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台風情報をテレビはどれくらい伝えたか?

境治コピーライター/メディアコンサルタント
NHK WEBサイトの番組表を元に筆者作成

通常編成を飛ばして台風を伝え続けたNHK

甚大な被害を及ぼした台風19号は、日本に近づくにつれ過去に例がないほどの規模だと伝えられていた。12日(土)は鉄道も止まり、関東に住む人は家に閉じこもって身構えていたと思う。閉じこもると、テレビとネットを情報源に台風に備えることになる。ではテレビは台風をどれくらい伝えたのだろうか。

NHKがどんな放送をしたのかは、WEBサイトで確認できる。過去の放送を番組表の形で残しているのだ。

→NHK「過去の番組表」10月12日のページ

その内容を見やすくまとめたのが冒頭の図だ。一目でわかる通り、基本的に通常の編成を飛ばして一日中台風情報を放送していた。「ニュース『台風19号』関連」と表示された部分がそれだ。

面白いのが、午前8時からは朝ドラ「スカーレット」をちゃんと放送していたことだ。続いて「チコちゃんに叱られる」もいつも通り放送した。その次の「週刊丸わかりニュース」はその週のまとめ的番組だが、ほぼ台風情報。そのあとは通常の編成ではなく、台風情報を放送。12時45分にはちゃんと朝ドラ再放送をして、そのあとは延々丸一日台風情報だった。

12日の不安な夜を、NHKの放送を頼りに過ごした方は多いだろう。やはり緊急時には公共放送NHKが欠かせない存在。「NHKをぶっ壊す」などと言ってられない日だった。

NHKは翌日も夕方まで台風情報を放送した。

NHK WEBサイトの番組表を元に筆者作成
NHK WEBサイトの番組表を元に筆者作成

朝からずっと台風情報を放送。途中午前9時に「日曜討論」になったが、これも台風に関する議論。そのあとまたお昼まで台風情報だった。日曜日になって長野県や福島県、宮城県など関東以外で大きな被害が出ていたことがわかってきた。これを各地から記者が伝えた。

12時30分になぜか「のど自慢」が15分遅れで放送されたのが不思議だった。また14時15分からは大河ドラマ「いだてん」の再放送があった。15時25分からはCSファイナルステージの巨人阪神戦を放送。18時にはまた台風情報に戻った。19時から「ニュース7」で他のニュースも交えつつ台風情報。19時30分からの「ダーウィンが来た」も飛ばしたが20時からは「いだてん」を放送した。以降は、通常編成に戻っている。

まとめると、NHKは12日6時から13日20時まで基本的に台風情報を放送した。途中、朝ドラと「のど自慢」、「いだてん」と野球中継は挟んでいた、ということになる。

また、NHKはネットでも放送と同じ内容を同時配信していた。12日(土)9:30~13日(日)20:00、いったん終えて、14日(月)も5:00~21:40まで続けたそうだ。

また同時配信以外にもNHKオンラインで河川情報などを随時更新して伝えていた。台風情報を伝える際、テレビはネットをなぜ使わないのかという記事を目にしたが、少なくともNHKはネットでも情報発信していた。ネットの方でも台風情報を得て助かったという人は多かったのではないだろうか。

民放は局により温度差。公共的役割を果たせたか?

では民放は台風をどう伝えたか。NHKのように放送後に番組表を公開していないので普通は確認できない。そこで、テレビ放送の内容をすべてメタデータとして記録しているエム・データ社に依頼し、簡易に確認できる情報をもらった。そこから筆者が作成したのがこの図だ。

エム・データ社の情報を元に筆者作成
エム・データ社の情報を元に筆者作成

通常通りの編成と思われる部分はグレーで表示。100%台風情報を伝えるためのニュース番組や特番を赤く表示している。その他、土曜日は朝の時間にニュース番組や情報番組があるので、台風情報を多く扱ったと思える番組はオレンジで表示した。また通常の番組だが、途中で報道スタジオから一度でも台風情報を伝えた番組は黄色く表示した。

こうして見ると、局により大きく温度差があるのがわかる。

テレビ朝日とTBSは夕方から夜にかけてかなり時間を割いていた。両方とも夕方に通常編成を飛ばして報道特番を組み、もともとあった夕方の報道番組と合わせて3〜4時間台風情報を伝えた。NHKと並行して見て頼りにした視聴者も多いだろう。筆者は大田区に住んでいるが、民放記者が多摩川の様子を伝えてくれたのが参考になった。

2局ともゴールデンタイムになると通常編成に戻ったが、テレビ朝日は21時からの「スポーツ王」をニュース番組を変更し、23時30分まで台風について伝えた。TBSも22時からの「新・情報7days」で他のニュースも交えつつ、台風の状況を伝えてくれた。

日本テレビは17時からの「news every」で台風情報を放送。17時30分からの2つのアニメ枠なども報道に変更し、20時まで「志村どうぶつ園」も飛ばして台風を伝えた。ただ20時以降はまったく通常編成に戻っている。

フジテレビも15時30分から報道特番を放送。そのあとの通常ニュース枠と合わせて2時間半、台風情報を伝えた。夜も「RIZIN」の途中、20時35分から21時まで台風について放送した。

(フジテレビの放送について当初、特番放送はなかったと誤った書き方をしてしまっていました。関係者の皆様にお詫びします)

そして「安定のテレビ東京」はこの時も揺るがず通常編成。出川哲朗の「充電させてもらえませんか?」は我が家で愛されている番組だが、この日も18時30分から21時まで放送された。NHKと激しくザッピングしながら、私たち家族の心を安定させてくれた。通常通りの番組にも効用はあるのだ。

ただ、総じて「これでよかったの?」との疑問は残る。民放キー局は同時に関東ローカル局でもある。史上稀に見る規模の台風に、ゴールデンタイムは通常編成を守ってよかったのだろうか?通常通りの効用も認めつつも、どこかNHKにかなわないと任せていたようにも思える。民放だって公共性は発揮すべきだとすれば、もう少しがんばってしかるべきだったのではないかと私は感じた。

13日はリレーを組むように被害を伝えた民放

12日は物足りなさを感じた一方で、13日の放送を確認すると、面白いことに気づく。

エム・データ社の情報を元に筆者作成
エム・データ社の情報を元に筆者作成

まず、午前6時からTBSが予想外に拡大していた被害の様子を伝える特番を放送した。7時30分からはフジテレビが「日曜報道THE PARIME」で被害を伝えた。10時からはテレビ朝日が報道特番を放送。まるでリレーのように被害の様子が各局で伝えられ、各地の様子が徐々にわかってきた。

12時にはなんと、テレビ東京が緊急報道として特番で台風被害を伝えた。2日目にしてこのリレーに加わった形だ。「安定のテレ東」のイメージを覆した。

同じ12時から、フジテレビが報道特番を組んだ。この時の取り組みは興味深かった。地上波放送と同じ内容をネット上でも「FNNオンライン」で同時配信していたのだ。さらにBSでもサイマル放送を実施。地上波とBSとネットで同じ内容が見られた。

放送の内容も、被害にあった各地のローカル局のスタジオからの中継を繋いでいく形だった。ネットも使ってローカル局が連携して伝えることで、この台風の被害がいかに大きかったかが理解できた。

さらに14時からはTBSが再び特番で放送。1時間の間を置いてテレビ朝日の「サンデーステーション」で台風被害を伝えた。

今回の台風被害はいまだに100%全貌が見えていない。13日の段階では、少しずつ痛ましい被害が見えてきたのが、各局のリレーのような形で把握することができた。

そんな中、日本テレビは18時からの「バンキシャ!」でリレーに参加した形にはなっているが、そもそもこの日は台風情報を伝えることにやる気がなかったように見える。ラグビーW杯で頭がいっぱいだったのではないか。歴史に残る瞬間をたっぷり放送するミッションがあったわけだし、あの日本の勝利で勇気を得た人も多かったことを思うといたしかたないのかもしれない。

日本テレビだけを批判するつもりもないが、全体的に振り返って、民放の台風報道は不十分に思える。そしてNHKの圧倒的な姿勢と報道の量は十二分なものがあったと思う。

ケーブルテレビの重要性が高まっている?

そして今回ほど、ケーブルテレビの重要性が感じられたこともなかったのではないだろうか。筆者は東急グループが運営するiTSCOMというケーブルテレビに加入している。コミュニティチャンネルというオリジナル放送をやっているが、正直言ってふだんは滅多に見ない。

ところが12日はNHKと並行してiTSCOMの放送を何度も見ていた。多摩川沿いにいくつか設置された定点カメラの映像をそのまま流していたのだ。

iTSCOMコミュニティチャンネルの画面
iTSCOMコミュニティチャンネルの画面

何のナレーションもなく、定点映像を十数秒ずつ順番に切り替えているだけで、神奈川県も放送エリアのため鶴見川と多摩川と両方の様子を放送していた。これが大いに役に立った。多摩川の水量が徐々に増して橋のすぐ下に迫っている様子がリアルタイムで把握できた。

惜しむらくは、音楽が妙に軽快なインスト曲で、事態の深刻さとずいぶん外れていたことだ。まあ、怖い音楽よりずっといいが。

ケーブルテレビのエリアは地上波テレビよりずっと小さく、その分小回りの効いた放送をすることができる。今回のような災害ではできるだけ自分にとって身近な情報が必要になることを思うと、ケーブルテレビは各地で有効だったのではないだろうか。

テレビ離れが言われて久しいが、災害時にテレビはやはり役に立つと感じた人は多いだろう。だからこそ、それぞれのテレビ局がどう役割を果たすかが問われると思う。視聴者としても、積極的に要望を出していっていいと思う。各局とも、そんな声にぜひ耳を傾けてもらいたい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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