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「視聴質」1位は直虎?!番組をどれだけ集中して見ているかを測る会社、現る

境治コピーライター/メディアコンサルタント
TVision Insights社リリース掲載データより筆者が表を作成

TVision Insights社が視聴質を発表!

 視聴率はいまやよく知られる数値だが、それだけでいいのか、という議論は前々からあった。それとは別に、本当に番組の良し悪しを測る「視聴質」ができないものか。議論はあったものの、こうすればいいという解は誰も見つけられないままだった。

 この古くて新しい課題に挑戦する会社がついに登場した。それがTVision Insights社だ。本国はアメリカだが日本法人も数年前から活動していて、筆者もその頃から交流していた。

 そのTVision Insights社が先週、10月11日付で「4月クールの視聴質ランキング」を発表した。さっそく取材に行ってきたのでレポートしてみよう。

 彼らが発表したリリースはWEB上で読むことができる。(→TVision Insights社リリースページ)ここではそこからデータを抜粋しつつ、取材した内容も織り込んでいく。

 まず上の画像は、彼らが発表した4月クールの視聴質ランキングから、上位5番組を筆者が表にしたものだ。(レギュラー番組の平均値を比べているので、特番や大きなスポーツの試合などは入っていない。)トップ5のうちNHKが3番組を占めた。また4番組がドラマで、それ以外では4位に日本テレビの人気番組「イッテQ!」がランクインしている。

 1位の「直虎」は大河ドラマなのでなんとなく納得がいくし、3位の「小さな巨人」も毎クール見応えがあるTBSの日曜劇場なので、なるほどと感じる。だが2位の「みをつくし料理帖」と5位の「4号警備」はドラマ好きの間でもさしたる話題にならなかった地味な番組だ。ホントかよ、とイチャモンのひとつも言いたくなる。

 そもそも「視聴質」って、いったいどうやって測定するんだ?誰しもそう思うだろう。

人体認識技術で「見る態度」を計測する

 どのように測定するのか、彼らのプレゼン資料からスライドを使わせてもらって解説しよう。簡単に言うと、「番組を見る姿勢や態度」を計測するのだ。

TVision Insights社プレゼン資料より
TVision Insights社プレゼン資料より

 テレビの上に置かれたセンサーで、リビングルームにいる人を観察する。右側の写真を見ると、顔を中心にセンサーで人を計測しているのがわかるだろう。個々の人物がどんな表情かまでわかるそうだ。

TVision Insights社プレゼン資料より
TVision Insights社プレゼン資料より

 センサーで何を計測しているか。指標は2つだ。スイッチが入ったテレビの前に人がいるかどうか。これがビューアビリティ・インデックスでVI値と略されている。番組をどれだけ見ているかは置いといて、とにかくテレビの前で番組が見られる状態にあるのがVI値だ。それが標準と比べてどうかを数値化したもの。

 もうひとつがアテンション・インデックスで、AI値と称されている。テレビの前にいる人の中でテレビに顔が向いている割合を数値化している。つまりテレビをちゃんと“視聴している“状態を示しているのだ。

 VI値は番組の内容を頭に入れているかどうかはわからない。テレビがついているがスマホに夢中になっているだけかもしれない。だがそれでも、とくにCMは何らかの効果を及ぼすだろう。集中してみてなくても、なんとなく頭に情報が入ってくればいい。CMを出稿するスポンサーにとってはそれで十分かもしれない。

 一方AIはテレビの前にいるだけでなく、視線を向けて集中して見ている。番組を評価しているから画面を見つめるのなら、それが番組の価値になるかもしれない。今回の発表ではVI×AIの値をランキング化している。番組の専念視聴を数値化したといえるからだそうだ。

 計測の仕組みがわかると、ドラマのほうがランキングに入りやすいことがわかる。またコミカルなものや展開の早いものなどだと数値が出にくいかもしれない。時代劇はお年寄りがじっくり見る傾向がありランキングを高める、というのもあるだろう。一方でバラエティなのに4位に入った「イッテQ!」がいかに視聴者の目を惹きつけているかもわかる。

ベスト20位と男女別のランキングから見える傾向

 さてベスト5は最初にお見せしたが、6位以降はどうだろう。またリリースには男女別のランキングも掲載されているので見てみよう。

 まず全体のベスト20だ。(スマートフォンでは文字が小さく読みづらいかもしれない)

TVision Insights社リリースより
TVision Insights社リリースより

 やはりドラマが多く、9番組を占めている。「CRISIS」や「あなそれ」「リバース」など、確かに見応え十分のドラマがランクインしている。面白いのが、テレビ東京のバラエティが多い点だ。なんと6本もランクイン。「ポケモン」も加えると20位中7本がテレビ東京だった。テレビ朝日の番組が一本もないのも不思議だ。

 次に男性のランキングを見てもらいたい。

TVision Insights社リリースより
TVision Insights社リリースより

 全体のランキング同様NHKのドラマが上位だが、テレビ東京のバラエティの存在感が増すのがまた面白い。また「がっちりマンデー!!」や「和風総本家」なぜか「新婚さんいらっしゃい!」など全体のランキングにはなかった番組が入ってくるのも興味深い。

TVision Insights社リリースより
TVision Insights社リリースより

 一方女性のランキングでは、「直虎」ではなく「小さな巨人」がトップを奪った。2位が「リバース」5位に「あなそれ」が来ていて、TBSドラマは女性の視聴質が高いと言えそうだ。「サワコの朝」「やすらぎの郷」「ザ・ノンフィクション」がランクインしているのも男性とはまったくちがうところだ。

 あなたが好きな番組が入っていたら、どんな点が「視聴質」を高めているか、考えてみると面白いだろう。

テレビの価値を多角的に測るデータが出てきた

 TVision Insights社のVI値、AI値は業界内でも注目を浴びつつあり、実際に採用して広告出稿に役立てるスポンサー企業も出てきた。自分たちがCMを出稿している番組やCMそのものがどう見られているかは、CM枠の購入には大金が必要な分、気になるにちがいない。

 同社以外でも、テレビ視聴にまつわる新しいデータがいま少しずつ出てきている。視聴率という「全体の量」とは別に、特定の世代や特定のプロフィール層がどう見ているかがわかったり、ネットなど他のメディアの行動と結びつけたりすることで、今までとは違うテレビ媒体の価値が見えてくるのだ。それらはあくまで、マーケティング上の価値であることは視聴率と同じだ。だが視聴者目線でもやはり視聴率が気になってしまい、好きな番組が低いとやきもきするものだ。視聴率とは別のデータがわかることで、納得したり安心したり驚いたりするかもしれない。視聴者にとっても、新しいデータは番組の価値を再発見させてくれる可能性がある。

 TVision Insights社は今後も定期的に視聴質のデータを公表していくそうだ。また新たな発見があったらお伝えしたい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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