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台風接近 知っておきたい子どもを守る災害への備え

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
イラスト 江村康子

 9月1日は防災の日でしたが、さっそく週末に台風10号が沖縄、九州に接近、上陸する可能性があるとの予報が出ています。特別警報が発表される可能性もある規模とのことで、最大限の注意が必要とされています。

 子ども、特に乳幼児は災害時に自力で避難できない災害弱者です。保護者や周りのサポートが必要ですが、いざとなると慌ててしまう方もいるかも知れません。また、「子ども」と一言でいっても、その背景は様々で、準備も異なります。

 今回はお子さんの背景ごとに、災害への備えについてまとめてみたいと思います。

全てのお子さんがいるご家庭で共通する備え

1.母子手帳の写しを取っておく

 母子手帳には、予防接種歴や成長発達の記録がぎゅっと詰まっています。避難時に持ち出せればベストですが、急いで避難するときなど、それができない場合もあります。あらかじめコピーや写真を撮っておくとよいでしょう。小児科医の立場からは、特に「出産の状態」「乳幼児発育曲線」「予防接種の記録」のページの写しを取っておくことをお勧めします。

 喘息やてんかんなどの慢性疾患のあるお子さんの場合、災害時に普段のクリニックを受診できないこともありますので、お薬手帳のコピーも残しておくとよいでしょう。

2.地域の避難所を確認しておく

 いざというときに向かう避難所をあらかじめ確認しておく必要があります。避難所にはいくつか種類があることを知っておきましょう。

 最初に確認するのは、「指定避難所」です。これは、災害の危険があるときに避難し、危険が去るまで滞在する避難所で、近くの公立の小中学校などになります。

 また災害後には妊産婦や乳幼児、障がい児など一般の避難所では生活に支障が想定される避難者向けに「福祉避難所」が開設されます。条件は自治体によって異なりますので、こちらも確認しておくとよいでしょう。

赤ちゃんのいるご家庭での備え

 授乳が必要な赤ちゃんは、避難する場合にはいろいろな物品の準備が必要です。チェックリストでご紹介します(※1)。

画像制作:Yahoo! Japan
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 なお、2019年3月から日本でも液体ミルクの発売が開始されています。液体ミルクは粉ミルクと比べ、70℃以上のお湯による殺菌が不要で、調乳の手間もないため災害時には重宝します。事前に準備する際には、直射日光や夏場の車中等高音の場所を避けて保存し、保存期間に注意しましょう(6カ月~1年など、製品のタイプやメーカーにより異なります)。

医療的ケア児の災害への備え

 在宅医療の患者さんにとっても、事前の準備は大切です(※2)。いざというときにはヘルプカードがあると便利です。これは家族の連絡先、疾患名、お薬情報、薬の保管方法、緊急時の配慮を記したカードで、児の病気を理解してもらうためのものです。

 人工呼吸器や吸引器などを使用している場合は電源の確保が課題になります。いつもと同じ時間で病院までたどり着けるとは限りません。機器の内部バッテリーも経年劣化しますので予備のバッテリーがあると良いでしょう。停電が続く中で自宅に留まる場合には発電機の準備が必要です。カセットボンベタイプなどもありますが、発電機は一酸化炭素を排出しますので、カセットコンロのように屋内では絶対に使用しないようご注意ください。屋外であっても、換気のよい場所で使用する必要があります。なお、ハイブリッド自動車や電気自動車にケーブルをつけて発電する方法もあります。事前に発電機の使い方をチェックしておきましょう。

 在宅人工呼吸器を使用されている方は、いざというときのためにアンビューバッグの使い方に慣れておくとよいでしょう。吸引器を使う方は電気を使わない足踏み式などの吸引器を1台用意しておくと安心です。それ以外では、LEDヘッドライトがあると、熱くならないので酸素ボンベの近くにおいても安全ですし、両手も使えるため何かと便利です。

 機材の準備だけでなく、電力会社や在宅酸素取扱会社、医療機関と平時から相談を重ね、患者家族同士でSNSグループの活用なども考えておきましょう。また災害時には電話が通じないときもあるので、来院方法を事前にかかりつけ医と相談しておきましょう。

 ところで、医療的ケア児の普段のお出かけは災害時に備えるトレーニングにもなると、先日在宅医療の先生に教えていただきました。とても大事なことだと思います。災害準備は特別なものと思いがちですが、実はそうではありません。日常でよく使うものを活用する等、「普段の延長」で準備する視点を大切にしたいと思います。

アレルギー等慢性疾患のあるお子さんの災害への備え

 日本小児アレルギー学会は災害時の子どものアレルギー疾患対応パンフレットを出していますので、その内容の一部をご紹介いたします(※3)。

 まずは喘息のお子さんの場合です。災害時でも発作予防は大切ですし、環境が悪くなると発作も出やすいため発作予防の薬と発作時の薬を1週間分準備しておくとよいでしょう。 

 アトピー性皮膚炎のお子さんの場合、災害時には皮膚炎が悪化しやすいため、普段使っていなくてもステロイド入りの塗り薬や保湿薬の準備も大切です。石けんやビニール袋を用意しておくと、水と石けんを袋に入れて振ることで体を洗う泡を作ることができます。

 食物アレルギーのお子さんの場合、アレルギー症状が出たときの緊急薬をあらかじめ準備してすぐ持ち出せる場所に置いておきましょう。症状が出たときの対応も主治医に確認しておくと安心です。

発達障がいのあるお子さんの災害への備え

 災害時には、普段の生活と大きく環境が変わり、おとなにとっても避難はストレスがかかるものです。発達障がいのあるお子さんは、変化に対応することが周囲のお子さんよりも苦手なことが少なくありません。このような場合、伝え方や接し方を工夫することで本人のストレスを軽減することができます。例えば絵や写真を用いたり、ノートに書いて「見える化」して伝えることです。ガムテープを使って自分が過ごしていい場所を明確にするなどの工夫も有効なことがあります。

 これらに備えるための事前準備リストがこちらです。あらかじめ用意しておくとよいでしょう。

画像制作:Yahoo! Japan
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 ここまで様々なお子さんの背景ごとに災害に備える準備のお話をしました。

 なお、今回の内容も含め、私達の「教えて!ドクタープロジェクト」では、乳幼児の災害対策について、フライヤーを何枚か制作してウェブサイトにまとめています。改変や商用目的でなければ印刷や配布は自由にしていただいて構いません。ぜひご活用ください。きたる台風に向けて、少しでも皆さんの準備のお役に立つことを願っています。

参考文献

(1)平成27年度厚労科研(研究代表者:吉田穂波)「赤ちゃんとママを守る防災ノート」より一部改変して引用

(2)日本小児科学会災害対策委員会:医療が必要な子どもたちの防災対策.( https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/iryohitsuyo_na_bosaitaisaku.pdf)

(3)日本小児アレルギー学会:災害時の子どものアレルギー疾患対応パンフレット(改訂版)(https://www.jspaci.jp/assets/documents/saigai_pamphlet.pdf)

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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