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45歳定年説が物議 45歳未満がやっておくべき対策とは何か

坂本綾子ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士
(写真:アフロ)

45歳定年説の影響を受けるのは誰?

45歳定年説が世間を賑わせている。40代で一度キャリアを仕切り直ししようという考え方は今に始まったことではなく、数年前からときおり話題になってきた。寿命が延びて70歳まで働ける環境が整えられつつあるのとセットだ。20歳前後から70歳まで50年もの間、働き続けるには、中間の40代で学び直しを行うなどしてキャリアチェンジしなければ難しいというわけだ。

45歳定年説を受け入れたくなくとも、今後はそういう方向に進むことが予想される。自ら転職する人も増えるだろう。

そして、45歳定年説の影響を受けるのは当然だが45歳未満の若い世代だ。50代以上は今の制度の中で定年を迎えることができるだろうし、40代後半の人たちもすべりこめるだろう。

働き方、つまり自分の財布にどうやってお金を入れるかが、45歳を境に異なってくるということだ。

公的年金でも分が悪い40代未満の世代

公的年金についても世代間格差ということが、ずいぶん前から言われている。若い世代は、これまでの高齢者に比べると、もらえる公的年金の水準が下がるというものだ。残念ながら国の試算でもそのような結果になっているから、若い世代ほど、早めに老後資金の準備が必要だ。まさに人生の一番輝かしい昼間の時期から、夕暮れ以降の老後の準備を始めなければならないのは寂しくもあるが、無理のない範囲で始めておきたい。この公的年金の世代間格差も、その境目は40代あたりだ。

会社員なら退職給付制度の確認が必須!

私自身が会社員の家計相談で実感することは、世代による退職給付制度の差が大きいことだ。

20代~30代の若い世代の家計相談を受けていると、勤務先の退職金について知らない人が多いことに気が付く。「退職金?多分ないと思うけど。あったとしても少しだと思う。どうせ期待していないし」という答えが返ってくる。「DCとか401Kって聞いたことありませんか」と問い返すと、「そういえばDCあったかも。でも、よくわからなくて」と言う。DCや401Kと呼ばれるのは企業型確定拠出年金(この後は企業型DCと表記)のことで、退職給付の一種だ。一般的に退職金と呼ぶのは退職給付のことで、一時金や年金形式で受け取る。一時金で受け取れば退職金、年金形式で受け取れば企業年金だ。

一方、定年が間近な世代から老後生活について相談を受けると、勤務先や立場にもよるが、一つの会社に長く勤めてきた場合は、潤沢な退職給付を受け取る人が多いと感じる。

かつて、特に大企業では、受取額が決まっていて金額的にもかなりの退職金や企業年金をもらうことができた。今も手厚い退職給付制度を持つ企業はあるが、最近は、特に若い世代では、退職給付は企業型DCだけという相談者によく出会う。

企業型DCは、掛金を企業側が出すパターンと社員が給与から出すパターンがあり、どちらも掛金の運用は自分で行う。そのため運用次第で定年時の受取り額が違ってくる。確定拠出年金という正式名称が示す通り、現役時代に出す掛金(拠出)は「確定」しているが、受取額は確定していないのが特徴だ。かつて日本企業で主流だった確定給付の企業年金ではないので、将来いくらもらえるかはわからない。つまり、どんな運用をするかがとても大事だ。退職金をいくらもらえるかは自分の運用にかかってくる。

中途退職したら退職給付はどうなる?

もちろん今でも企業によっては確定給付の企業年金がある。ただし、確定給付の企業年金は勤続年数が長いほどたくさん受け取れる設計になっている企業が多い。転職などで定年前に退職すると、その時点で退職一時金として受け取るか、60歳まで待って受け取るか、次の勤務先などの退職金制度に移すことになる。転職の回数が多いほど、老後生活の直前にもらえる退職給付は少なくなるケースが多いと予想される。

40代でキャリアチェンジするなどして勤務先を変えると、異なる退職給付制度を渡り歩くことになる。会社員から個人事業主や経営側になる人もいるだろう。個人事業主は、会社員の退職給付にあたる制度に自分の判断で自分のお金で加入する必要があるし、経営者の退職給付は社員とは異なる。

キャリアチェンジが一般的になる社会では、そもそものお金の入り口が不安定になりやすい上に、若い世代は公的年金の水準が下がる可能性が高く、しかも、退職給付についても不確実性が高くなる。長年勤め上げてそれなりの退職金をもらい、住宅ローンの残債を返済したり、老後資金に充てたりというプランは描きにくくなるのだ。

自分の退職給付はキャリアチェンジしても必ず持ち運ぶ

45歳未満の人は、このことをしっかり胸に刻むべきだろう。そして、具体的な行動としては、勤務先の退職給付制度について確認する、企業型DCが導入されているならしっかりと運用する、老後資金として定期預金や投資信託などを積立てる、投資信託を使う場合は「つみたてNISA」や「iDeCo」(個人型確定拠出年金)といった非課税口座を活用する、転職などの際は、もれなく手続きを行い持ち運べるものは確実に持ち運ぶことだ。

このちょっとした意識と行動の差が、20年後、30年後の明暗を分けるかもしれない。若い時間を楽しみつつ、老後の備えも怠らないように。

ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士

雑誌記者として22年間、金融機関等を取材して消費者向けの記事を執筆。その経験を活かしてファイナンシャルプランナー資格を取得。2010年より、金融機関に所属しない独立した立場で、執筆に加えて家計相談やセミナー講師も行う。情報の取捨選択が重要な時代に、それぞれの人が納得して適切な判断ができるよう、要点や背景を押さえた実用的な解説とアドバイスを目指している。

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