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「シン・ゴジラ」視聴質とツイッターから魅力を読み解く

境治コピーライター/メディアコンサルタント
「シン・ゴジラ」Blu-rayパッケージ

「シン・ゴジラ」テレビ放送時の”視聴質”は?

 今月12日夜、テレビ朝日系列で映画「シン・ゴジラ」が放送された。関東地区で15.2%と高い視聴率となり、様々に話題を呼んだ。筆者は昨年の劇場公開時にこの映画に惹きつけられ、合計4回見た。興奮して東宝のプロデューサーにインタビューしYahoo!でも掲載している。

→東宝はなぜ『#シン・ゴジラ』を庵野秀明氏に託したか~東宝 取締役映画調整部長・市川南氏インタビュー~

 3月に発売されたBlu-rayも購入してさらに堪能した。

 そして今回のテレビ放送も、いつでもBlu-rayで見ることができるにも関わらずリアルタイムで視聴してしまった。この映画には何かそういう、不思議に人を惹きつけるチカラがあるように思う。

 その魅力を解き明かす新鮮なデータが出てきたので見てもらいたい。TVision Insights社による新しい指標、“視聴質”だ。その基本情報については前にここで書いた記事を参照してもらいたい。

→「視聴質」1位は直虎?!番組をどれだけ集中して見ているかを測る会社、現る

視聴質グラフを細かく見てみる

 テレビの前にいる人の“顔”からどれだけ集中して番組を視聴しているかを数値化したものだが、「シン・ゴジラ」の放送中の視聴質を分単位で計測したのが下のグラフだ。

※元のリリースはこちらを見てほしい。→(TVision Insights社のリリースページ)

TVision Insights社リリースページより
TVision Insights社リリースページより

 まず、上陸して「蒲田くん」として大田区を荒らし回るシーンにひとつ目の山ができている。そしてマンションの中で逃げようとする若い家族が画面に出てきて、そのマンションを蒲田くんが倒してしまうシーンで、視聴質は最高潮に達した。この場面が映画全体の中で最高値となった。

 他にも印象的な場面がたくさんあるわけだが、「テレビ画面への集中度」ではここが最高値だった。数多くの死傷者が出たはずのこの物語の中で、唯一犠牲者が直接画面に出てきたシーンだ。しかも子どもがまだ幼い家族。ある意味、もっとも“残酷さ”を感じさせる場面が最高値というのもわかる気がする。

 その他、印象的な場面にはグラフに丸数字がついている。(1)は初めて断片的に姿を見せる呑川遡上シーン。(2)は進化してゴジラが立ったシーン。霞が関付近で猛烈な炎を吐くシーンでも山ができ、そのあと立川での泉ちゃんによる"水ドン"が(3)で示されている。

 クライマックスのヤシオリ作戦はやはり連続して高い視聴質を示し、周りのビルを壊してゴジラを倒すシーン、無人在来線爆弾のシーン、そして最後にゴジラが固まるシーンなどの数値が高かったという。

 ちなみに、TVision Insights社からは特別に、男女別の視聴質グラフももらったので、それも見てもらおう。

オレンジ色が男性、グレーが女性だ。

画像

 この映画に対する”男子”の燃え方があからさまに出ている。さっきのグラフが「1.5〜2.5」の間を推移していたのに対し、このグラフの男子のほうは3.0を超える部分も出ている。逆に女性のデータだけ見るとさほど高くない。ゴジラという存在にいかに男子が盛り上がったかがよくわかるだろう。

ツイート数の推移と比較する

 さてこの放送ではツイッターが盛り上がったことも話題のひとつだった。ソーシャルメディアの分析で知られるデータセクション社によるツイート数のデータでは、放送中のツイート数が20万を超えていた。

データ提供:データセクション社
データ提供:データセクション社

 今年9月29日の「天空の城ラピュタ」の放送でのツイート数は9万2000だったので、「シン・ゴジラ」はその倍だ。普通、ドラマのツイート数は1時間あたり5000でも十分多い方。ツイッターで記録破りの盛り上がりだった「逃げ恥」最終回でも1時間15分の放送時間に7万1千だったのでそれも超えたことになる。「シン・ゴジラ」は“何か叫びたくなる映画”なのだろう。

 さてこのツイート数の推移を、さっきの視聴質グラフに強引に重ねてみたのが下の図だ。

画像

 強引に作成したものなので見づらいのはご容赦願いたい。最初の上陸時の視聴質の山にツイート数の山を合わせてみたのだが、そうすると視聴質は最初の山を越えていなかったのに、ツイート数は後半に向けて盛り上がっていったのがわかる。とくにやはり霞が関付近で炎を都心に吐いた時と、ヤシオリ作戦でツイッターが大いに盛り上がった。

 上陸時、蒲田くんが登場してから進化して立つまでは画面に食い入るように見つめて、後半は画面にまた惹きつけられながらもツイッターで叫ぶ。そんな視聴を多くの人がしたと言えそうだ。

何度も何度も見て楽しむコンテンツ

 さてこうして視聴質とツイート数のグラフを見ていると、「シン・ゴジラ」のシンプルな構造がわかってくる。山場は3つあり、1つ目ではひたすら驚き、2つ目では徹底的に絶望し、3つ目は初めて反撃して一縷の希望を見出す。それぞれの山場には明確な役割があり、視聴者の目も心もそれにストレートに反応している。

 山場と山場の間は、物語上は次の山場への準備期間のようなものだが、視聴者はその間もざわざわとツイートを続けている。「ツイートタイム」を視聴者同士で話しながら楽しんでいる。だから視聴質が下がるわりにツイート数は落ちない。

 ツイートを見ていると明らかに「すでに見た人びと」がキターー!とばかりにシーンを楽しんでいるのがわかる。筆者もそうだったが、これまでに何度も見ていて個々のシーンをよく知っている人びとが、あらためて場面場面を味わうために見ているのだろう。その際に、ツイッターは重要な場だ。立川の場面で大勢が「水ドン、キター!」と叫んでいる。叫ぶのも楽しいし、その様子をタイムラインで見るのも楽しい。歌舞伎の名場面で観客がかけ声をあげるのと同じ楽しみ方なのだと思う。

 伝統あるキャラクター・ゴジラを変態させるというある種の”暴挙”が際立っているが、その実、綿密に考え抜かれていねいに作り込まれた物語であり映像であることが、データを眺めてあらためて感じられた。

 「シン・ゴジラ」はその名の通り、新型のコンテンツであり、一方で古典的なエンターテイメントでもあることがよくわかった。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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