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デッカイ煮豚バラ肉がのった「厚肉玉そば」がうまい「豊しま春日店」

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
はみ出す煮豚バラ肉の「厚肉玉そば」(筆者撮影)

 関西で「肉うどん」といえば、昆布出汁に薄口醤油、そして牛肉が一般的だ。うどんを抜きにしたものは「肉吸い」などと呼んでいる。一方、関東で「肉そば」といえば、鰹節の出汁に濃口醤油、そして豚肉が定番である。鶏肉の場合は「肉」とはいわず「かしわ」とかただ「鶏」というのは東西同じようだ。

「是れはうまい! 肉そば 関東風」が店のキャッチフレーズ

 関東の大衆そば屋ではいくつかの系統の肉そば・うどんが登場しているが、今回は東京都文京区小石川にある「豊しま春日店」を紹介しようと思う。「是れはうまい! 肉そば 関東風」が店のキャッチフレーズ。大きな豚バラ肉がドーンとのった「肉そば・うどん」、「厚肉そば・うどん」がダントツの人気メニューである。

 「豊しま」は1970年頃巣鴨で創業した。現在、江戸川橋店、飯田橋店、春日店の3店舗で営業している。「肉そば・うどん」が登場したのは1987年頃。店を経営する山﨑さんが開発したメニューだとか。

「豊しま 江戸川橋店」(筆者撮影)
「豊しま 江戸川橋店」(筆者撮影)

「豊しま 飯田橋店」(筆者撮影)
「豊しま 飯田橋店」(筆者撮影)

「デッカイ煮豚バラ肉トッピング作戦」

 当時、ラーメンでは大きなチャーシューや煮豚バラ肉をのせる「肉ラーメン」を出す店はあった。一方、そば屋で「肉そば・うどん」といえばしぐれ煮のように煮込んだ豚コマ肉を少しのせるくらいがせいぜいだった。

 山﨑さんは「どうせなら中国料理の豚バラ肉の煮込みのように大きな肉をのせてみたらどうだろう」と試行錯誤のうえたどり着いた。すると、この大胆な「デッカイ煮豚バラ肉トッピング作戦」は奏功し、東京で「肉そば・うどん」といえば「豊しま」と定着していった。1990年頃初めて食べた時はとても驚いた。

「豊しま春日店」は2022年2月に再開

 今回紹介する「豊しま春日店」は1993年の創業である。春日地区の大規模再開発で2016年に一旦閉店していたのだが、2022年2月に再開したというので訪ねてみた。

 都営地下鉄三田線「春日駅」の巣鴨寄りの改札を出てA5の階段を上がると目の前に店が登場する。文京ガーデンノーステラス1階の角地。最高の立地である。「肉そば」の文字が看板やテントシートに記されている。

文京ガーデンノーステラス(筆者撮影)
文京ガーデンノーステラス(筆者撮影)

「豊しま春日店」は文京ガーデンノーステラス1階の角地にある(筆者撮影)
「豊しま春日店」は文京ガーデンノーステラス1階の角地にある(筆者撮影)

ゆったりと清潔感あふれる店内

 入口は開放したままで、客席部分はL字でゆったりとして清潔感あふれている。ウッディなカウンターがなかなかよい。荷物掛け用のフックがあるのもありがたい。

客席部分はL字でゆったり(筆者撮影)
客席部分はL字でゆったり(筆者撮影)

メニューはシンプル

 メニューは、「たぬきそば・うどん」、「きつねそば・うどん」、「玉子そば・うどん」、「天ぷらそば・うどん」、「天玉そば・うどん」、「肉そば・うどん」、「肉玉そば・うどん」、「厚肉そば・うどん」、「厚肉玉そば・うどん」、それらの「冷し」とシンプル。サイドメニューは「いなり寿司」、「おにぎり」である。店員さんに挨拶して「厚肉玉そば」を注文した。

メニューもシンプル(筆者撮影)
メニューもシンプル(筆者撮影)

「厚肉玉そば」登場

 すると30秒ほどで登場した。この速さこそ立ち食いそばの醍醐味である。しかもその姿は圧巻であった。どんぶりをはみ出すほどの大きさで厚くカットされた煮豚バラ肉、玉子、ねぎ、たぬきがのっている。そしてつゆは濃く、まさに関東の味である。

一番人気の「厚肉玉そば」肉が大きく厚い(筆者撮影)
一番人気の「厚肉玉そば」肉が大きく厚い(筆者撮影)

デッカイ煮豚バラ肉の「肉そば」が最初に誕生した(筆者撮影)
デッカイ煮豚バラ肉の「肉そば」が最初に誕生した(筆者撮影)

肉のうまみ+存在感+濃いつゆ

 どんぶりは熱く、持つのが大変だ。熱いつゆをひとくち。鰹節系の出汁と返しが十分に利いた甘みも感じられるパンチのある味だ。昔はみなこんな濃いつゆの店が多かった。そして麺はやや太めの茹麺である。つゆとの相性がよい。そして「デッカイ煮豚バラ肉」は返しやつゆでよく煮込んであり、箸で簡単に切れる。その脂身のうまさと肉の食感・厚みがたまらない。店の窓越しに車道や植木、人並みを見ながらゆったりと食べることができるのもよい。

外を見ながらゆっくりと(筆者撮影)
外を見ながらゆっくりと(筆者撮影)

「天ぷらそば」も昭和の味

 また、別の日に「天ぷらそば」を食べに再訪した。こちらも30秒で到着である。天ぷらはコロモが多めのタイプだが、これが濃いつゆを吸ってふやけていくと抜群にうまい。横浜駅すぐにある「鈴一」がこのタイプだ。こういう天ぷらも昭和の時代は当たり前だったが、今は随分と減ってしまった。この味が末永く残ってほしいと思う。

別の日に食べた「天ぷらそば」は昭和の味(筆者撮影)
別の日に食べた「天ぷらそば」は昭和の味(筆者撮影)

 昭和の時代を生き抜いてきた「豊しま」の人気の味を、文京ガーデンという最新の再開発施設の一等地で味わえる。「豊しま春日店」にはそんな交錯した時間が流れていて、楽しい店である。来夏は是非とも「冷し厚肉玉そば」を食べてみたいものだ。

 今年もコロナ禍に紛争、インフレなどが相次いだ。「厚肉玉そば」を年越しに、あるいは年明けに食べて良運を手繰り寄せたいものである。皆様も良い年をお迎えください。

昭和の時代を生き抜いてきた人気の味を堪能(筆者撮影)
昭和の時代を生き抜いてきた人気の味を堪能(筆者撮影)

「豊しま春日店」

住所  東京都文京区小石川1-5-1 文京ガーデンノーステラス1階

営業時間 7:00~18:00(土・祝は7:00~15:00)

定休日 日曜

年末年始の休み2022年12月30日~2023年1月4日

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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