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「恋ヘタ」で田中圭は、星野源・高橋一生に続くか?〜テレビとネットからブレイクを予測する〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
TVの出演数+話題の数を分母とし、ツイッターの人数を分子として1を超えるか

田中圭が「恋ヘタ」でブレイク寸前?

日本テレビ系列で木曜日深夜に放送中のドラマ「恋がヘタでも生きてます」が一部の若い女性の間で話題らしい。高梨臨主演のラブコメで、恋より仕事の主人公と、土村芳演じる恋愛一途の親友の対比的な恋模様が楽しい。

だが深夜12時スタートなので視聴率は3〜4%、放送中のTwitterもさほど多くはない。それがどうやら見逃し配信で驚くほど視聴されているらしいのだ。このドラマは読売テレビ制作で同社の配信サービス「MyDo」と、民放共同で運営する「TVer」の両方で配信されているが、どちらも記録的な再生数だと聞いた。ドラマの見方が変わりつつあるのだと思う。

話題の中でも、主人公を翻弄する青年社長を演じる田中圭の魅力が大きいようだ。いきなりキスしてきたりプレイボーイっぽいのだが、田中圭だからこそ許せると女性たちがキュンキュンきている。前のクールでも「東京タラレバ娘」で妻子持ちなのに口説いてくる男を演じて、普通ならゲスと言われそうなのに受け入れられていたようだ。

これは田中圭ブレイクということだろうか?去年の「逃げ恥」の星野源や年明けの「カルテット」での高橋一生のような急上昇を果たすのかもしれない。

テレビとネットのデータにブレイクの予兆がある

テレビ放送のメタデータを作成するエム・データという会社があり私も顧問として手伝っているのだが、その社内研究機関・ライフログ総研の梅田仁所長によると、TVデータ分析から次のブレイクの予兆が見えてくるという。

まずTVデータのうち、あるタレントの出演秒数と、出演してはいないが話題として番組に取り上げられた秒数とを算出する。それと、そのタレントについてのツイートした人の数を対比する。

<ツイートした人数÷(出演秒数+話題秒数)>を計算し、それが1を超えることが稀にある。それはつまり、テレビにさほど出演も取り上げられもしてないのに、ネット上では話題になっている状態だ。これを梅田氏は「T Ratio」と名付けている。T Ratioが1を超える状態がある程度出てくると、それがブレイクの予兆ではないかと考えているそうだ。

星野源についてのデータを見せてもらうと、確かに見事にそれが現れている。

星野源のTV出演秒数・話題秒数・ツイートした人数とT Ratio推移(2016年)
星野源のTV出演秒数・話題秒数・ツイートした人数とT Ratio推移(2016年)

星野源は、10月の「逃げ恥」スタート前はテレビ出演はさほど多くはなかったのにネット上では終始ツイートされており、T Ratioは基本的に「1」を超えていた。言わば沸騰寸前だったのだ。それが「逃げ恥」で新垣結衣の相手役となって一気に沸騰しブレイクした。あとはメジャーな番組に出るだけの”最終潜伏期間”が半年以上続いていたので、ドラマ出演がスイッチとなった。

では高橋一生はどうだろう。同様のグラフを梅田氏に作成してもらったのがこれだ。

高橋一生のTV出演秒数・話題秒数・ツイートした人数とT Ratio推移(2016年)
高橋一生のTV出演秒数・話題秒数・ツイートした人数とT Ratio推移(2016年)

このグラフもかなりわかりやすい結果が出てきた。やはり出演も話題もさほど頻繁ではないがネット上ではずーっとツイートが続いており3月に一度T Ratioが1を超えた。そして8月以降1を超えたりすれすれの期間が続いて12月にまた大きく山ができている。

星野源と同じく、沸騰寸前が続いて沸点を超えるのを待つだけだったのだ。

田中圭のデータも見てみよう。

田中圭のTV出演秒数・話題秒数・ツイートした人数とT Ratio推移(2016年)
田中圭のTV出演秒数・話題秒数・ツイートした人数とT Ratio推移(2016年)

前の二人に比べると、T Ratioがまだ高まってはいない。5月と12月に1を超えた山ができているが、沸騰寸前の最終潜伏期間にはまだ至っていないと言えそうだ。星野源・高橋一生と比べると、本当のブレイクはもう少し先かもしれない。「恋ヘタ」に続いてどんなドラマに出るのかが、ポイントになりそうだ。

Twitterで潜在し、テレビで顕在化する人気

こうして見ていくと、テレビとネットのタレントについてのデータはそれぞれ人びとの人気を表しているようだ。Twitterデータに頻繁に出てくるタレントは、テレビで露出しなくても人気が出てきている証であり、男性タレントでいうと女性たちがささやきあっている現象なのだろう。言ってみれば、潜伏している人気だ。それがテレビでメジャーな出演をすることで、顕在化する。自他共に認める人気者になるのだ。

そう言えば「逃げ恥」放送中に星野源の人気が高まると、女性たちが「やっぱりね」「そうだよね」と言っているのを見かけた。積極的に発言する人はすでにツイートしていたのだが、やや警戒して発言する人は言葉にしていなかった。それが”ブレイク”によって口に出しやすくなったのだろう。多くの女性たちがとっくに星野源の魅力に気づいていたのだ。

この辺りも、最近の”ブレイク”の興味深いところだと思う。私は星野源を数年前のドラマ「11人もいる」で認知したのだが、最初の印象は「なんて普通の男なんだ」だった。高橋一生もキャリアが子役時代から長い分、ずっと”見たことある役者”だった。二人ともわかりやすいハンサムではない。そんなタレントの魅力を、女性たちはすでに発見していた。それがTwitterには現れていたし、ブレイクが待たれていたのだ。二人とも、そして田中圭もすでにかなりのキャリアがある。年齢も30才を超えている。パッと出てきてキャーキャー言われるタイプではない分、深い魅力を持っていると言えるのかもしれない。

テレビとネットの関係から、タレントとファンの新しい関係ができつつあるのかもしれない。その芽を、作り手の側は見逃してはならないだろう。

梅田氏の分析は5月からツールとして完成するそうなので、私も積極的に使ってみて、次のブレイクの”芽”を見つけていきたい。新しい星が発見できたら、またここで記事にしたいと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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