「今日から俺は!!」が大学生に見られている。テレビ離れはコンテンツ次第かもしれない。

産業能率大学経営学部・小々馬ゼミが作成したグラフを筆者がリバイズ

テレビを見ない大学生がなぜか見ている「今日から俺は!!」

ここ数年、イベントや出張講義で大学生と話す機会があるとテレビや動画を見ているか聞いていた。明らかにテレビを見る大学生は減少。10人程度に聞くと一人くらいは熱心にテレビドラマをいくつも見ている学生はいたが、それ以外は朝しかテレビに接触しないと答える。見ている学生も録画とTVerを器用に使い、リアルタイムで見ている大学生はほぼいないと言ってよかった。

先日の放送業界のイベントで大学生にメディア事情を聞くセッションがあった。産業能率大学経営学部の小々馬敦教授にお願いして、ゼミの学生を集めてもらったのだ。やはりテレビは見ないとの回答がほとんどで、AbemaTVをよく見ると半分以上の学生が答えたのに驚いた。ところがドラマを見ていないかを聞くと、見てないはずのテレビで「今日から俺は!!」を見ていると多くの学生が答えたのにはさらに驚いた。テレビは自分たちのメディアではないようなことを言って来たのに「今日から俺は!!」の話になると急に「あれは見ます」と答える。これまでにない不思議な反応だ。

小々馬教授も興味を持ち、あくまで産業能率大の学生限定だが少し範囲を広げて調査をしてくれた。その結果が上のグラフだ。ネットによる同大学の学生205サンプルに対しての調査なので、決してその結果が全国の大学生に当てはまるわけではない。その前提で結果を見てほしいのだが、36.5%が「今日から俺は!!」を”毎回見ている”と答えた。4割近くの大学生が特定のドラマを毎回見ているなんて、ここ数年私は聞いたことがなかった。

さらに小々馬教授は「どう見ているか」も聞いている。

産業能率大学経営学部・小々馬ゼミ作成のグラフを筆者がリバイズ
産業能率大学経営学部・小々馬ゼミ作成のグラフを筆者がリバイズ

これも意外なことに、「TVで見た」「録画して見た」がいずれも50%を超えている。スマホで見た人は驚くほど少ない。データから断定できないがリアルタイムで見る人もけっこういるのではないか。テレビドラマをテレビらしい見方で見る。「今日から俺は!!」だけで大学生に不思議な現象が起こっているのだ。

そのポイントとして、日曜夜は大学生も在宅率が高いことがありそうだ。「今日から俺は!!」の放送時間である日曜夜10:30に家にいるかを聞いたところ、45.3%が「自宅にいることが多い」と答えている。サークルやバイトに忙しい大学生も、日曜夜は比較的在宅率が高いのだ。

テレビを中高年から若者に解放すべき時

ここから何を読みとるべきか。「今日から俺は!!」のように若者たちが「自分たちのコンテンツ」と思える番組なら、彼らも見る、ということではないだろうか。もちろんこの番組は希代のクリエイター福田雄一氏による炸裂するコメディが、若者に限らず全世代の心を惹きつけている。80年代を舞台にしているのも若者とともに中高年を呼び込む要素かもしれない。最近は小学生も話題にしていると聞く。若者だけに見られているわけではない。

だがいま、テレビ番組があまりにも中高年を向いている。ゴールデンタイムは健康や生活知識を扱うバラエティ番組ばかりだし、それを司会進行するのは40代50代のタレントだ。ドラマでは中年のおっさんがものづくりに情熱を燃やしたり、美人だけど親戚のおばさんくらいの年齢の女優が男性社会をぶった切る。あとは不倫だの企業ドラマだの。

50代の私が若者だった頃のテレビは「同世代」の感覚に満ちあふれていた。同世代の恋愛を描くドラマや同世代のお笑いタレントが無茶をやるバラエティ。若者のために番組が作られ、子どもたちも背伸びして見ていた。どのチャンネルもどの番組も「今日から俺は!!」だったのだ。テレビは我々の解放区だった。

私の父は「月刊文藝春秋」を読んでいた。当時の私には「年寄りのメディア」に見えた。いまはおそらく、私が見ているテレビを私の子どもたちは「年寄りのメディア」と受けとめているのだ。

だがそんな中に「自分たちの解放区」を見出したら、見る。見たいものがあるから見る。見たいものがなければ見ない。「若者のテレビ離れ」の真相はそんなものかもしれない。

中高年を狙う番組の限界が近づいた

それでも中高年の人数が圧倒的に多いのだから、若者にむけても視聴率が取れない。それがテレビ局の“言い分”だったろう。「今日から俺は!!」だって、視聴率が上がって来ているものの決して若者が見るからではない。全世代的に視聴されているからだと思う。若者だけしか見ない番組ではそうはいかないはずだ。

だが、中高年に向いたテレビは視聴率がいいからと収益も上がるのだろうか。いま、そうとは言えなくなってきている様子だ。このグラフを見てほしい。

各キー局2018年度上期決算資料から筆者が作成
各キー局2018年度上期決算資料から筆者が作成

これはキー局の今年度第二四半期決算資料から、私が「放送収入」だけを抜き出して昨年同期との増減をグラフにしたものだ。タイムとスポットとで分けている。タイムとは番組に直接「提供」するCM枠。スポットとは番組の間のCMを時間を指定せず買う枠のことだ。各局ともスポットが大きく前年から減少している。しかもテレビ朝日はスポット収入の減少額が大きい上に、タイム収入も減少している。このところテレビ朝日は日本テレビを猛追してきて、10月の視聴率ではついに1位に躍り出たそうだ。それなのにどういうことか。

これはまだ何も断定できない。10月に1位になったことがこれから影響する可能性はある。だが10月のことは置いといても視聴率が上がっているはずのテレビ朝日が前年より下がっているのは不思議だ。

一説では、スポンサーはいま視聴率が高ければいいとは考えなくなりつつあるという。世帯視聴率が高くても、その中身を気にしているということだ。若い世代をCMのターゲットとする企業からすると、視聴率の中に対象世代が含まれていないと意味がないし割高になってしまう。だから世帯視聴率とともに様々なデータを取り寄せてCM枠の価値を判断する企業が増えているようなのだ。世帯視聴率”だけ”が有効ではなくなりつつある。現に関東圏では世帯ではなく個人全体の視聴率が使われて、タイムシフト視聴もCMの分だけ加算される。リアルタイムの世帯視聴率のみでは広告価値が判断できないのだ。

世帯視聴率だけの記事は読む意味がない

上記はあくまで業界の取引上の話なので視聴者として気にする必要はない。ただ、世帯視聴率だけの基準ではなくなっていることだけは知ってほしい。そして、だとすれば視聴者が世帯視聴率が高いとか低いとかを気にする意味はもうないのだと受けとめていいと思う。自分がその番組を好きなら、10%を切ろうが何だろうが気にせず楽しめばいいのだ。

最近、ネットでのコミュニケーションが盛んになって前よりも視聴率の情報が飛び交うようになった。とくに一部のメディアが「朝ドラ第XX回、視聴率20%に戻す」などと記事にする。読んでみると本当に視聴率だけを伝えておしまいの記事だったりする。

もうそういうのやめにしませんか、と訴えたい。そんな記事、ほとんど意味がないのだ。記事にもなってないそんな情報でPVを稼ぐのはあまりにも小賢しい。だから読者のみなさんはこれから、世帯視聴率だけの記事だなと思ったら無視してほしい。Yahoo!編集部も、視聴率の記事をよく取り上げると思う。あれもやめにしませんか。

テレビは変わろうとしている。私はいい方向へ向かうチャンスが来ていると思う。それを“見る側“としてできることもある。何らかの意思表示をすると伝わる時代だ。見る側の意思が、結局はメディアを変えるのだと私は思う。