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NHK紅白、史上最低視聴率の中身を解剖する

境治コピーライター/メディアコンサルタント
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

昨年末のNHK「紅白歌合戦」が史上最低の世帯視聴率だったことが年明けに話題になった。だが筆者はいつも「世帯視聴率ほぼイコール高齢者視聴率」と受け止めている。高齢化が進んで人数が圧倒的に多いから世帯視聴率は高齢層の数字に強く影響される。世帯視聴率が史上最低だから紅白がオワコンだとか、歌手選考のここがまずかったとか言っても、どれほど意味があるのか疑問だった。

そこでインテージ社に依頼して、一昨年と昨年のテレビ視聴のデータを性年齢別で出してもらった。かなり手のかかることをお願いしたのでこのタイミングになってしまったが、その分、世帯視聴率の内訳を解明できそうだ。ただし、視聴率はビデオリサーチ社が独自の調査対象を元に算出するものであり、インテージ社はまったく別の調査対象を計測している。以下のデータがそのまま「視聴率」と直結するわけではないことに注意してほしい。区別する意味で、インテージのデータについては「視聴率」ではなく「接触率」の言葉を使うことにする。

まず上の画像は性年齢別の接触率全体をグラフ化したもの。グレーがNHKで紅白の接触率が下がっていることがわかる。黄色のNTV(日本テレビ)もかなり下がった。「ガキ使」がなくなった影響だ。

これを60代女性に絞ってみると、こうなる。

グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

NHKが全体データよりはっきり差がついている。60代女性の「紅白歌合戦」の視聴は明らかに減少した。またオレンジのEX(テレビ朝日)が2020年よりぐんと伸びているのもわかる。「ザワつく!大晦日」がこの層によく見られたということだ。意外に2020年も「ガキ使」がこの層にはさほど見られてなかったのも面白い。

60代は男性もこれに近く、NHKが数字を落とし、テレビ朝日がよく見られていた。

次に50代女性を見てみよう。

グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

ここでもNHK紅白は下がっているものの、60代ほどではないのがわかる。そして2020年では日テレ「ガキ使」がかなり見られていた。2021年にテレ朝「ザワつく!大晦日」が伸びているものの60代ほどではない。23時台後半で急に青のCX(フジテレビ)が浮上するのは「ジャニーズカウントダウン」に一斉にチャンネルを変えるせいだ。

(接触率の目盛が60代では40%までだったのが50代では35%に変わっていることに留意されたい)

ちなみに50代男性になるとNHK紅白の差がほとんどなくなる。

40代は50代と非常に傾向が似ているのでここは飛ばして30代に進もう。女性男性を続けて見てもらう。

グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

まず30代女性を見ると、NHK紅白が下がったのか曖昧だ。ならすとむしろ上がっているように思える。30代男性は明らかに下がっている。

また男女ともに日テレ「ガキ使」をよく見ていたのがわかる。2020年は「ガキ使」と「紅白」で視聴が激しく波打っているのに対し、2021年大晦日は、「ガキ使」がなくなりテレビ視聴全体が穏やかだ。2020年はNHKが上がると日テレが下がっており、両者の間で頻繁にチャンネルを変えていた様子が目に浮かぶ。

(接触率の目盛は25%に下がっている)

20代も男女を続けて見てもらいたい。

グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域
グラフ:インテージ社 i-SSPより 2020年・2021年12月31日関東広域

驚くべきことに、20代女性では2021年の方が2020年よりNHKの数字がはっきりと上がっている。23時台の「ジャニーズカウントダウン」と同じくらいの高さだ。一方20代男性では紅白が下がってしまった。「ガキ使」とともにテレビ視聴全体が盛り下がったように見える。

(接触率の目盛は18%に下がっている)

こうして「史上最低視聴率」を解剖してみると、いくつかのことが見えてくる。

まず、紅白の世帯視聴率を押し下げたのは高齢層であり、若い層ほどさほど減少していない上に、20代女性では明確に上がっている。NHKのここ数年の紅白の狙いが、若者層の取り込みにあるとしたら、十分効果があったと言えるだろう。

また「ガキ使」休止がテレビ視聴を全体的に盛り下げてしまったことが見て取れる。特に男性には強く影響したと言えそうだ。

「ガキ使」休止の影響を確認するために、インテージ社にはもうひとつデータをもらった。2020年に「ガキ使」を見た層(放送時間の1/3以上視聴した層)が2021年にテレビ受像機で何を見たのか、18時から25時までをグラフ化してもらったのだ。

インテージ社 Media Gauge TVより
インテージ社 Media Gauge TVより

まずコロナ禍で配信サービスの利用が格段に増えたのだが、前に「ガキ使」を見ていた層の一部はテレビ上のアプリや外部入力機器を通じてYouTubeやNetflixに流れたようだ。また2割以上がテレビ受像機そのものから離れた。コロナ禍に慣れて外出したのかもしれないし、スマホに夢中でテレビが必要なかったのかもしれない。

「ガキ使」が復活したら戻るのかはともかく、大晦日にテレビをリアルタイムで見る行為に、これまでこの番組が果たしてきた役割は想像以上に大きかったと言えるだろう。

さてこうしてデータを見てもらうと、世帯視聴率だけで番組を評価することにどれだけ意味があるのか、わからなくなると思う。若い女性にとっては価値ある番組だったのだろうし、高齢層からするとつまらなくなったのかもしれない。テレビは人によって見方がまったく違ってきた。性年齢だけでなく、様々なクラスターによって見る番組が全然違うのだ。

今はテレビにまつわるデータも多様になってきた。世帯視聴率は、そんなたくさんあるデータの一つでしかない。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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