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川栄李奈が不気味なヒロインを「素のままのテンション」で。「いつもの私は元気なキャラとは違います」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/河野英喜

不可解な間取りが謎を呼び、YouTube動画からベストセラーとなった『変な家』が映画化された。真相解明に動く動画クリエイターに連絡してきた謎めくヒロインを、川栄李奈が演じている。元気な役が多い中で、いつになく暗さを醸し出す役だ。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のヒロインから放送中の『となりのナースエイド』で主演など、実力を備えた屈指の人気女優となった現在の胸中は?

ビタミンと書いてあるものを何でも飲んでます

――ずっと引っ張りダコの川栄さんですが、最近は主演ドラマの『となりのナースエイド』の撮影に、同じく主演の舞台『千と千尋の神隠し』の稽古もあって、体的にはキツくないですか?

川栄 そうですね。6年ぶりの舞台の稽古とドラマを縫うのは、結構大変です。体はもともとそんなに丈夫でなくて、すぐ風邪をひくんですけど、メンタル面は落ち込んだりしないで保っています。

――何か健康のためにしていることはありますか?

川栄 ビタミンと書いてあるものを飲んでいます。体に良いのかなと思って、ビタミンとか鉄分入りとか免疫ケアみたいな飲み物は、気づいたら手に取っています。

――主役だと台詞量も莫大かと思いますが、『となりのナースエイド』ではクランクイン前に、3話分の台本を覚えていたとか。

川栄 記憶力がわりと良いほうで、覚えるのは早いです。台詞が多くて大変、覚えられないということはありません。

ヘア&メイク/KUMI(LODGE Corp.) スタイリング/ 中井彩乃
ヘア&メイク/KUMI(LODGE Corp.) スタイリング/ 中井彩乃

異常な感覚を持つ人間の映画が好きで

――『変な家』の原作となった雨穴さんのYouTubeは、もともとご覧になっていたそうですね。

川栄 観ていました。バズっていて、おすすめに出てきたので。間取りが確かに変で、すごく面白かったです。実写化されることになって、まさか自分がお話をいただくとは思わなくて「エッ?」とビックリしましたけど、嬉しかったです。

――ゾッとするような話がお好きだとか。

川栄 好きですね。だから、ホラーなのか人間が何かしたのかよくわからない、一軒の間取りから始まるこの物語は、面白そうに思いました。

――一番好きな作品が『ムカデ人間』だとか。

川栄 はい。サイコパス的な異常な感覚の人たちの映画が好きです。今回の『変な家』でも、まさに人間のゾクッとする部分が出てくるので、撮影がすごく楽しみでした。怖い系だと、幼少期から『呪怨』や『リング』も好きでした。

――子どもの頃から、そういう作品をキャーキャー言いながら観る感じでもなくて?

川栄 家族で普通に観ていました。『変な家』の試写会でも、そんな感じでした。

――普段から怖いものはないんですか?

川栄 おばけは好きではないですけど(笑)、たとえば心霊的な現象が起きても、普通の人よりビビらないと思います。

誰だかわからないような役は念願でした

――そういう怖い映画に、自分が出たいというのもあったんですか?

川栄 ずっと「ホラー映画に出たい」と言ってました。今までは『ほん怖(ほんとにあった怖い話)』くらいしかなくて。『変な家』はホラーではないですけど、不気味な役はすごくやりたいと思っていました。序盤は顔も見えてない、誰だかわからないような役ができて、念願が叶いました。

――この柚希ほど、テンションがローな役もなかったのでは?

川栄 あまりやってこなかったような役柄ですけど、演じやすかったです。いつもは元気なキャラクターが多くて。でも、実際の私は、そんなにテンションが高いわけでもないんです。元気キャラをやるときは声のトーンを上げたり、現場に行ったら切り替えて頑張らなければ……という。今回は笑うシーンも全然なく、ボソボソとしゃべったりするのが、すごく楽で楽しかったです。

――テンションを下げないといけないわけでもなくて?

川栄 そうですね。普通にしゃべるくらいのテンションだったかもしれません。

――逆に『となりのナースエイド』や『カムカムエヴリバディ』では、すごく上げていたんですか?

川栄 気を付けていないと、すぐ監督に「ちょっとテンションが落ちちゃいました」と言われていました。

青白い顔にして前髪で目を隠して

――柚希役ではメイクもしてないようですね。

川栄 ほとんどしていません。青い下地を使って、顔を蒼白にさせていました。あと、インの前に頭のサイズを測って、専用の前髪のウィッグを作ってもらいました。外見から不気味さを出せたかなと思います。

――あの髪だと、前が見えなくなかったですか?

川栄 本当に見辛かったです(笑)。髪が目に掛かって入っちゃたりもするし、結構大変でした。

――常に怯えているような感じは意識したんですか?

川栄 いつもあまり役を作り込むタイプではなくて。台本を読んで思ったままに演じてみて、監督に言われたら直すという感じです。今回もそうでした。

――役作り的なことをしたり、参考に何かを観たりもしなかったと?

川栄 あまりしないタイプかもしれません。メイクと衣装をすごくこだわっていただいたので、そこから役を作ってもらった感覚です。

(C)2024「変な家」製作委員会
(C)2024「変な家」製作委員会

この自分は幽霊なのかと思うくらいに

――劇中で、間宮祥太朗さんが演じる動画クリエイターの雨宮が見た柚希が、奇怪な表情をしている場面がありました。

川栄 あのシーンは、監督が本読みの段階から、だいぶこだわっていました。首の角度や目の開き具合を何パターンか撮って、私は言われるがままに(笑)。シンプルに不気味に見せたいということで、完成して観たら、これは幽霊なのかなと思うくらいになっていました。

――クライマックスに向けて、間取りがテーマの映画らしい場面もあって。

川栄 セットがすごくリアルで暗かったりして、楽しかったです。

――暗くて怖いでなく、楽しかったと(笑)。

川栄 迷路みたいな感覚でした。出来上がった映像では、みんなビクビクしていますけど、「ここに隠れられるんだ」「こっちから行けるんだ」みたいな感じで楽しんでいました。

――佐藤二朗さんが演じる設計士の栗原の台詞に「これ以上踏み込めば、取り返しのつかないことになるかもしれません」というのがありました。そこまでいかなくても、川栄さんの人生の岐路で、勇気が要る決断をしたことはありますか?

川栄 特にないです。自分の人生は自分で決めるもの。決めたからには、その道を進むしかないと思っているので。悩んで家族や友だちの意見は聞いても、8割くらい自分でしたい通りにしています(笑)。

監督それぞれの作り方に合わせられるように

――今の川栄さんは、どんな役も自信を持って演じているようですね。

川栄 自信はありません。監督さんによって作品の作り方が全然違って、そこに自分が合わせることを常に頭に置いて、一生懸命にやるだけだと思っています。

――以前も自分の役者としての長所に、「監督の意思を取り入れる」「すぐ軌道修正できる」といったことを挙げていました。そこは変わらず?

川栄 はい。「必ずこうしてほしい」という監督さんもいれば、「自由にやっていい」という方もいる。要望に合わせるようにしています。

――大きな役も含めて経験値が上がった中で、さらに自分の武器が増えてもいませんか?

川栄 朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の経験はすごく大きかったです。深津(絵里)さんとご一緒させてもらって、自分の意見をきちんと伝えることの大切さを学ばせていただきました。それまでは自分が思うことがあっても、監督に言われたら「わかりました」と全部飲み込んでいたんです。最近は『となりのナースエイド』の現場でも、演じるキャラクターを自分で噛み砕いたうえで「私はこう思います」と、監督に伝えるようにしています。そういう意見を言ったほうが、作品がさらに良くなると思うので。

切り替えの速さは長けているかもしれません

――業界では川栄さんについて、「天才肌」とか「器用」といった声をよく聞きます。

川栄 自分ではそうは思っていません。ただ、今もですけど作品が重なっていても、切り替えができる速さは長けているかもしれません。役を引きずることはないですし、何コ同時にやっていても、どっちがどっちかわからなくなることもありません。いつも現場を離れたら「はい、終わり」という感じです。

――遡ると、川栄さんが女優を志したのは『ごめんね青春!』がきっかけだったとか。あのときのキレキャラ的な役に開放感があったんですか?

川栄 というより、当時はAKB48にいて、外に出たことがなかったので。同世代の俳優さんとお仕事をするのが刺激的で、皆さんのお芝居をいいなと感じました。志も高い方ばかりなのを目の当たりにして、自分もお芝居一本でやっていきたいと思ったんです。

――その頃と今では、演技のやり甲斐や面白みは変わりました?

川栄 一番大きいのは、共演者の方とか監督とか、いろいろな方に出会えることです。良いところを盗んで自分も成長できるのが、このお仕事の良さだと思っていて。お芝居も大切ですけど、人のお芝居への向き合い方を学ぶことが増えました。

――『変な家』でも、そういう学びはありました?

川栄 二朗さんも間宮さんも本当に真面目で、お芝居に対する熱量を近くで感じました。二朗さんは自分のプランを「ここはこうしたいです」と監督にきちんと伝えて、さらに間宮さんに「これだとやり辛くない?」と聞いていたり。間宮さんも監督に言われたことをやりつつ、自分のアイデアを入れたり、そういうことがナチュラルにできる方々だなと思いました。

ずっと作品に出られるわけではないので

――今までのキャリアで、特にハードルが高かったような役はありますか?

川栄 6月に公開される『ディア・ファミリー』という映画は、実際にあったお話なんです。実在する方の役で、ご本人がご覧になって「こうではなかった」と思われたらダメなので、いつも以上に大切に演じなければと思いました。

――AKB48を卒業して、自分が女優としてやっていけると思うようになったのは、いつ頃でした?

川栄 今も思ってないです。素敵な役者の方はたくさんいて、新しい方々も次々に出てくるので。これからもずっと出続けるのが当たり前ではないし、とても大変な世界だと感じていて、浮かれることはまったくありません。ただ、以前にご一緒した監督さんやスタッフの方が、またお話をくださったりすると、やっていて良かったなと嬉しくなります。

――前回の演技が評価された証明ですからね。

川栄 ひとつひとつの作品や出会いを、大切にしていきたいと思っています。

観る方の心を動かせるようになりたくて

――映画出演は3年ぶりですが、自分では普段よく観ますか?

川栄 最近は忙しくて全然観られていませんけど、休みのときは結構観ます。自分が観たかった作品を映画館で観ると、演者さんのお芝居が素晴らしいなと思うし、感動して涙することもあります。自分もそんなふうに、観る方の心を動かせるようになりたいと、いつも考えています。

――今まで、どんな作品を観て、そんなふうに思いました?

川栄 『ラーゲリより愛を込めて』はすごく良かったです。シベリアの強制収容所の捕虜の話で、実力のある役者さんたちが集まって。1人1人の方がすごい熱量を注いで、ひとつの作品を作り上げたことが、スクリーンから伝わりました。

――『変な家』は客観的に観ると、どう感じました?

川栄 ハラハラ、ドキドキする展開がいろいろ待ち受けていて、最後まで飽きずに観られました。柚希も不気味で、謎のキャラクターというところが出せたのかなと思います。

出続けなくても声が掛かる役者になれたら

――『変な家』の撮影について、カメラが回ってないときのことも含めて、改めて思い出したことも?

川栄 作品はシリアスですけど、現場ではワイワイとくだらない話をしたりしていました。間宮さんや二朗さん、瀧本美織さんとも以前共演したことがあったので、初めから楽しく撮影できた気がします。

――どの現場でも、そういう輪には自然に入れるほうですか?

川栄 人見知りはしますけど、最近は年下の方と共演することが多くなって。自分から話し掛けるようにしています。

――今も出演作が絶えず、主演やヒロインも多くなった川栄さんですが、「もっと売れたい」みたいな野心もありますか?

川栄 以前はとにかく作品に出続けてないとダメだ、忘れられてしまうと思っていて、頑張りすぎて疲れてしまう部分がありました。これからは少し余裕を持って、ひとつひとつの作品を楽しめるようになりたいと、最近は思っています。そういう意味で、ずっと出ていなくても、また声を掛けていただける役者になりたいです。

――仕事以外では、人生で成し遂げたいことはありますか?

川栄 本当に、ただお仕事を長く続けられたらいいなと。あとはとにかく、楽しく生きていきたいです!

撮影/河野英喜

Profile

川栄李奈(かわえい・りな)

1995年2月12日生まれ、神奈川県出身。2010年にAKB48に加入し、2015年に卒業。舞台『AZUMI 幕末編』に主演して本格的に女優活動を開始。主な出演作はドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』、『いだてん~東京オリムピック噺~』、『カムカムエヴリバディ』、『親愛なる僕へ殺意をこめて』、映画『恋のしずく』、『人魚の眠る家』、『泣くな赤鬼』、舞台『カレフォン』など。ドラマ『となりのナースエイド』(日本テレビ系)に出演中。舞台『千と千尋の神隠し』(3月11日~30日/帝国劇場ほか)にクワトロキャストで主演。映画『変な家』が3月15日より公開。『ディア・ファミリー』が6月14日より公開。

『変な家』

原作/雨穴 監督/石川淳一 脚本/丑尾健太郎

出演/間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈ほか

3月15日より全国東宝系にて公開

公式HP

(C)2024「変な家」製作委員会
(C)2024「変な家」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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