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小芝風花は4クール連続ヒロインをどう成し遂げたか 「10代の頃に植えてきた種から芽が出た感じです」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
オスカープロモーション提供(衣装協力/ジョイフル恵利、振袖ハクビ)

1月18日スタートの『大奥』で、4クール続けて連続ドラマの主演やヒロインを務める小芝風花。今や最も売れっ子の若手女優となり、いっそうの輝きを放っている。多忙を極めながらも持ち前の明るさを失くさない彼女のマインドセットを、昨年を振り返りながら探ると、ここまでの躍進を遂げた背景も浮かび上がった。

ゆったりした時間を確保しようと考えました

――2023年は「怒涛の1年」とコメントされていました。充実感はありました? あるいは、目まぐるしく過ぎていった感じですか?

小芝 充実はしていました。いろいろな役をいただけて、挑戦的な役柄にも巡り合えたので。ただ、目まぐるしかったのも本当です。その中でゆったりできる時間を確保しようとか、1日24時間の使い方を考えた年でした。

――ゆったりする時間、確保できました?

小芝 がっつり休息というのはなかなかできませんけど、お風呂に浸かりながらYouTubeを観たり、音楽を聴いたり。お仕事のことを考えない時間を作ることは意識しました。

――主演やヒロイン役が毎クール続くと、切り替えも大変だったのでは?

小芝 私はわりと役の切り替えは得意です。似た役が続くより、気分も変わりますから。ただ、『波よ聞いてくれ』から『転職の魔王様』は極端に変わりすぎて(笑)。破天荒なDJ役から、パワハラで心を病んでしまった役というギャップがすごくて、いつもより切り替えに時間が掛かりました。

どれだけ疲れても野菜1個は絶対切ろうと

――そこから『フェルマーの料理』のシェフ役はスムーズに?

小芝 はい。でも、『あきない世傳 金と銀』と同時期に撮影していたので大変でした。スケジュールを縫って、お休みはなかったから、体力面でのしんどさがあって。限られた時間の中で、役にどれだけ向き合えるかも課題でした。

――同時期に主役とヒロインの2本。しかも『フェルマーの料理』では、包丁さばきとか料理の練習もあったんですよね?

小芝 そうなんです。まだ『転職の魔王様』を撮影していた時期に料理指導が始まりました。毎日撮影が終わったら、どれだけ疲れていても、野菜1個は絶対に切ることをノルマにしていて。料理は以前からしていましたけど、包丁で切るのもトン、トン、トンとゆっくりだったんです。それだとシェフには見えないので、毎日切って切って、速くできるように練習をしていました。

――そんなハードスケジュールも乗り切れるのは、もともとお体も丈夫だからですか?

小芝 そう思っていたんですけど、年齢を重ねてきて、疲れが蓄積されると体に現れてしまうことを、この1年で初めて知りました。それはたぶん映像で伝わってしまう気がします。だから過信せず、ちゃんと自分をいたわることも大事だなと。鍼とかマッサージとか、体のメンテナンスにも力を入れたいと思っています。心身共に元気でいることが新年の抱負です。

ナチュラルな所作は勉強になります

――今回はオスカープロモーション恒例の晴れ着撮影会で取材時間をいただきましたが、新年に掛けて着物でご出演の作品が続きます。ご自分でも馴染みますか?

小芝 すごく好きです。帯を締められると、背筋がキュッと伸びる感じがして。時代劇となると、今日の晴れ着みたいにきれいに撮っていただくだけでなく、日常のナチュラルさが求められるので、所作だったり勉強になることばかりです。

――時代劇にはこれまでも出演されてきて、所作はだいぶ身に付いたのでは?

小芝 最後に出たのが5年くらい前なんです。『あきない世傳』でも所作の先生に入ってもらって、厳しめにいろいろ教えていただきました。

――改めて、着物の所作のどんなことが特に難しいですか?

小芝 お着物で座るときって、裾をさばきますよね。でも、あれは実際やらないそうです。きれいだと思うんですけど、お尻が出てカッコ悪いと言われました。芸者さんはやるけど、日常ではやらないと。それがいいと思ってクセになってしまっていたから、抜けるまで結構時間が掛かって。裾が乱れない座り方を教わりました。

時代劇はタイムスリップする感じが楽しくて

――1月から、また主演ドラマ『大奥』が始まりますが、時代劇だと演技的にも違うスイッチが入る感じですか?

小芝 そうですね。現実と非現実の狭間みたいな感覚があります。感情はリアルだけど、世界観や価値観は現代とは違う。常識や日常から別なところで、ナチュラルに演じるのが不思議な感じで楽しいです。

――そこが時代劇の面白み?

小芝 今は当たり前のことがこの時代はダメだったとか、初めて知ることもあります。歴史の勉強をしていても、日常の動きまではわからない。そういう時代にタイムスリップするような感じもします。セットの建物も現代と全然違っていて、そんな空間にいるのが面白くて。

――なるほど。タイムスリップ感ですか。

小芝 女性の立場が弱かった時代だと、こんなに生きにくかったのかとも感じます。だからこそ、今この自由な時代でもっとやりたいことをしてもいいなと、力をもらえたりもします。

――仕事を始める前から、時代劇に馴染みはあったんですか?

小芝 フィギュアスケートとか習いごとばかりしていて、ドラマ自体、あまり観てなくて。このお仕事を始めてから、触れるようになりました。教科書で歴史を勉強するのも苦手でしたけど、自分がその世界に入ったら興味が湧いて、気になったことを調べたりもします。『あきない世傳』は呉服屋のお話で、着物について学んでワクワクしました。

本場の京都での撮影にドキドキしています

――『大奥』について、「人間のドロドロとしたものがギュッと詰め込まれているイメージ」とコメントされていました。過去の作品をご覧になったことがあるんですか?

小芝 ちゃんと観たことはないですけど、母から話を聞いていました。今回も「『美味でございます』と言う人はいるの?」と聞かれたくらい(笑)、熱心に観ていたみたいで。それで、女のいけず、権力を争う足の引っ張り合い……というイメージがあったんです。でも、今回の『大奥』は愛をテーマにしていて、シリーズ史上、一番切ないストーリーになりそうです。

――演じる五十宮倫子は皇室の血を引く公家の娘。気品もまとうようにしていきますか?

小芝 『あきない世傳』と時代は同じなんです。だけど生まれによって、こんなにも違うんだと感じました。倫子は姫で、純粋さや真っすぐさ、無邪気さを残しつつ、大奥の御台所としてトップに立つので。話が進むにつれて、どんどん貫禄を出していけたらと思っています。

――衣装やセットも豪華なんですよね。

小芝 (取材日時点で)私はまだクランクインしてないんです。『フェルマー』と『あきない世傳』が終わってから合流しますけど、京都で3ヵ月も撮影するのは初めてで、ドキドキしています。時代劇といえば京都。本場での撮影は嬉しさ半分、怖さ半分みたいな感じです。

――やはり事前の準備には、あまり時間は取れない状況ですか?

小芝 なかなか難しいですね。その中で台本を読み込んで、どこまで役を深められるか。ありがたいことに『あきない世傳』と同じ時代だから、世の中の出来事とかリンクする部分があって、少し助かっています。

内心バチバチして実力で勝とうとしてました

――今回の『大奥』でも、女たちの熾烈な戦いは描かれるんですよね?

小芝 ちゃんとドロドロします(笑)。でも、回を追うごとにそれぞれの人間的な部分や、大奥の世界でこうならざるを得なかったことが描かれて。制作側のキャラクターたちへの愛が感じられる分、切なくなる気がします。

――芸能界でも形は違えど、熾烈な戦いはありますよね?

小芝 芸能界に入って間もない頃、洗礼は受けました。意地悪されたことがあって、こういう世界なのかと思いました。もちろん、そんな人たちばかりではないですけど、オーディションでひとつの役を争って、10代で頑張ろうとしている人たちが集まったら、そうなることもあるのかなと。

――そんな世界で、小芝さんは勝ち抜いてきました。

小芝 私は内心バチバチしているタイプで、ある意味、負けず嫌いが過ぎるかもしれません。人に意地悪をしたり足を引っ張るのは、そうしないと勝てないと自分で負けを認めているようなもの。恥ずかしくないのかなと思っていました。私はちゃんと実力で勝ちたくて、お芝居の勉強をしたりコツコツやってきました。

――「負けないぞ」という気持ちは、やっぱりあったわけですね。

小芝 オーディションに落ちたら、もちろん悔しいし、「この役は絶対やりたかった」ということもあります。でも、選ばれた人に対して負けないというより、「いつか監督に『あのとき小芝を選んでおけば良かった』と後悔されるくらいになってやる!」という負けず嫌いがありました。

『大奥』より (C)フジテレビ
『大奥』より (C)フジテレビ

1シーンでももう1回声を掛けてもらえるように

――『大奥』で描かれるような、妬みの感情を抱くこともありました?

小芝 年々なくなってきました。10代の頃は「何で?」と思ったこともいっぱいありましたけど、今振り返ると、見た目や声や話し方も含めて、役のイメージがあるので。自分には合わない役だったんだ、もっと合う人がいたんだと考えられるようになりました。

――だんだん次々と声が掛かるようになり、今に至っています。自分では、何が女優としての強みになっていると思いますか?

小芝 昔は1話に1シーンしか出番がないような役もありました。そういうときも「もう1回お仕事をしたい」と思ってもらえるように、できる限りのことをコツコツやってきました。監督やスタッフさんとコミュニケーションも取るようにして、本当に少しずつ、2度目、3度目と声を掛けてくださることが増えました。20歳を越えたくらいで、植えてきた種から芽が出始めた気がします。大きな役を任せていただけるようにもなって。

――確かに、小芝さんは脇役を演じていた時期もありました。

小芝 10代の頃、同世代の方々がバーンと売れていったとき、私は一歩一歩、進んできました。みんなが飛び級している中で、ゆっくりではありましたけど、私にとって必要な何年間かだったと、今になって思えます。

――焦ったりはしませんでした?

小芝 私は急に駆け上るタイプではないと思っていたので。脇役で出させてもらっているうちに、「次はこういう役で見たい」と声を掛けていただくことが、20歳を越えたら本当に多くなってきたんです。2度目にご一緒するときは、自分のことを知ったうえで期待してくれますから、それ以上のものをお返しできるように、毎回の現場で心掛けています。それで信頼がちょっとずつ、繋がってきた感じがします。

『大奥』より (C)フジテレビ
『大奥』より (C)フジテレビ

表情がコロコロ変わるのが面白いみたいで

――演技に関して、他の人に負けないと思っていることもありますか?

小芝 客観的には見られませんし、正解はなくて観る方の好みもあるからわかりませんけど、「表情がコロコロ変わるのが面白い」とは言ってもらいます。表情筋が豊かなんですかね(笑)。

――意識して、いろいろな表情を見せているわけではなくて。

小芝 先輩方に「お芝居はコミュニケーション」と言われて、受け取ることをすごく大事にしています。自分が台詞を話す前に、相手の台詞や表情のどこに、こちらの感情が動くのか。受け取ってから、お芝居を返す。ていねいにリアクションをしていたら、感情豊かな役が多かったこともあって、ファンの方にも表情の変化を楽しんでもらえるようになりました。それは武器かもしれません。

――現場で頑張る他に、日ごろから演技力を上げるために努力していることもありますか?

小芝 昔はいろいろな作品を観ていました。今は自分の台本を覚えることに追われて、ちょっと観られなくなってしまって。でも、自分のお芝居を観て、反省会はしています。「こういう表情をしたほうが良かった。こういう言い回しのほうが伝わったかな」とか考えて、次に活かせるようにします。

タップはベニヤ板を買って家でも練習しました

――2月には主演映画『レディ加賀』が公開されます。加賀温泉の旅館の新米女将たちが、町おこしのためにタップダンスのチームを結成するストーリーですが、これはいつ撮ったんですか?

小芝 去年の5月、6月ですね。お話をいただいたとき、着物でタップダンスというのが、和と洋の融合で面白いなと思いました。タップにも興味があったので、教えていただけるなら、ぜひやりたいと。

――タップダンスの練習には9ヵ月掛けたとか。

小芝 そうです。他の作品が入って通えない時期もありましたけど、ベニヤ板を買って家でも毎日練習していました。先生が鳴らす音を聞いていると、すごくカッコ良くて。足踏みをしているだけで、なんでこんなにいっぱい音が出るのか。自分もそんなふうにできたらいいなとワクワクして、楽しくできました。

――上達は早かったんですか?

小芝 先生には誉めてもらいました。自分の中で決めていたのが、習ったことは次のレッスンまでにちゃんとできるようにしようと。自主練もしていたので、サクサク進んでいきました。

温泉に一緒に入って仲良くなりました

――タップを練習していて、足が痛くなったりはしませんでした?

小芝 一度、膝に体重を掛けるだけで激痛が走って。先生に紹介された整骨院で、鍼で電気を流す治療を受けました。すると、痛みがウソみたいになくなったんです。

――普段イスに座っていても、足を踏み鳴らすようになったりも?

小芝 たまにやっちゃいます。フラットシューズを履いていると、何か鳴らしたくなってしまって。落ち着きのない子みたいになっていると思いますけど(笑)。せっかく9ヵ月も練習して身に付けたので、時間が取れたらまた習いに行って、趣味にできたらと思っています。

――他に『レディ加賀』の撮影で、印象深いことはありますか?

小芝 ちょうど加賀での撮影が始まってすぐの頃、菖蒲湯まつりというお祭りがあって、出演者のみんなで行ったんです。そこから一気に仲良くなりました。女性キャストがたくさん出ていて、泊まっていた宿に温泉があったから、毎日のように一緒に入って。裸のつき合いで、キュッと距離が縮まりました。

(C)映画「レディ加賀」製作委員会
(C)映画「レディ加賀」製作委員会

バーンと行くよりコツコツ進んでいけたら

――小芝さんはすでに若手トップ女優ですが、さらに売れたいとか、野心的なものは持っていますか?

小芝 そういうのも年々なくなってきました。『大奥』のあとにも決まっている作品があって、求めていただけることが嬉しくて。ひとつひとつの作品で、期待していただいた以上のものをお返しする。それが観てくださる方に伝わったり、またお仕事をしたいと思ってもらって、ちょっとずつ広がっていったら幸せです。

――変わらないスタンスで、積み重ねなんですね。

小芝 私の性格的にバーンと行くより、コツコツ進む感じなので。マイペースで、周りを気にしすぎずに行けたら。向上心はありますけど、世間的にどうこうより、お芝居を磨いていきたいです。だから、野心はあると言えばあるけど、ないと言えばないかな。

――逆に、もう少しゆっくりしたいとは思いませんか?

小芝 プライベートの充実も大事だと、すごく感じています。家族とおいしいごはんを食べたり、友だちと会ってお話しする時間は欲しいです。10代や20代前半はガムシャラにやってきましたけど、年齢を重ねてきて、やりたいこともありますし、ちょっとずつ環境を整えていけたら。

――売れっ子状態は今年も続くと思いますが。

小芝 お仕事はやり甲斐もあって大好きなので、たくさんやらせていただくのは全然大丈夫です。その中で、お買い物に行ったり、リラックスできる時間がもう少しあればいいなと。

頑張っている自分にご褒美もあげないと(笑)

――『転職の魔王様』での取材で「沖縄に旅行に行きたい」との話がありました。行けたんですか?

小芝 計画を立てていたんですけど、忘れもしない台風6号が来て、ダメになってしまいました。それで母と熱川温泉に行って、うなぎを食べて帰りました。

――それはそれで良かったのでは?

小芝 そういう楽しみは作りたいです。せっかく頑張っているんだから、自分にもご褒美をあげないと(笑)。

――結果的に、仕事のためのインプットにもなるでしょうね。

小芝 そう思います。今はアウトプットが多いですけど、何かをしたからどうこうではなく、ボーッと何も考えない時間があると、新たにやりたいことが出てきたりもしますから。

――今年、仕事の他にやりたいこともありますか?

小芝 いつか47都道府県を全部、旅行したいと思っていて。2024年は最低でも5県は行きたいです。最初は絶対に沖縄、それと4県。仕事で行くのは入れないので、石川にもまたプライベートで行こうと思っています。

――仕事でさらに身に付けたいこともありますか?

小芝 今でも、演じたことのない役柄のほうが全然多いんです。医療ものもまだありませんし、悪い役も経験ないので。面白い作品に出会って、幅を広げていけたらいいですね。その都度、求められるものに応えて、お母さん役、おばあさん役まで演じられるように重ねていきたいです。

Profile

小芝風花(こしば・ふうか)

1997年4月16日生まれ、大阪府出身。「ガールズオーディション2011」でグランプリ。2012年にドラマ『息もできない夏』で女優デビュー。2014年に『魔女の宅急便』で映画デビューと初主演。主な出演作はドラマ『あさが来た』、『トクサツガガガ』、『彼女はキレイだった』、『波よ聞いてくれ』、『転職の魔王様』、映画『天使のいる図書館』、『文福茶釜』、『貞子DX』ほか。1月18日スタートのドラマ『大奥』(フジテレビ系)、2月9日公開の映画『レディ加賀』に主演。『ぐるぐるナインティナイン グルメチキンレース・ゴチになります!24』(日本テレビ系)に出演中。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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