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『翔んで埼玉』の高視聴率は埼玉県民がもたらした?

境治コピーライター/メディアコンサルタント
インテージ社 MediaGaugeTV 生成の『翔んで埼玉』放送時ヒートマップ

『翔んで埼玉』の高視聴率は関東一円か埼玉県か?

2月8日夜、映画『翔んで埼玉』がフジテレビで放送され、関東では16.7%の高視聴率を記録したと報じられた。関西では10.9%だったそうなので、埼玉をディスる映画が関東在住者を大いに沸かせたことがわかる。

だがその内訳はどうなのだろう?埼玉県民が特に多く見たのか?あるいは埼玉県をディスる都民や関東全体の人びとが一様に見たのか?

テレビ視聴データは今、ビデオリサーチ以外にもいくつかの企業が独自に調査している。例えばインテージ社は「Media Gauge TV」の名称で視聴データを算出。複数のテレビメーカーからデータを取得して共通化できるよう整え、「日本全国約150万台のスマートテレビと約68万台の録画機を対象としたテレビ視聴計測サービス」を標榜している。ネットに結線されたテレビから直接データを集めるので、テレビ視聴の「実数データ」が集約される。(ただし日本の世帯分布をそのまま表したとは言えないことに留意してもらいたい)

関東地区では58万台のテレビ受像機が対象なので、莫大な数のデータが背景になっているのは間違いない。

さらに郵便番号からテレビが置かれたエリアはわかる。市区町村別のテレビ視聴が把握できるのだ。その「Media Gauge TV」から2月8日の『翔んで埼玉』放送時の視聴の様子を市区町村別で表現したのが上の図だ。接触率(視聴率と区別してこう呼ぶ)が高いほど色が濃く表現されている。地図が埼玉県の形で赤くなっているのがひと目でわかるだろう。『翔んで埼玉』は、関東全体でよく見られた中でも特に埼玉県で多く、と言うより熱く見られたことがはっきりわかる。これはヒートマップをクローズアップするとより鮮明になる。埼玉県の市町村名が載った地図と比べて見てもらいたい。

インテージ社MediaGaugeTV生成のヒートマップ
インテージ社MediaGaugeTV生成のヒートマップ
素材Library.comより
素材Library.comより

きれいに「埼玉県の形」でヒートマップが濃くなっているのが明確だ。ビデオリサーチのデータとMediaGaugeTVはまったく別の調査パネルなので断定はできないが、『翔んで埼玉』の高視聴率は埼玉県民がもたらしたと、状況証拠的には言っていいと思う。

ちなみに前の週の同時間のフジテレビの番組「土曜プレミアム・内村カレン!香取慎吾Matt菅野美穂が今一番会いたい人とご対面」の放送時のヒートマップも示しておこう。

インテージ社MediaGaugeTV生成のヒートマップ
インテージ社MediaGaugeTV生成のヒートマップ

このように、関東一円で広く視聴されているものの、埼玉県に限らず特にヒートアップした地域はない。『翔んで埼玉』で埼玉県だけ熱くなったのがいかに珍しい現象かがわかるだろう。

さらにヒートマップに映画に出てきた地名を入れてみると、やはり登場した市では接触率が高い。

MediaGaugeTV生成のヒートマップに筆者が地名を記入
MediaGaugeTV生成のヒートマップに筆者が地名を記入

さいたま市は基本的に接触率が高いが、現代パートの菅原一家が住む熊谷市、埼玉解放戦線の拠点となった春日部市なども高い。主人公・麗の出身地、所沢市がさほど赤くないのが気になる。

秩父市とその近隣の小鹿野町が随分赤いが映画の中でそれほど登場しただろうか?と不思議に思って調べると、映画館がない秩父市が東映の協力を得て特別上映会を開催していた。その興奮がテレビ放送で再び加熱したのかもしれない。

このようにテレビ視聴は今、様々な企業が独自の調査を行なっている。多様なデータを見ることで、テレビの評価が一律ではないことを皆さんに知ってもらいたい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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