テレビとネットの文化が錯綜しはじめた

出典)インテージ Media Gauge TVデータ

コロナ禍がテレビでの配信視聴を普及させた

新型コロナは私たちの生活を大きく変えたが、メディアの分野でも激しい変化が起こった。上のグラフはインテージ社が作成したもので、テレビ受像機での地上波放送(グレー)とアプリ(オレンジ)の起動率の前年比の2020年1年間の推移だ。(参考にHDMIをブルーで示している)地上波テレビは4月の緊急事態宣言で前年より視聴が増えた。だがそれは一時的で、以降は100%を切っている。一方アプリは前年よりかなり起動が増える傾向だった。テレビのアプリには様々な種類があるが使われるのは主に動画配信サービスだ。YouTubeのような無料のものとNetflixに代表される有料のものが混在しており、ほぼ動画を楽しむものだと考えていい。

これも4月の緊急事態宣言で急激に前年より起動されるようになったが、その後も前年比増が続き120%以上をキープしている。多くの人が、それまであまり使わなかったYouTubeやNetflixをテレビで使ってみて、頻繁に使うようになったのだ。コロナ禍により、配信という新しいエンタメ経路が、先進的な人だけでなく一般の人に定着したと言っていい。

起動率が上がったのはわかったが、実際にどれくらいの時間視聴していたのか。これもインテージ社のデータを見てみよう。

出典)インテージ Media Gauge TVデータ
出典)インテージ Media Gauge TVデータ

オレンジが地上波テレビのライブでの視聴時間、ブルーがアプリつまり映像配信の試聴時間だ。パッと見ると平坦にしか見えないと思うが、よくよく見ると地上波テレビが4月にバッと上がったのがじわじわ下がり、アプリがじわじわ粘って伸びているのがわかる。

計算してみると、2020年1月は「テレビ:アプリ≒5:1」だったのが12月には「テレビ:アプリ≒4:1」に迫った。動画配信全体を合わせてキー局ひとつ分くらいの存在感になっていると言えるだろう。あくまでテレビ受像機での話で、YouTubeやNetflixはもともとはスマホで視聴しているのだから、映像配信の試聴が全体としてかなり生活に浸透したと思っていい。

テレビ試聴者の高齢化が長期的に続いている

若者のテレビ離れは進んだと言われるが、高齢層はどうなのか。これもインテージのデータで見てみよう。2013年と2021年で平日のテレビ接触がどう変わったか、まず20代のグラフがこれだ。

出典)インテージ i-SSP テレビ2013年、2021年データ(20−29才・平日)
出典)インテージ i-SSP テレビ2013年、2021年データ(20−29才・平日)

青い線の2013年も低かったが、オレンジの2021年ではさらに下がっている。若者のテレビ離れは続いてきた。今度は60代の平日のテレビ接触率グラフを見てみよう。

出典)インテージ i-SSP テレビ2013年、2021年データ(60才以上・平日)
出典)インテージ i-SSP テレビ2013年、2021年データ(60才以上・平日)

ゴールデンタイムの接触率が35%あたりで2013年と2021年でほとんど変化がない。20代が15%から10%程度に下がったのに対し、あまりにも変わっていないことに驚く。ちなみに30代〜50代までは世代に応じて少しずつ下がっているので60代以上だけ変化がないことになる。

若者のテレビ離れというより、テレビの高齢化といったほうがいいのだろう。放送という形態が若者たちのライフスタイルに合わなくなっているのと、世帯視聴率を指標にやってきて圧倒的に多い高齢世帯に番組を合わせてきたことによるだろう。

これは長期的傾向だが、さっきのコロナ禍による配信シフトと併せて考えると、高齢者がずっとテレビ放送を視聴し続けている一方で、若者ほど配信を視聴するようになり、最近はテレビ受像機でもYouTubeやNetflixを楽しんでいると思われる。

ただし最近は高齢層の中にもYouTubeを楽しむ人が増えつつあるとのデータも出ている。テレビ視聴の時間は減らさず、貪欲に配信でも動画を視聴しはじめているようだ。

テレビとネットの垣根はもう崩れている

テレビからネットへ時代が動いている。ネットで活躍していた人々が主役に躍り出はじめたと言える。実際、子どもたちの憧れはYouTuberたちで必ずしもテレビで活躍するタレントや役者ではない。

一方で、テレビタレントのYouTuber化も一昨年あたりから顕著になってきた。またYouTuberたちがテレビ番組に出演するのも当たり前になりつつある。つまり、メディアとしてのテレビは強さを失いつつあるが、人材は交錯しはじめているのだ。

典型的なのが、「電波少年W」。説明するまでもない90年代のヒット番組「電波少年」が元の日本テレビではなくWOWOWで復活した企画だが、YouTubeでの配信も織り交ぜている。WOWOWで放送する回とYouTubeで配信する回があり、直近の3月8日はYouTube配信の回で、あの独特の合成画面をライブ配信し、ドロンズの大島直也氏をゲストに迎え懐かしいシーンを振り返ってトークしていた。

そして後半ではなんと、人気YouTuberコンビ・パパラピーズがゲスト出演。テレビ番組がネットでライブ配信されテレビの芸人とYouTuberが共演するという混沌とした映像を見せてくれた。

先日、テレビ東京の人気プロデューサー・佐久間宣行氏が3月で退社すると報じられた。

テレ東・佐久間P、3月末の退社予定をラジオ生報告

佐久間氏だけでなくテレビ局の実績ある制作者が辞める例はここ数年、少しずつ出てきている。辞めた後もテレビ番組に関わる一方で、様々な分野の新しい仕事に携わっているようだ。YouTubeもそのひとつだが、それに限らずいまは多様な動画サービスが存在し、テレビ制作者の活躍の場は広がっているのだ。

前にもここで書いたが、昨年読売テレビを退社した平山勝雄氏も、野球専門のYouTubeチャンネル「トクサンTV」を運営している。

退社後に始めたマンガチャンネル「ヒューマンバグ大学」はあっという間に登録者数100万を達成している。

またテレビ朝日在籍中にAbemaTVの立ち上げに関わり、その後やはり独立した鎮目博道氏は退社後も同局の番組「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」を制作していた。

画像はAbemaTV内「Wの悲喜劇」ページより
画像はAbemaTV内「Wの悲喜劇」ページより

またライターとしても活躍中でYahoo!ニュース個人のオーサーでもある。

このように、もはや優れたクリエイターにとってジャンルの垣根はなくなっている。いまテレビ出身者が目立っているのは、これまであまり会社を辞めなかったからだろう。これからは、YouTubeの作り手として育った才能が大作映画を撮るかもしれないし、テレビ番組を作ってきた人材が雑誌を出版するのかもしれない。テレビが力を失って起こりつつあるのは、そんなメディアの垣根を超えた縦横無尽で豊かなコンテンツワールドなのだ。

これからの作り手は、こうしたメディアのカオス状況を面白がり、貪欲に目の前の面白いことに飛びつく自由な精神を持つべきなのだと思う。

〜平山氏鎮目氏が登壇する動画制作についてのウェビナーはこちら〜