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「広告主はコア視聴率を求めている」は幻想にすぎない

境治コピーライター/メディアコンサルタント
図は筆者が作成

今回の記事は1月30日(火)開催のウェビナー「CTV時代のテレビCM データを駆使した新しい売り方を考える」に関連した内容だ。

「コア視聴率」はなぜ生まれたか

視聴率の話題が日々ネットニュースを飛び交う。ひと頃までは世帯単位で視聴率を測定する「世帯視聴率」のみが存在していたが、2018年から2020年にかけてCM取引の単位が世帯視聴率から個人視聴率に移行していった。これに伴い、視聴率は世帯視聴率とともに個人視聴率もネットニュースで扱われるようになってきた。

さらに近年は各局が個別に戦略的目標として「コア視聴率」(呼び方は局ごとに違う)も使うようになり、ネットニュースにも頻繁に出てくるようになってきた。

コア視聴率とは、局により違うが大まかにいうと14歳から49歳に絞った対象の視聴率ということだ。実は2000年代半ばに日本テレビが社内で目標設定したのがこのコア視聴率だ。

フジテレビに世帯視聴率で勝っているのに、売上では当時なかなか抜けなかった。よくよく調べると、フジテレビは若い層、特にF1(20〜34歳女性)によく見られていることが広告主に評価されていることがわかった。これに対抗するために日本テレビが設定したのがコア視聴率だ。たんに若者だけでなく、ティーンからその親の世代までを核にし、その人たちに見てもらうことを目指した。

その結果、世帯視聴率まで上がり2011年以降視聴率トップの座をゆるぎなきものにしたのだ。売上もそれに伴って伸び、いまや断然トップの座を確保し続けている。

近年になり、この日本テレビの戦略にようやく他局も気づき、後を追うように「コア視聴率」を目標に掲げるようになった。

そのようなプロセスをどれくらい把握しているかわからないが、ネットメディアがこのコア視聴率を語る際に、「広告主のニーズに合う」と解説する例をよく目にする。そこには少々誤解があるようだ。

広告主のニーズと「コア視聴率」のギャップ

広告主は基本的には、高齢者より若い世代にテレビCMを見せたい傾向が強い。だから、どうしても高齢者世帯の数が多いことに引っ張られる世帯視聴率よりも、コア視聴率の方を評価する企業が多いかもしれない。

だが、企業がマーケティング活動をする際、かなり細かく具体的にターゲットを設定するものだ。例えば、あるメーカーが洗濯洗剤についてこのようなターゲットを設定したとする。

「32〜40歳の女性、企業の総合職・既婚、小学生の子供2人、夫も家事意識はある程度高いが日用品の選択権は妻の側、エコ意識が高く成分にもこだわり」

これはまったく架空の商品の架空のターゲット像だが、これくらい具体的に決め込むのは珍しいことではない。商品開発時に様々なデータをもとに開発する上に、それを実際にどう売るかにあたっては綿密な調査をするものだ。性年齢だけでなく、どんな意識を持つかがターゲット像に入ることも多い。

そんな商品を売ろうとする広告主にとって、コア視聴率はどれくらい意味を持つだろう。14歳〜49歳の、既婚かどうかもわからない上にどんな意識かがさっぱり見えないあまりにも大ざっぱなデータを見せられて、どんな意味があるだろうか。

図は筆者が作成
図は筆者が作成

図はあくまでイメージだが、コア層(=14〜49歳)に対して、この架空のターゲット像はもっともっと絞り込んだ人々であることは感じてもらえるだろう。コア視聴率はあくまでテレビ局にとっての大まかな戦略目標であって、それと広告主のニーズが合うかは別の話なのだ。「コア視聴率を広告主が求めている」とはほとんど誤解に過ぎないことに注意してほしい。

ギャップを埋めるにはどうすればいいか

この図を見ると、広告主のニーズはあまりにも細かい。さらに、それぞれの広告主がそれぞれ細かいターゲット像を持っているので、すべてにぴったり対応した番組作りは無理に思えてくる。

一方で、広告主にとってぴったりのターゲットがたくさん見ている番組があるのなら、価値があると考えてくれるかもしれない。価値を感じれば、高い値付けでCM枠を買ってくれる可能性は出てくるだろう。

一方で、今のテレビCM枠の買い方はスポットセールスと言って、個人視聴率を単位にGRP(Gross Rating Point)で売買する。スポットを100GRP買いたいとオーダーすると、各枠の個人視聴率の合計値が100になるように枠を設定する。1GRP=X円の取引になるので、広告主が求めるターゲットが多くいても少ししかいなくても同じ値付けになってしまうのだ。

ここには実は、前々から大きなギャップが存在していた。だが以前はテレビ局側の売り手市場、常にCM枠は埋まっているので融通の利かせようもなかった。

だがいま、テレビCM市場は、視聴率が下がる傾向が続き、売り手市場でも無くなった。ここで述べたようなギャップを埋める可能性が出てきている。

上の図で言えば、広告主が求めるターゲット像にフォーカスして取引し、余計な枠を買わずに済む分、多少高い値付けを承認してもらう。そんなwin-winのやり方はあるのではないか。

商習慣を変えることになるので、簡単に変えられるものではないが、可能性を議論するときではあると思う。

30日のウェビナーでは、そうした議論を展開する予定だ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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