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高収入夫婦ほど年金収支は赤字に? 早めに見直したい生活費と資産形成

坂本綾子ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士
(提供:イメージマート)

高収入の共働き夫婦がパワーカップルと呼ばれて注目されています。

日常の生活費はもちろん、住宅購入や子どもの教育についても、通常の世帯では手が届かないレベルの支出をしているケースは多いようです。

年間の収支をもとに長期的な金融資産の残高推移を見るキャッシュフロー表を作成すると、稼ぎが多いことのメリットを実感します。支出額がかなり多くても、それを超える世帯収入があるので、多くの場合、金融資産が順調に積み上がっていくからです。

高収入の共働き夫婦は現役時代と年金生活に大きな落差!

ただし、それは現役時代であり、引退して年金生活に入ると、キャッシュフロー表の数字には大きな変化が生じます。現役時代の収支と、年金生活の収支が大きく乖離してしまうのです。その落差は、現役時代の世帯年収が多い夫婦ほど大きくなります。はっきり言うと、現役時代とは逆に、年金生活はかなりの赤字となり、その赤字が毎年毎年、金融資産を侵食していくケースが多いのです。現役時代に金融資産がどんどん増えていったのとは反対に、年金生活では金融資産はみるみる減っていきます。こうなる理由は、日本の公的年金の仕組みにあります。

高収入夫婦ほど早めの老後準備は必須

高収入の共働き夫婦には老後の心配などいらないというイメージがあるかもしれませんが、高収入夫婦こそ、いずれ受け取る公的年金がどう計算されるかを知った上で早めの対策が必要です。

私がこれまで家計相談で対応してきた正社員の共働き夫婦を想定して説明しましょう。

夫婦とも正社員の共働きこそ老後は最強とFPはよく主張します。私もその1人です。なぜなら、厚生年金を夫婦でもらえるからです。会社員と専業主婦(パート勤務をしていても扶養の範囲内で働き厚生年金には加入していない妻も含む)の場合、夫婦合わせた公的年金は月額で20万円台前半くらいのケースが多いでしょう。一方、夫婦とも正社員の共働きの場合、現役時代の2人の年収にもよりますが、夫婦合わせて月額で30万円前後から40万円前後を受け取れるでしょう。

どんな生活をするかによりますが、子どもが独立し、持ち家で住宅ローンが終わっていれば、夫婦2人の生活費をやりくりできる金額ではないでしょうか。

ただし、そう言えるのは現役時代の世帯年収が1000万円前後までの正社員夫婦です。それ以上になると、現役時代の収入と、年金収入の差の大きさが際立ってきます。

ここで、日本の年金制度、つまり老後の年金の計算の仕組みを確認しましょう。

年金額は現役時代の収入ほどには差がつかない

年金額に影響するのは加入期間のみの国民年金

会社員の公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建です。国民年金の部分は現役時代の収入には関係なく公的年金に何カ月加入したかで受取額が決まります。20歳から60歳までの480カ月(40年間)加入すると、年間77万7800円(平成4年4月からの金額)の満額をもらえます。

現役時代の収入により差がつく厚生年金

一方、厚生年金の部分は、給与に通勤定期代や残業手当なども含めた月収をキリのいい金額にした標準報酬月額をもとに計算します。標準報酬月額は、月収の変化に応じて改定されます。ボーナスをもらっているならこれもキリのいい金額にした標準賞与額を元に計算して足し算します。つまり、現役時代の年収が順調に上がっていき、高かった人ほど、厚生年金も増える仕組みです。

厚生年金には上限あり

しかし、無制限に増えるわけではなく、月収の水準を示す標準報酬月額は、65万円で頭打ち。収入が65万円以上あっても65万円で計算します。月収65万円ということは、年間では780万円。一方、ボーナスの水準を示す標準賞与額は、1回あたり150万円が上限で、それ以上のボーナスをもらっても150万円で計算します。

例えば、月収が65万円、ボーナスが1回150万円で年に2回もらうなら年収は1080万円。これ以上年収が増えたとしても、老後にもらう年金額は増えないということです。

就職後の給与曲線がどのように推移したかにもよりますが、現役時代の年収が相当高くても、老後の年金は夫婦合わせて月額40万円台になりそうです。あくまでざっくりした試算ですが、年間では500万円前後でしょうか。老後の年金収入が年500万円前後と聞けば、平均的な収入の人は充分だと思うしょう。

しかし、仮に現役時代の世帯年収が2000万円なら、老後の年金収入500万円は4分の1。家計をいきなり4分の1=25%に縮小するのはかなり厳しいです。

現役時代も老後も、税金・社会保険料の負担が大きい高収入夫婦

また、収入が多い世帯は、税金や社会保険料の負担が大きくなります。現役時代も相当な額を給与から天引きされていましたが、老後の年金からも税金や社会保険料を天引きされるので、手取りはもっと少なくなります。さらに、公的医療保険や介護保険は収支が悪化しているので、今後、社会保険料がさらに上がる可能性があります。

これらを踏まえて対策が必要です。

生活費を見直しつつ資産形成を

具体的には、老後資金として使える、勤務先からの退職金や企業年金の額を確認すること。NISAやiDeCoなどを使って金融資産を増やしておくことなど。2024年からNISAが改正され、利用できる枠が大きく増えるとともに非課税期間が無期限になる予定です。新しいNISAは、現在のNISAとは別枠で使えます。ぜひとも活用したいですね。

老後は賃貸経営をして不動産所得で生活費を補いたいと考える人もいそうですね。不動産に詳しく、セカンドライフのビジネスとして取り組むなら別ですが、私はあまりお勧めしません。不動産所得は年金収入と合算して総合課税になるので、税金・社会保険料・医療費などの自己負担が上がる要因になるからです。

現役時代の収入の多さを活かして、しっかりと金融資産を築き、その金融資産からの配当金や分配金を年金の足しにするのが適切ではないでしょうか。金融資産の利益にかかる税金は、その人の年収にかかわらず一律20.315%とシンプル。NISAなら、配当金や値上がり益は非課税です。

合わせて、生活費については減らせる項目がないか現役時代から考えて取り組むことです。キャリアと能力を活かして、仕事を続けるという選択もあります。

ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士

雑誌記者として22年間、金融機関等を取材して消費者向けの記事を執筆。その経験を活かしてファイナンシャルプランナー資格を取得。2010年より、金融機関に所属しない独立した立場で、執筆に加えて家計相談やセミナー講師も行う。情報の取捨選択が重要な時代に、それぞれの人が納得して適切な判断ができるよう、要点や背景を押さえた実用的な解説とアドバイスを目指している。

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