Yahoo!ニュース

インスタが日本のお花見文化を変えた?会社の宴会からデートへ〜クックパッド検索データから〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント

レシピ検索で「お花見」が去年よりずっと多い

今年の桜開花は例年より早く、東京はすでにピークを過ぎてしまった。3月中に桜の見頃が終わるのは早すぎる気がする。

さて花見と言えば会社の恒例行事で、若手社員が公園で場所取りをし、ネクタイを頭に捲いたサラリーマンたちが馬鹿騒ぎするイメージがあった。ところが最近、そんなお花見を取り巻く状況が変わりつつあるようだ。

クックパッドはみなさんご存知のユーザー投稿型のレシピサイトで、食材などで検索するとあらゆるレシピを見ることができる。そのクックパッドには当然、レシピにまつわる莫大なデータが日々蓄積される。彼らはそのデータを「たべみる」(http://info.tabemiru.com)というデータサービスで有料で提供している。

そのデータからお花見にまつわる興味深い状況が見えてきたのでここで紹介しよう。

まず今年の「お花見」の検索頻度を昨年と比べたものだ。

出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)
出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)

緑色が昨年、青い線が今年のデータ。今年のものはまだ3月が終わってないので途中のデータになるが、当然去年より時期的に早く盛り上がっている。だがそれより、去年を大きく上回る数値となっているのが興味深い。グラフの「SI値」とは1000回あたりの検索頻度で「SI値=分析ワードの検索回数÷全体の検索回数×1000」で算出される。今年のここまでの最高値「4.2」はかなり高く、年間の「ケーキ」「クッキー」「みそ汁」のSI値とほぼ同数だそうだ。花見に持っていく料理のレシピをいつもより多く、「みそ汁」のような日常的なレシピと同じくらい検索していることになる。

「お花見」と一緒に検索されるワードに「デート」が急浮上

次に「お花見」と一緒に検索されるワードのデータも見てみよう。

出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)
出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)

当然ながら「お弁当」がこの十年間、毎年トップだ。他には「おかず」「デザート」「おつまみ」などが定番になっている。「おにぎり」や「サンドイッチ」も毎年ランクインしており、家族団欒のほのぼのしたお花見風景が目に浮かんでくる。

ただ2016年と2018年に、突然「デート」が登場している。これはいったいどういうことだろう?そこで、もっと下のランキングまで見せてもらうとこうなった。

出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)
出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)

2014年に突如14位に「デート」がランクインし、なぜか2017年だけ下がっているが、全体としてはこの数年上昇している。2014年以降、"「お花見」のレシピを「デート」と一緒に検索した頻度が急増した"ことが言える。

Instagramが日本のお花見文化を変えた可能性

なぜ2014年からお花見レシピの検索に「デート」が登場し、以降急増したのか。クックパッドの広報グループ・徳成祐衣氏は「断言することはできず、あくまで私の感覚から来る予想でしかないのですが」と前置きした上で「Instagramが影響した可能性」を指摘してくれた。

なるほど!確かにその可能性は非常に高いと言えそうだ。Instagramの日本のユーザー数は以下のような推移だという。

2015年6月 810万人

2016年3月 1,200万人

2016年12月 1,600万人

2017年10月 2,000万人

(出典:InstaLab 2017年10月3日記事 https://find-model.jp/insta-lab/instagram-users-enrollment/)

一方、クックパッドでの「お花見」と「デート」の組合せ検索の推移はこんなグラフだ。

出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)
出典:クックパッド株式会社 食の検索データサービス『たべみる』調べ(http://info.tabemiru.com)

2017年に一旦大きく下がった謎は残るが、Instagramのユーザー数の伸びと「お花見×デート」の急浮上は一致している。状況証拠的に言ってInstagramが「お花見デート」を増やしたのではないか。カレシとお花見に行って満開の桜とともに写真を撮ってシェアする。インスタ映えする「お花見デート」は格好のシェアの題材だと言えそうだ。

最近は日本の花見の名所に中国人観光客が爆発的に集まり、「爆花見」と呼ばれるそうだ。その分、場所取りも大変になってきたし、若手社員が朝からシートを広げて先輩たちを待つのも時代に合わなくなっているようだ。

お花見を巡る風景が大きく変わる中、Instagramの効力で「お花見デート」が増えているのならそれも時代の変化の表れだし、悪い傾向ではないと思う。ネクタイを頭に捲いてサラリーマンが馬鹿騒ぎするのは、昭和の遺物なのだろう。それでいいと思うがみなさんどうだろうか。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

境治の最近の記事