Yahoo!ニュース

世帯から個人へ、タイムシフトも反映。2018年、視聴率が変わる!

境治コピーライター/メディアコンサルタント

2018年4月から、新視聴率大系が関東のみで

テレビ番組は視聴率でその価値が判断されることは多くの人が知るところだ。そして視聴率至上主義が批判されることも多く、測定方式について疑問を投げかける人も多かった。

その視聴率の算定基準が2018年4月から新しい方式に変わることが決まった。ただし関東圏のみで、スポットCMの取引上の話である点は留意してほしい。

どう変わるかは「ALL」と「P+C7」という記号で語られる。

個人のデータが大事になってきた

まず「ALL」とは、「世帯」ではなく「個人全体」の視聴率を測定していく、ということだ。全体だから「ALL」。

これまで世帯を測定基準にしてきたのには理由があった。テレビ放送はいわゆるお茶の間で同じ番組を家族みんなで見るのが高度成長時代に当たり前になった。だから世帯でどの番組を観ているかが、番組の人気のバロメーターだったし、CMの到達度のモノサシとして適切だった。商品を購入するのもほとんど世帯単位だったので話がわかりやすかったのだ。

だが実は世界の中で世帯単位の調査は日本だけだった。それにもはや家族で同じ番組を見る時代でもない。さらにスマートフォンをひとり一台持つようになった。マーケティング的にも、個人単位でどのテレビを見てどんなサイトをスマホで見ているかを追う必要が出てきた。世帯から個人への変化は、時代の反映であり、企業にとっての必要性がもたらすものだ。

タイムシフト視聴も指標に加わる

もうひとつが、「P+C7」。PとはProgram、番組のことであり、CとはCommercialつまりCMのことだ。リアルタイムの視聴率はこれまで通り番組をどう見たかを測る一方で、タイムシフト視聴でCMをどう見たかを7日後まで加算します、という意味だ。

タイムシフト視聴率は去年からビデオリサーチが公式に計測しはじめ、時々発表していた。ドラマの場合、リアルタイム視聴率と同じくらいタイムシフト視聴されるものもあるほどで、実はいまもまだまだドラマが人気だとわかってきた。

テレビ局としてはこのリアルタイム視聴率の数字をビジネスに生かしたいところだ。だがスポンサー企業からすると、番組を録画で見てもCMは大幅にスキップされているんだろうから払うお金を増やせないと考えていた。そこでタイムシフト視聴では、CMを見たかどうかを測定しますので、となったのだ。

広告代理店を挟んでテレビ局とスポンサー企業が交渉し、「値上げ」という形にならないよう計算方法を工夫してスポンサー側も納得した結果、来年4月からの具体化に流れができた。

「質」の高い番組が有利になる可能性

ではこの視聴率体系が変わることで、私たちテレビ視聴者にはどんな変化が起こるだろう。はっきり言って、当面変化は特になさそうだ。

というのはこの「P+C7」の数値は当然、7日以上経たないと計算できない。それもあって、これまでの数値は並行して使われる。放送直後に番組制作者が見るのは、リアルタイム視聴率なのだから変化はないのだ。最近、ネット上のニュース記事でテレビ番組の視聴率を扱うものが多いが、それも当面残るだろう。

ただ、じわじわ変化が起こる可能性はある。ドラマや、見応えのある作り込んだバラエティはC7の数値が高くなる傾向がある。これまではそういった「質」の高い番組が逆に視聴率を取りにくかった。じっくり後で見よう、とタイムシフト視聴する人が一定数いたはずだ。そうした視聴がビジネスに反映されるようになれば、作り手も「むしろタイムシフト視聴を意識して見応えのある番組を作ろう」と考えやすくなるはずだ。バラエティも芸人をひな壇に並べて瞬発的なコメントを言わせるものよりじっくりネタを見せる番組が有利になる可能性もある。

リアルタイム視聴のみを指標としている現状より、番組づくりに幅が出るかもしれないとしたら、視聴者にとってはいい流れと言えそうだ。

さらに今後は、様々な形でネットでの視聴も計測の中に加えるべくビデオリサーチでは準備をしているらしい。そうなると今度はネットを中心にした若い世代の視聴も反映されることもあり得る。ますます番組づくりに多様性が出てくることだろう。

価値観は多様化し、自分自身の目線がだいじに

アメリカではもう十年前からタイムシフト視聴を計測に加えてビジネスに使っている。そこからすると遅すぎた感もあるが、日本でもようやくテレビ視聴の多様性に対応しはじめた。良い流れだと思う。

そして読者の皆さんに提言したいのは、視聴率を気にしすぎないほうがいい、ということだ。スマホ時代になってから主にスポーツ紙が前日の視聴率を速報的に記事にしている。そういう記事がPVを獲得しやすい、つまりみんなが読んでしまうからだ。だが多くの人が気づいているように、視聴率は今や番組の尺度のひとつに過ぎない。私はそんな思いで時折ツイッターで盛り上がった番組をレポートするが、それもひとつだし、違うモノサシだってある。なにより大事なのは、あなた自身がどう感じたかだ。

一時期は確かに視聴率がほぼ番組の人気の尺度だったがもはやそうとも言えなくなっている。自分自身の感覚を大事にテレビ番組を楽しむことが大事だと思うがどうだろうか。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

境治の最近の記事