヒーターで煮炊きを行うことになるのだが、停電でIHクッキングヒーターはタダの盤になってしまう。

 東日本大震災の後、IHクッキングヒーターは首都圏で評価を落とした。東日本大震災まで、「新居のコンロはガスにするか、IHクッキングヒーターにするか」で悩む人が多かったが、東日本大震災以降、悩む人は減った。圧倒的にガスコンロの人気が増したのである。

 以後、新築マンションのモデルルームでも、IHクッキングヒーターを見かけることが少なくなった。じつは、昨年あたりから少しずつIHクッキングヒーターを設置するモデルルームが増え始めていたのだが、今回の停電で、その流れがどうなるか……。

オール電化住宅は、人家が少ない場所に多くなる

 人気が落ちたIHクッキングヒーターに対して、一時的に人気が落ちたものの、根強く支持されているのがオール電化住宅。東日本大震災の直後こそ着工数が減ったが、2017年度から増加に転じていた。理由は、原子力発電所の再稼働や電力小売全面自由化が契機になったこと。そして、「都市ガスが普及していないエリアでは、プロパンガスにするよりもオール電化のほうがよい」という考えが根強いこともありそうだ。

 東日本大震災のときは、人家が少ない集落でオール電化住宅が多いことを取材で知った。「都市ガスが普及していない場所では、オール電化住宅の魅力が増す」ということも、停電で得た教訓の一つだった。

 ちなみに、東日本大震災のとき、東北地方でも都市ガスが普及している仙台エリアでは停電とともに、都市ガスも止まった。その後、電気のほうが早く復旧し、都市ガスの復旧は大幅に遅れた。そのため、仙台では、地震の後にオール電化住宅の人気が大きく上がる、という現象も起きたのである。

 今回、大規模停電が起きた場所は、千葉県の房総半島地域が多い。都市ガスの普及率が低いエリアであるため、オール電化住宅が多かったのではないだろうか。オール電化住宅の場合、停電ですべての機能が失われてしまう。しかし、これまでの災害では、電気の復旧は早く、東日本大震災の被災地でも1週間程度で停電が解消された場所が多かった。

 しかし、今回は停電が非常に長引いてしまい、それが大きな問題となっている。

 なぜ、長引いてしまったのか。その原因究明から得られる教訓は、きっと大きなものになるに違いない。

 ともあれ、今は、一日も早い復旧を祈ってやまない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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