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テレビ神奈川がTVerで「tvk祭」をやる意義とは?〜ローカル局が始めた配信への挑戦〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
画像提供:テレビ神奈川

独立局テレビ神奈川がTVerで「祭」を開催

民放公式テレビポータルTVerで本日3月20日12時から「祝50周年tvk祭」と題して、テレビ神奈川の番組が一挙に14番組配信される。同局には知られざるユニークな番組が多く、31日まで大いに盛り上がりそうだ。(→「tvk祭」配信URL https://tver.jp/specials/tvk50-festival/gratitude)

テレビ神奈川は神奈川県を放送エリアとするテレビ局。関東の地上波テレビはいわゆるキー局が広域放送局として1都6県に放送しているが、それとは別にネットワークに属さず県内だけで放送するテレビ局があり「独立局」と呼ばれる。キー局の番組が全国にネットワークされる一方で県内だけの放送を一日中行っており、ややマイナーな印象は拭えない。だがテレビ神奈川は自社制作のユニークな番組を数多く放送してきた。他の独立局と製作委員会を組んで作る番組もあり、コアな熱いファンがつく番組が数多くあるのだ。

画像:TVerの「tvk祭」ページよりキャプチャー
画像:TVerの「tvk祭」ページよりキャプチャー

配信されるのは以下の14番組

1「あっぱれ!KANAGAWA大行進」

2「猫のひたいほどワイド」

3「カナフルTV」

4「ハマナビ」

5「LOVEかわさき」

6「かながわ旬菜ナビ」

7「クルマでいこう!」

8「関内デビル」

9「lol - planets」

10「アルコ&ピースのほんの気持ちですが! 」

11「かがやけ!ミラクルボーイズ」

12「この動画は再生できません」

13「 KICK OFF F・Marinos 」

14「ファイト!川崎フロンターレ」

このうち、太数字(8・11)で示した2つの番組はもともとTVerでレギュラー配信されている。

番組名に入っているようにアルコ&ピースやかが屋など、キー局でもよく見るお笑い芸人が出る番組もある。また「この動画は再生できません」はかが屋の二人が主演するホラードラマで、U-NEXTやAmazonPrimeビデオでも配信されている。

エリアを超えて番組をアピールする機会に

今回TVerでの一挙配信を企画した理由を、テレビ神奈川編成局次長兼編成部長の遠藤幹彦氏はこう語ってくれた。

「この3月までの1年間がテレビ神奈川開局50周年記念イヤーで、プロジェクトチームでいろんな取り組みをしてきました。その最後の企画として、50周年自体を知っていただきたいのと、今流している番組をエリアを超えてアピールできないかという発想です。TVerさんで一気に流してもらえば、それぞれの番組に注目が集まるでしょうし、別のプラットホームでも見ていただけるかもしれないと考えました。」

編成局編成部の三村伸弥氏がTVer側に打診したところ好反応でスムーズに話が進んだという。

「TVerさんとしてもローカル局の番組配信をもっと増やしていきたいとのことでした。ローカル局単独での特集は初めてだそうですが、50周年ということで『tvk祭』の形でやらせていただくことになりました。」

TVerはキー局が主な出資者だが、ローカル局の番組も配信している。その数をもっと増やしたいTVer側と50周年を盛り上げたいテレビ神奈川の希望がうまくマッチして「tvk祭」が成立したようだ。

テレビ番組のネット配信は著作権処理が大変だが、テレビ神奈川は日ごろ2番組を配信しているのでわかっていたつもりでも、一挙に14番組の権利処理は何倍も手間がかかったという。

三村氏は「特に音楽は著作権クリアが難しい楽曲を抜いたり差し替えたりの手間がかかりますが、たくさんの番組について一度に行うのがこんなに大変なのかと、いい勉強になりました。」とその苦労を語った。

ただ、出演者はじめ関係者はTVerの話を前向きに捉えて喜んでくれていると遠藤氏は語る。

「これまで配信ではどんなプラットフォームかの説明から入って契約上の話を詰めたり大変でしたが、今回は『TVer出られるんですね』とすぐに言ってくださって、配信の場としてメジャーになったんだなと感じました。弊社ではYouTubeでも配信してますし、様々なプラットフォームに展開していくつもりですが、TVerさんはいい土壌がもうできているのだと思います。」

配信の多様な試行錯誤をするローカル局

ローカル局の中には、テレビ神奈川以外にも、配信に積極的な例は実は多くある。何しろ今、放送収入は急激に下がっている。途方に暮れているだけに見える局もあるが、果敢に配信に取り組む局も多い。関西地区や中京地区のような広域圏の局は体力もありすでに配信に手をつけているが、県単位の局は人材的にも資金的にもゆとりがない。それでも、様々な配信で試行錯誤を重ね、やったからこそわかる知見を得ていく時なのだ。

全国的なヒット作を持つHTB北海道テレビはすでに自社制作番組を次々に「HTBオンデマンド」で配信している。「水曜どうでしょう」をはじめ同局の全国的にも知られる番組の数々が並ぶ。

一方、愛媛のRNB南海放送は先週、3月13日に「南海オンデマンド」を立ち上げた。だが配信している番組は「パパとなっちゃんのお弁当」というドキュメンタリー番組ただ一つだ。日本テレビのZIP!朝ドラマで放送されている『パパとなっちゃんのお弁当』の原作ともいえる番組なのだそうだ。単品で500円という大胆な価格設定。その潔さに引き込まれて筆者は思わず登録して支払った。

南海放送は実はラジオドラマやテレビドラマなど制作力の高い局なので、もちろん今後どんどん増やしていくのだと思うが”とにかくやってみよう”という姿勢が面白いと感じる。失敗を怖れないぞ、できることは何でもやるぞ、との意気込みと社風があるのだろう。

「なんかいオンデマンド」WEBページをキャプチャー
「なんかいオンデマンド」WEBページをキャプチャー

南海放送は「南海放送アプリ」を2015年に開発し、しかもそれを他のローカル局にも提供している。新しい取り組みの旗振り役として、リスペクトされてきた局なのだ。

その南海放送アプリをベースに看板番組「アサデス。」のアプリを作り、昨年2022年4月からはアプリ上で番組の同時配信を「どこでもアサデス」として実施しているのが福岡県のKBC九州朝日放送だ。

画像:「アサデスアプリ」WEBサイトよりキャプチャー
画像:「アサデスアプリ」WEBサイトよりキャプチャー

立ち上げた直後に私が運営する「MediaBorder」で担当者に取材している。それからもうすぐ一年、アプリのダウンロード数は10万ほど増え、合計で27万を超えたという。

「アサデス。」は月〜金の朝6時〜8時に放送されるローカル番組で、福岡の話題を毎朝届ける人気情報番組だ。同時配信なのでライブで著作権処理が必要になる。スポーツコーナーや外国曲を使う時が最も厳しい。そのため、地元球団ホークスのビジターゲームを伝える際は放送とは別の簡易スタジオから配信する。今盛り上がっているWBCの試合を伝える際もこの簡易スタジオが活用されているそうだ。

苦労は多いが権利処理が不要な日も出てきており、少しずつ手間が減っていると聞く。時に「#どこでもアサデス」がトレンド1位になることもあり、利用が徐々に増えているようだ。「どこでもアサデス」を「朝の新習慣」にすることを目標に掲げ頑張っている。

遅れていた「放送通信融合」を今こそ実現すべき

テレビ神奈川のTVerでの「祭」を皮切りにローカル局の配信での奮闘を紹介したが、いずれも著作権処理が大きな負担になっていることが伝わったと思う。そして、その背景には「放送と通信の融合」が欧米では2000年代後半に確立されたのに対し、日本ではいまだにできていないせいであることも知ってほしい。

アメリカでは本記事で紹介したようなことはローカル局も前々から行っており、テレビ局が得る広告収入は配信の分も合わせるとむしろ上昇に向かっている。2000年代に欧米に遅れたツケが、今になって大きく回ってきたのだ。アジア各国でも放送と通信の区別はなくなっており、日本だけが大きく遅れている。メディア制度では、日本は後進国と言っていい。

ローカル局のためにも、「放送と通信の融合」を今こそ果たすべき時が来ている。それはまた、ローカル局の各エリアの人々のためにもなる。配信も活用してローカル局が生き残れないと、そのエリアは「メディア砂漠」になってしまうのだから。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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