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ローカル局が見逃し配信以外にネットで収益を上げるには?

境治コピーライター/メディアコンサルタント
放送された番組をWEB用コンテンツとして整えればメディアに 画像は筆者作成

※本記事は9月20日(水)開催のウェビナー「テレビ番組がWEBメディアになる〜放送が生むWEBビジネスの仕組み」(リンクは告知サイト)に向け、そのテーマについて論じたものだ。

苦境に陥るローカル局の突破口はネット?

放送業界は苦境に陥っている。コロナ禍によって人々がネットにテレビを繋いで映像配信サービスの楽しさを知った。いまやお年寄りの中でもテレビでYouTubeを視聴する人が出てきた。その結果、人々がテレビ受像機で放送を見る時間がぐんぐん減っているのだ。

キー局もCM収入を下げているが、ローカル局はさらに厳しい。スマホを入口にする新しい企業のCM出稿が増えたが、それらの企業はCM効果が即ダウンロードに表れるかをシビアに見る。すると若い人の多い東阪名をはじめとする大都市圏では効果が高いが、それ以外のローカル局は効果が薄いからとCM出稿から外される現象が起きている。

またキー局の番組はTVerで配信されると「見逃し配信」によって放送後も収益を得られる。昨年の『silent』や今放送中の『VIVANT』などはTVerで莫大な再生数を獲得し、収益に貢献している。だが多くのローカル局はドラマやバラエティをあまり自社制作していない。中にはローカル発でTVerで全国的人気を獲得する番組もあるが、ほとんどはキー局のメジャーな番組に埋もれてしまう。

だがネットで飛び交う情報の発信元がテレビ番組であることは多い。X(元Twitter)でトレンド入りした言葉を辿るとテレビ番組であることも多いし、テレビ番組内で起こったことをそのままコタツ記事にするとネットで話題になったりする。実はネットでもテレビは強い影響力を持っている。

「テレビ番組×WEBメディア」という考え方

だったらテレビ番組をネット上でメディア化できるのではないか。その発想を具現化した番組がある。名古屋テレビ(メ〜テレ)制作の『ハピキャン』だ。

WEBメディア『ハピキャン』トップページより
WEBメディア『ハピキャン』トップページより

(ハピキャンWEBサイトはこちら→https://happycamper.jp/ )

2019年にスタートしたおぎやはぎ出演のキャンプ情報番組だが、WEB上では『ハピキャン』という名のキャンプ情報メディアでもある。放送は木曜日の深夜で、中京地区以外のローカル局でも番組販売されており、多くの地域で視聴できる。一方WEBメディア『ハピキャン』はキャンプ業界の中でも評価され、月間200万UBを獲得している。

決して莫大な数ではないが、特定の分野に特化したメディアとして、広告主から見ると十分に魅力的だ。200万はテレビ放送の捉え方では僅かな視聴率になってしまうが、雑誌と考えるとすごい部数ということになる。

『ハピキャン』では他のWEBメディアと同じようにきちんとした媒体資料を作成し、広告メニューも様々用意して広告主に対応している。テレビ局の人はWEBビジネスを「自動的にバナーが入って広告収入を得る」ものと思い込みがちで、そのためには億単位のPV数が必要と考えている人も多い。だが特定の分野に特化したメディアなら、丁寧に広告商品を整えて適切な広告主に売り込めば、広告収入をそれなりの金額で得られるのだ。

しかも、中京地区の放送局でも「キャンプ」とドメインを定めることで、全国のキャンプ初心者に来てもらえるメディアになる。ローカルがエリアを超える可能性が、「番組×WEB」にはある。

もちろんYouTubeも活用できる。『ハピキャン』は当初想定していなかったが、放送開始から一年後に試しに第一回放送分をあげてみたところ、何百万回も再生された。

『ハピキャン』は、放送×WEBの相乗効果で、放送だけではないビジネスのあり方を追求するひとつの試みだ。

地域の情報を番組と連動して発信するWEBメディア

これに近い考え方で、地域の情報に特化したWEBメディアを展開する動きが、いくつかのローカル局に出てきている。

例えば読売テレビが運営する『anna(あんな)』(→https://anna-media.jp/)。

放送エリアである関西一帯の、若い女性向けの情報を発信するおしゃれなWEBメディアだ。グルメ・ファッション・エンタメなどの情報を頻繁に更新して発信する。

一方放送では毎週水・金・日曜日の深夜枠で、女性たちによるトーク番組として放送。互いに連動し、相乗効果を得ている。TVerやYouTube、自社サイトytv MyDoでも見逃し配信し、番組としても親しまれている。

福岡放送の「ARNE(アーネ)」(→https://arne.media/)、北海道放送の「Sitakke(したっけ)」(→https://sitakke.jp/)も似た仕組みで番組と連動したWEBメディアを展開している。さらに最近立ち上がった「きょうとくらす」(→https://kyotokurasu.jp/)もある。こちらはいわゆる独立局である京都放送によるメディアで、この手の取り組みがネットワーク局だけでない広がりになったことを示した。

こうした取り組みは、今後もっと増えていくと思われる。テレビ放送には先述の通りネットでの影響力がまだまだあり、自分たちでネット上でもメディアとして存在感を作ることで、放送とは別の収入を生む可能性があるからだ。

ローカル局がなくなると危惧する人もいるが、東京に本社がある企業も、各エリアに支社支店を展開している以上、ローカルでの広告展開を続けたいと考えている。問題なのはその受け皿がネットに少ないことだ。元々広告主とはパイプを持つローカル局だからこそ、ネットでの広告費の受け皿を整えればそこでの収入が生まれるはずだ。ただし、放送のCM枠とは違い多様な広告メニューを開発する必要がある。そうした作業を丁寧に続けていけば、放送と並ぶ収入の柱になる可能性はある。

9月20日のウェビナーでは、ここで紹介したテレビ局のWEBメディアの運営に携わる登壇者たちから、その実際をじっくり聞いてみたい。

※9月13日(水)17時よりウェビナーについて簡単に解説するX(元Twitter)スペースを開催します。

https://twitter.com/i/spaces/1rmGPkvRkbmKN

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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