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福岡がひとつになれば、コロナにはまけない〜在福民放5局共同キャンペーン始まる〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
画像提供:FBS福岡放送

福岡のライバル局がひとつになってキャンペーンを開始

4月10日夕方から、福岡県の地上波民放テレビ局5局が共同で新型コロナウイルス対策のキャンペーンCMを展開する。各局の看板番組を担当するアナウンサーが一緒に出演し、タッグを組む形でコロナ感染拡大防止を訴えるのだ。コロナの拡散を止めるには、私たち全員が力を合わせ、ひとつになって対策となる行動をすることが必要だ。ふだんはライバルである5つのテレビ局がひとつになってメッセージすることで、一緒に対策しようとの強い呼びかけになっている。

共同キャンペーンに集まったのは、以下の5人のアナウンサーたち。

KBC九州朝日放送 宮本啓丞アナウンサー

RKB毎日放送    田畑竜介アナウンサー

FBS福岡放送    松井礼明アナウンサー

TVQ九州放送    立花麻理アナウンサー

TNCテレビ西日本 山口喜久一郎アナウンサー

福岡に住む人ならおそらく誰もが知る5人が一緒にメッセージし、コロナ対策の大切さを訴えている。

60秒バージョンがネットで視聴できるので、まずは最後まで見てもらいたい。

本日4月10日の夕方から以下の予定で放送開始される。

テレQ 午後6時24分~

RKB 午後6時59分ごろ~

KBC、FBS、TNC 午後6時59分45秒~ 

上で紹介した「まけない」篇とは別に「ウォッシュハンズ」篇もある。

松井アナの発案に5局が2日でまとまった

このキャンペーンの情報は、事前に5局のうちの一つ、FBS福岡放送から教えてもらった。筆者は東京に住んで長いが、福岡出身で今も実家に母と姉夫婦が住んでいる。福岡のテレビ局の方々とは様々に交流しており、昨年はFBSの開局50周年ドラマについての記事を書いた。

ドラマ『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』はすべての地方出身者にエールをくれる(2019年7月12日)

今回連絡をくれたのもこのドラマについて取材した、編成局編成部の香月浩一氏だった。彼を通じ、共同キャンペーンの発案者の一人で出演もしているアナウンサー松井礼明氏にリモート取材をお願いした。

Zoom取材中の松井アナ。バーチャル背景で局舎をバックに喋ってくれた
Zoom取材中の松井アナ。バーチャル背景で局舎をバックに喋ってくれた

松井氏が5局共同で何かやるべきでは、と思いついたのは先週の水曜日(4月1日)だったという。緊急事態宣言が近いと聞き、危機感を強めたからだ。

「キー局がオリンピックに向けて同じ放送をやったことがありました。あれに似たことを福岡の局でできないかと考えたのです。」

1月24日に民放キー局のアナウンサーが勢ぞろいし、桑田佳祐も出演してオリンピックを盛り上げるために同じ番組を同時に放送したことがあった。それをイメージしたのだ。

各局の看板番組にメインキャスターとして出演するアナウンサーたちは、実は日頃から連絡を取り合い食事を共にすることも多いそうだ。だから一緒にやろうと声をかければ即応じてくれる確信はあった。

そこで夕方6時台に15分程度、5局のアナウンサーが一堂に会し、一斉に同じ番組を放送して視聴者にコロナ拡散防止を呼びかける企画を考え、すぐに編成の香月氏に相談した。だが番組の中身を統一するのは、調整にかなり時間がかかりそうだとわかる。この呼びかけには時間に猶予がない。調整に何週間もかかるなら別のやり方を考えるしかないと判断した。

そこで新たに考えたのが、共同キャンペーンCMだ。それなら、各局の番宣枠などを利用すれば実施しやすい。香月氏はあらためて社内での調整に動き、水曜日中にはOKとなった。松井氏も並行して各局アナウンサーたちに打診したところ、すぐ「やりたい!」と応じてくれた。

翌木曜日には各局の社内でも調整に動いてくれ、これもその日のうちに全局OKになった。福岡のためならぜひ実現しよう!どの局の発案かなんて関係ない!そう各局とも考えたからに違いない。

金曜日には番組の前後の時間を使って各アナウンサーがコメントを撮影し、送ってくれた。この日のうちにCMが完成!驚くほどスピーディな流れだ。2日で話がまとまり、3日目には映像ができあがった。コロナに立ち向かう際、このスピード感は重要だと思う。

コロナに打ち克つには、ひとつになること

「みんなが同じ危機感を持つことが、コロナ対策には絶対必要だと考えました。」と松井氏は言う。そのコンセプトには関わるみんなが共感し、CMができあがった。発信しているのは、「コロナはもうひとごとじゃない。そう考えて大切な人たちに自分がうつしてしまわない行動を」というメッセージ。そして、その気持ちで「ONE TEAM」になることを訴えている。5局が揃ってメッセージすることで「ONE TEAM」の説得力が高まる。「まけない」と5人が続けて口にするラストは、見る人の心を強く突き動かす。私はここで、目が潤んだ。

5人のアナウンサーの語りの力だけで「行動変容」を促す力を持つ映像になった。テレビ局が力を合わせた効果をそこに感じる。

そうだ、コロナはもうひとごとじゃない。私たちがひとつになれば、きっとコロナを克服することができるだろう。福岡の人はひときわ郷土愛が強く、よそから来た人に「福岡よかろ?」「いいとこやろ?」とクドいくらい言う。

そんな福岡なら、必ずひとつになれると思う。大好きな町のために、福岡の人は頑張れるに違いない。

悲しいことに、この国はコロナに対してひとつになれていない。緊急事態宣言を出したのに休業要請はしばらく様子を見ると言ったり、国と自治体の方針が食い違って話が二転三転している。政治家たちがそんな状態では、私たちはひとつになれない。

だからこそぜひ福岡でのこの取り組みに注目してもらえればと思う。そして各地域でそれぞれの対策をひとつになって取り組んでいくといい。国が頼りにならないなら、地方から模範を示そう。今は、国の方が地方を見習う時かもしれない。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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