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「売るに売れない」空き家が首都圏でも増加 広さ半分の新築一戸建てに負ける理由

櫻井幸雄住宅評論家
売るに売れず、空き家のまま放置される住宅が増加しているといわれるが……(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 歯止めがかからない少子化で、「住宅余り」の現象が全国で出ている。特に深刻なのが、地方の過疎地。駅から離れてバス路線もなく、車がなければ生活できないという村落ではタダでも引き取り手のない一戸建てが増え、不動産ではなく負の資産つまり“負動産”なる言葉も生まれた。この造語がウケて、空き家問題は盛んにマスコミで取り上げられるようになった。

 空き家問題は地方だけでなく、首都圏でも起きている問題、というのが今の流行だ。

 が、首都圏で空き家が生まれてしまうことの本質的な理由はなかなか説明されない。

駅徒歩圏でも、希望価格で売れない中古一戸建て

 首都圏で増加する空き家の多くは、郊外エリアで駅から徒歩10分以上の一戸建て。不便さで敬遠されているわけだ。しかし、なかには駅から徒歩5分から10分という便利な立地でも買い手がつかない中古一戸建てがある。

 もちろん、値段を大きく下げ、1500万円とか2000万円にすればすぐに買い手はつくのだが、その後の計画もあるので、たたき売りはできない。そこで、これくらいで売れればよし、という金額・4000万円前後で売り出す……そういう一戸建てに買い手がつきにくいのだ。

 首都圏の郊外で、駅から徒歩8分、土地面積が60坪程度(だいたい200平米)といった中古一戸建てが4000万円程度ならば、決して高くはない。

 今は、駅から徒歩8分程度の新築マンションの3LDKでも4000万円以上することが多い。だったら、60坪の土地付き中古一戸建て・4000万円は簡単に売れるだろう、と思われがち。が、実際にはなかなか買い手がつかない。

 売りあぐねていると、不動産業者が買い取ると言ってくる。4000万円は無理だけど、3000万円なら買う、という。やむなく売却すると、不動産業者は古い家を壊して、土地を2区画に切り分け、2戸の建売住宅をつくる。その売値は、建物の建設費が上乗せされて1戸4000万円程度となる。土地面積30坪(約100平米)の新築一戸建て2戸で、合計8000万円になる計算だ。

 すると、今度はすんなり買い手がついてしまう。

 同じ4000万円ならば、「60坪の土地付き・中古一戸建て」のほうが「土地30坪の新築一戸建て」よりも得ではないか、と思える。

 ところが、「60坪の土地付き中古一戸建て」が売れず「30坪の新築一戸建て」2戸にしたほうが売れてしまう。理由は、「30坪の新築一戸建て」のほうが住宅ローンが組みやすいからだ。

中古一戸建てが売りにくいのは、住宅ローンを組みにくいこと

 建物が古い中古一戸建ては、住宅ローンが組みにくい。築30年を超えるような古い一戸建てであっても、建物によってはまだまだ現役。が、住宅ローンを組むときには耐震基準に適合しているかどうかが問題になる。その証明を求められることが多く、適合証明を取るには30万円程度の費用がかかる。それだけの費用をかけても、適合証明を取得できなければ無駄金となってしまう。そして、実際に適合証明取得不可のケースが多い。だから、ローンを組んで中古一戸建てを買おうとする人は二の足を踏んでしまう。

 その点、新築の建売住宅であれば、住宅ローンがすんなり利用できる。だから、土地面積が狭くなっても、新築の建売住宅のほうが売りやすいという事情が生まれてしまうわけだ。

 ここでおもしろくないのは、もともとの住宅所有者。新築の狭い建売住宅を買うよりも、同じ値段で中古の広い我が家を買ってくれればよいのに、と考えてしまう。それは当然だろう。

 しかし、実際には売れない。不動産業者が3000万円で、と言ってきても、人によっては、そこまで下げたくないと思う。だったら、状況が変わるまで残しておこう。これ以上下がることもないだろう……そんな気持ちで、空き家のまま残しておく。首都圏に空き家が増える背景には、そんな事情もあるのだ。

首都圏でマンションの空き家が生まれてしまう理由

 首都圏には「売りたくても売れない」、「貸したくても貸せない」マンションも存在する。

 一戸建てと違い、マンションならば売れるでしょう、と思われがちだが、じつは、マンションでも「駅から遠いために売れない、貸せない」という物件はある。その例としてよく引き合いに出されるのは、かつて公団(現在のUR都市機構)が分譲した郊外のマンション。いわゆる公団マンションである。

 日本住宅公団、住宅・都市整備公団と名前を変えた公団は、駅から離れた場所で、賃貸マンションとともに多くの分譲マンションもつくった。「なんで、そんな不便な場所に」と思われるだろうが、これには理由があった。

 公団は国のお金をつかって住宅をつくるため、「民業圧迫」を避けた。簡単にいうと、民間不動産業者の邪魔をするような住宅をつくらないようにしたのだ。だから、競合物件のない場所を探し、「駅から遠い」という致命的短所をもつマンションが各地に誕生してしまった。

 現在、それらの多くは築40年を超え、古い基準でつくられたため、50平米程度の2DKという使いにくい間取りもあって、ますます買い手、借り手がつかない。結果、空室のまま放置される住戸が生じ、マンション管理にも支障が出る……まさに、昭和時代が生んだ負の遺産と言いたくなる状況なのだ。気の毒と言うしかないのだが、もともとの分譲価格が安かったし、それまで長く幸せな生活を営む場所になっていたのがせめてもの救いだ。

 空き家だらけのマンションがある、という報道をする場合、それがどんな場所に建っているのかを知らせるべきだろう。

 駅から遠く離れ、古くなったマンションが売れずに放置されているからといって、首都圏のマンションすべてが空き家になる可能性がある、とするのはあまりに飛躍した予測なのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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