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日本コンテンツが世界市場に出るキーワード「ローカルANDグローバル」

境治コピーライター/メディアコンサルタント
長谷川朋子氏「NETFLIX戦略と流儀」(撮影:筆者)

韓国に大きく差をつけられた日本コンテンツ

アメリカのアカデミー賞で日本の映画「ドライブ・マイ・カー」が4部門でノミネートされ話題になっている。中でも作品賞のノミネートは日本映画として初めてだ。

2年前に韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が作品賞を含む4部門でアカデミー賞を受賞したのは記憶に新しい。同じように「ドライブ・マイ・カー」が受賞することを映画ファンとして期待する。

だが一方で2年前の韓国作品の受賞と、今回の日本映画のノミネートは同じようには受け止めにくい。前者は韓国作品群全体の世界での評価を背景に感じたのに対し、「ドライブ・マイ・カー」はあくまで単品としての評価だからだ。濱口竜介監督は評価されているが必ずしも日本のコンテンツ全体が注目されているわけではない。

韓国作品と言えば最近はNETFLIXでの「イカゲーム」「地獄が呼んでいる」の世界的ヒットが話題になった。それに続き「今、私たちの学校で」という高校生が主役のゾンビドラマが現在やはり世界でヒットしている。韓国は映画にしろドラマにしろ、今や世界市場でのヒットメイカーなのだ。

日本の映画やドラマも、私たち日本人としては負けないぐらい面白いと思うのだが、世界市場ではもはや太刀打ちできないほど韓国作品が勝っている。それはなぜだろうか。

「ローカルANDグローバル」の考え方

放送ジャーナリスト長谷川朋子氏はYahoo!ニュースでもコンスタントに記事を配信しており、日本コンテンツの世界への発信を取材している。長谷川氏の新著「NETFLIX戦略と流儀」はNETFLIX研究の最新書だが、読んでいるとコンテンツの海外展開に関する普遍的至言がいくつも出てくる。

中でも筆者が注目したのが「ローカルANDグローバル」の考え方だ。これまでの日本の海外展開はほとんど「ローカルAND THENグローバル」だったと言っていい。つまり、日本でヒットさせられたら海外展開も考える、というもの。この考え方では国内でのヒットを最優先させる。国内と海外市場では評価ポイントがかなり違うので、国内の評価だけでコンテンツを作ると海外では評価されにくくなってしまう。本当に海外展開を重視するなら、最初の段階から海外市場"も"視野に入れて製作するべき。それが「ローカルANDグローバル」の考え方だ。国内でヒットしてから海外を考える「AND THEN」では遅すぎるということだ。(長谷川氏が登壇するこの考え方をテーマにしたウェビナーを筆者主催で16日に開催する)

韓国コンテンツが世界で戦えていることと、日本コンテンツが世界で今ひとつ売れないことが、ここから説明できる。

韓国の人口は約5000万人と日本の半分以下。国内市場がかなり小さい。そのため、国内だけを目当てに映画やドラマを製作しても収益性に限界があるのだ。だから韓国では国を挙げて海外市場を目指してきた。政府がそれを促す政策を打ち出し、業界でも必死の努力を積み重ねてきた。

長年の努力の成果が「パラサイト」のアカデミー賞受賞や「イカゲーム」などの世界的ヒット、音楽でのBTSの一大ムーブメントに結実している。日本は韓国に大きな差をつけられ、ちょっとやそっとじゃ叶わないほどになってしまった。なにしろ日本の若者が韓国文化を大好きになっている。国内市場さえ韓国に奪われかねない。筆者もいつの間にか映画やドラマで韓国のものに惹かれて見ることが増えている。

日本は遅れを取り戻せるか

では日本のコンテンツ産業は世界市場への遅れをもう取り戻せないのだろうか。それは今後の努力次第だと筆者は考える。「ローカルANDグローバル」を言葉として意識しているかは置いといて、すでにこの考え方に近い動きは始まっている。

もっともわかりやすいのが、TBS日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」が放送直後にNETFLIXで配信されたことだ。これまでの常識からすると、外部の配信サービスには番組を出さなかった。放送直後に世界で配信するスキームは果敢な挑戦だと言える。

また関西テレビは2017年4月に「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」をカンヌの国際見本市MIPTVでプレミア公開したのを皮切りに、ここ数年間世界市場を意識した動きを続けている。

日本のプレイヤーも「ローカルANDグローバル」と言える動きを少しずつ始めているのだ。一部のローカル局ももはやキー局に頼ってだけではダメだと、海外と直接つながるための模索をし始めている。

どれだけ遅れを取り戻せるかというより、生き残りのためには遅れを取り戻さないわけにはいかないということだ。

日本のコンテンツ力の高さは誰しも認めるところだと思う。だがこれまでは力があるからこそハイコンテキスト化し、わかる人にしかわからないディープな方向に向かいがちだった。今後はその力を、言語や文化を超えて理解される方向に振るうべきだと思う。そうすることで、一気に遅れを挽回する可能性は十分にある。

「ローカルANDグローバル」は日本のコンテンツ市場の突破口となる考え方だと筆者は考えている。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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